第13話 極道系薬剤

 過去世界で販売されている極道系薬剤会社の薬剤は、合金めっき液中に含まれる金属イオンがめっきされたときの合金比率を一定に保つために使われます。金属イオンをカニのハサミのように抱き込んだ「金属キレート」という名の金属アミン系錯体を入れています。その成分はSDS(安全データシート)には企業秘密で記載されていませんが、会社ごとで使用する薬剤成分の構造は異なるようです。

 これを使っためっき製品は耐食性が一段と高くなり、高級製品に生まれ変わります。過去世界でめっきしている時には「善良な王様」として扱われていますが、めっき品物表面に付着して水洗され、排水に流れて異世界に来ると、たちまち「大魔王」ゴーストに変身して「政府規制」を越えて処罰の対象にしてしまいます。

 これまでの、必要経費だけだと全く歯が立たなくなるもので、アルカリを加えても「ホームレス」達が妖気にやられて、沈殿しないで溶けてしまいます。偽金のカルシウムやマグネシウムなども溶けて歯が立ちません。簡単に規制値を超えてしまいます。

 他のめっきからきた「ホームレス」達への誘惑も尋常でなく、「悪役令嬢」とは桁違いの極悪非情レベルに変わり、その誘惑から引きはがし、処理できるようにするためにはその周囲に「偽金のカルシウムやマグネシウム」といった「政府規制」に影響のないイオンの濃度を桁違いに高め、二重三重に取り囲んでから、pHを上げる必要があります。

 また、魔法の処理剤「変身手榴弾」も溶かされてやられてしまいます。

「投網ゾル」を投じ、「ホームレス」達の居る「スライムスラッジ」にへばり付かせようとしても、投入量が桁違いに多くないと「スライムスラッジ」まで溶かされて「ホームレス」達を巻き込むどころではなく、そのコストは半端でありません。

 ところで、「排水処理薬剤会社」ダーティでは、立ちどころでコロリとさせる悪臭を放つ危険な排水処理薬剤を販売しています。一昔前の過去世界では、その薬品が政府の推奨品とされていましたが、下水道作業者の死亡事故が多発し、人間もコロリとやられてしまう危険があることが分かり、それに変わるものを使うように指示が変更されてきています。しかし、「大魔王」に打ち勝つ安価な薬剤は今のところそれ以外に見当たりません。そのため需要が殺到し、新たな取引契約を結ぶことすら難しい状況となっています。


 芥川龍之介の侏儒(しゅじゅ)の言葉」の中で、幻滅した世界の芸術家は「苦行者のように無何有の砂漠を家としている。」・・・「美しい蜃気楼(しんきろう)は砂漠の天にのみ生ずるものである。」・・・

「機智とは三段論法を欠いた思想であり、彼等の所謂いわゆる「思想」とは思想を欠いた三段論法である。」とあります。


 蜃気楼を夢見て機知を得る旅には三段論法を欠いた思想が必要なようです。

「大魔王」ゴーストを封じ込むため、その思想を持って、悪臭を放つ危険な排水処理剤にも打ち勝つ方法を見出す必要があります。


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