第11話 諦めの悪い錬金術師

「諦めの悪い錬金術師」アイリは、過去世界で行っていた「経済の念に乏しい」物質処理の研究と分析経験を活かし、異世界でもっと簡単で安価に退治する「魔術」の編み出しに取り掛かりました。

 退治の難しい「反逆イオン」マイナに含まれるリンとふっ素は、通常、カルシウムが退治するために使われますが、政府規制のリンは亜リン酸、次亜リン酸を従えていることもあります。そのため、溶けやすくカルシウムと反応しにくくなることが多いです。政府規制のふっ素は、ほう素と化合物を作ることもあり、カルシウムだけでは反応しにくくなります。

「悪役」オルガには、界面活性剤、分散剤、染料など多くの種類があり、政府規制では、COD、BODの規制があります。活性炭で除去する方法以外、対策の仕様がありません。

「悪役」アンモには、アンモニアの他、有機物と合体した一級、二級、三級というものがあり、政府規制では、何れもアンモニア性窒素の規制に該当します。アンモニアは、アルカリにして空気を吹き込んで空中に追い出すといった野蛮な方法しかありませんでした。その他のアミン化合物は高額なイオン交換処理以外、手も足も出ません。


「諦めの悪い錬金術師」アイリは処理しきれないこれらのものは、電荷の弱いものが多いことに気付きました。これまで、一般的に行われてきたイオン反応という電荷の強いものが合体することを対象にするのではなく、電荷の弱い、ファンデルワールス力を使うことを思い付きました。

 ファンデルワールス力には分子間の静電力が働きます。空気中では、乾燥した日に、金属の鍵を鍵穴に差し込もうと触れた瞬間「ビリッ」と来る嫌われものです。水中では、活性炭や高分子凝集剤の力として働くものもありますが、これらだけでは規制物を捕まえることが出来ません。

 そこで、マイクロカプセルに閉じ込めておいて、カプセルが開くことでその効果を発揮する薬剤を開発し始めました。マイクロカプセルに包まれた「変身手榴弾」を作り、それが破裂すると、ミセルからイオンに変身しながら「反逆イオン」マイナをファンデルワールス力の静電力で封じ込みます。これには、一部の電荷の弱い「悪役」オルガや「悪役」アンモもまとわりついて、「スライムスラッジ」にへばりつかせることができます。

 この働きは、「錬金術掃除人」リョウによる、酸性で金縛りした「悪役令嬢」達がアルカリ性になるときの「退治薬」偽金カルシウムやマグネシウムなどのばらまく量に影響を受けます。もし、それらをばらまく量が少ないと、「悪役令嬢」の生き残る量が多くなってしまいます。そうすると、生き残った「悪役令嬢」退治に大半が使われて、「反逆イオン」マイナの封じ込に手が回らなくなってしまうため、使い方にコツが必要となります。

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