第3話 ミニチュア分析

 高い精度で分析して魔術の時間が長くなってしまうと、「悪役令嬢」が頻繁に現れてくることが分かってきました。幸いなことに試料が排水の場合、高精度の分析は必要ありません。なぜなら、もともと、工場の作業は一定でないことが普通だからです。そのため、作業で出てくる排水は一日の間で濃度が変わります。通常、20~30 %変動します。ということは、それくらいラフに測ればよいことになります。

 沈殿のある試料では、採取量が少ないとそれと同程度の精度でばらつきます。そのため、採取量は少なくて良いことになります。

 少なくて良いことの利点は、狭い場所で、採取と添加が短時間で作業でき、加熱する時間も短く、調合も少量で魔術が使えるのです。例えば、JIS規格では、クロムの測定に50 ml使用しています。しかし、吸光度による測定容器に入る量だけあれば十分測定できるのです。ということは、0.25 mlの小さな容器を使えば測定できるので、1/200サイズでよいことになります。


 1968年不可逆仮定の熱力学の研究でノーベル賞を受賞したラルス・オンサーガー(Lars Onsager, 1903-1976)は、輸送現象の相反(そうはん)定理(1931年の説)として、移動する現象は相似になることから、運動量移動、熱移動、物質移動、電荷移動の各現象を偏微分方程式の直線式で示しています。Bird (1960)は、その視点から、移動現象の相似則を提案しました。

 流体の流れがあると運動量の移動が,温度差があると熱の移動が,濃度差があると物質の移動が、電位差があると電荷移動が発生し、ニュートン粘性、フーリエ熱、フィック拡散、オーム電気抵抗の法則が当てはまります。それぞれ物理量の時間変化は流束の発散で表すことができます。

 この原理を利用すると、小規模にすることは短時間で行えることになります。


 ミニチュア規模にはミニチュア模型をコマとして使用し、立体的なシミュレーションを行って相手と戦うボードゲームがあります。長引く戦争は、ミニチュア模型で行えば、莫大な経費も掛からず短時間に終わらせられることになります。世界21か国、102点の有名建造物を展示したミニチュア・テーマパークは1/25だそうで、多額の経費も掛からず短時間に世界一周できるようです。

 ここでは、1/200のミニチュア規模で運動量移動、熱移動、物質移動、電荷移動を行うことで分析の作業ができるのです。50 mlの代わりに0.25 mlにすれば、試料を採る時間、添加する時間や加熱蒸発させる時間など一瞬で済みます。

 液量が微量であってもマイクロピペットを使えば、3%以内の精度で作業できます。ピペットの液に接する箇所をテフロンチューブにすることで、撥水性がよく、液の残存による誤差や汚染を防止でき「悪役令嬢」インぺ、の付け入るスキを与えにくくできることが分かりました。

 ミニチュア規模の作業は、JIS規格の測定に定められた高価な分析機器を使って、その電源を入れて立ち上げてから装置が安定するまでの間に、この一連の魔術を終わらせることができるほど短時間で効率的です。そのため、「悪役令嬢」達のつけ入るスキを減らせることができ、どこよりも少量で早く結果が出せます。結果を予想しながら、魔術の薬を使って確かめ、予想が的中すると、「悪役令嬢」との戦いが一段と楽しくなってきます。

 参考:もともと、工場作業は一定でないため、作業で出てくる原水は、大きいときには、10倍以上違ってきます。採取のばらつきより大きいことが多いです。

 1)原水の濃度を正確に測るのではなく、基準の10倍か、100倍程度なのか確かめるために測ります。

 2)それを基に沈降分離処理し、上澄を分析します。

 3)上澄水の分析は処理の仕方が適切か知るためのもので、基準値の半分以下か、基準値程度か、おおよそ測ることになります。

 基準値程度だと処理不十分になることがあるので、基準値の半分以下になるまで処理剤を加えます。これにより、環境計量証明事業所の測定結果で基準値以下になる処理方法を短時間で見出すことができます。



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