第8話 錬金術掃除人

 いったん、めっき液が排水となり、異世界で「ホームレス」に変身すると、その出口では水質汚濁防止法という「政府の規制」の関所が待ち構えており、その基準値より低い濃度にしなければ、排出停止・業務改善命令が下り、身動きできなくなります。


「悪役令嬢」の成分に含まれる分子がイオンとなって触手を伸ばして「ホームレス」を巧みに誘惑すると、「政府規制」基準値より高くなり、排出できなくさせる「不良化合物」スルーをつくり始めます。

 そこで、「ホームレス」達が誘惑されないような処理が必要になり、過去世界で公害防止管理者の資格を持っていて転生した「錬金術掃除人」ヨタが登場します。異世界では上意下達で命令する順応型組織のトップである社長の多くは、「排水処理など儲けにもならない現場の些細なことをいちいち判断できない」のが本音で、技術は現場の工場長に任せきりとなり、専ら営業活動のゴルフと飲食接待に明け暮れ、業務の改善など考える暇がないほど忙しいことが多いようです。工場長も上行下効、これまで取引していた納品、仕入れ会社との接待、盆暮れの付け届けを享受して過ごしていて、排水処理は、「錬金術掃除人」ヨタにお任せです。

 多くの「錬金術掃除人」ヨタには手足となる召使がいます。その召使の多くは過去世界では外国人労働者でした。処理作業の多くは召使の仕事です。そのため、召使の方が詳しく、「亜鉛処理はムズカシイネ」などよく知っている工場もあります。

「錬金術掃除人」ヨタの召使は、マニュアルに書かれた決まった手順を教わって、その通りに作業するのです。その多くは、「ホームレス」達の住む排水の世界を、アルカリ性にして水酸イオンを増やし、「悪役令嬢」レモンを退治しながら「ホームレス」達と合体させて水酸化物という名の「スライムスラッジ」に変身させようと試みます。

 しかし、「悪役令嬢」ソープや「悪役令嬢」ユズがいるとそうはいきません。

「悪役令嬢」達は純情な「ホームレス」を口車に乗せて外殻電子を盗みながら束縛するものがいます。また、お色気たっぷりで純情な「ホームレス」を誘惑して左右両手で束縛する「悪役令嬢」もいます。束縛されてしまうと、純情な「ホームレス」は「不良化合物」スルーとなり、「政府規制」の基準を超えて、処罰の対象となってしまうのです。


 政府基準を超えてしまうと、「錬金術掃除人」ヨタは、召使に有害な硫化物処理剤や高価な処理薬剤をたくさん使って処理するよう命じます。上役に、めっき作業で濃度の高い排水を流さないよう進言します。そうすると、上役もあわてて、めっき作業者に薄めて流すよう指示します。

 しかし、政府基準を超えることが何度も繰り返すことから、「錬金術掃除人」ヨタは上役に再三改善するよう進言しますが、

「処理薬剤を多く使って、適当にやっとけ」

 といった生半可な答えしか返ってこないと、仕事の中身が分からないのを良いことに、自己管理できることを都合よく解釈して、納品している企業に処理薬剤を多く購入すれば、それとなく袖の下を要求できるものと錯覚します。

 納品会社も心得たもので、

「取引額が多くなると心付けも弾みますよ」

 と伝えることで蜜月の関係が出来上がります。こうなると創造的な改善提案どころではなく、不要な薬剤を次々と購入することになります。

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