　政府が規制する排水基準のうち、表面処理工場が処理しにくく、基準値を守りにくい分析・測定項目には、全クロム、亜鉛、銅、ふっ素、ほう素、リン、アンモニア性窒素、硝酸性窒素、CODがあります。

　通常、その中の5～6項目を測定するために、最初から作業が終わるまでには数時間かかります。およそ5～10秒ごとに一工程ずつ魔術を確認しながら、根気良く、ざっと1,000工程続けることになります。その間、｢悪役令嬢｣が来ないように、集中力を途絶えることなく続けることが欠かせません。分析手順の魔術をお経のように唱えながら、手を動かします。

　確認するのを忘れて無意識に手だけ動かしていると「悪役令嬢」ポカ、の誘惑が忍び寄ってミスします。疲れて来ると、「悪役令嬢」スリープ、にやられて睡魔が襲いかかり頭が“ぼーっ”としてきてミスしますので、その時は休む方が良いことが分かりました。

　人や車の出入りの音、外部で行っている作業で起こる大きな音がすると気になってしまいます。怪我や体調不良を起こしているときも集中しにくくなります。次にやらなければならない作業が決められていると、その時間までに終わらなければならないと気ぜわしくなってしまいます。仕事の悩みや心配ごとなどあるときも、その事が脳裏に浮かび集中しづらくなります。

　これらが起こるときには、必ず「悪役令嬢」ポカ、にやられるので休みます。

　途中で電話が鳴って対応すると、どこまで作業したのか忘れることになりかねません。「悪役令嬢」ポカ、がやってきて忘れてしまったら、最初からやり直さなければなりません。疲れがどっと出てきます。そうなると今度は「悪役令嬢」スリープ、の睡魔に襲われます。そのため、作業中は絶対に電話に出ないか、作業し終わったものは作業する前のものとの間に一つ置く場所を開けておくことで、常にどこまで作業したか分かるようにしておくことで、いつでも中断できる態勢を取ることが不可欠と言えます。

　インド魔術師ミスラ君の、｢欲があると魔術が効かない｣と言う“欲”は、万人向けの“金銭欲”を表現しています。分析作業の場合、「早く終らせたい」と欲張って、確認を忘れると｢悪役令嬢｣達に取り付かれるので、作業手順を誤ることで魔術が効かなくなります。その言葉はまさに「他山の石」となりました。

　自分の魔術が効かなくなるだけでなく、いったん「悪役令嬢」達の魔法に取り付かれると気落して、自分の意思に反して液をこぼしたり、怪我をしたり、道具を壊したりすることが続くことになり、その前にやめておくべきであることも分かりました。