第2話不思議なことってあるのね

*******



「と、まあ、そんなことがありましたの」


フルーティーで花の香りが豊かなダージリンを楽しみながら、今日あったことをお父様に話す。



「ほぉ、それで、お前の婚約者様は大丈夫なのか?」


「さすがに、頭から血を流した婚約者様を見捨てることもできず、邸まで送り届けて、目が覚めるまで付き添いましたわ。」



おや珍しい、という顔をし、お父様もダージリンの入ったカップを手にする。




「…お父様は、転生者ってご存じ?」



お父様は、眉間に微かなしわを寄せ、わからないという表情を浮かべた。そうよね、私も初めて聞いたわ。




「婚約者様がおっしゃるには、自分にはこの世界ではない前世の記憶があり、その記憶が急によみがえったのだそうです。今まで何に対しても無気力だったのに、目の前にかかっていた霧が晴れ、視界が明るくなってきたようだ、と、そんなことあります?」



「…興味深いな」


「ええ、別人のようでした。ものすごくお話しなさるのですものびっくりしましたわ。転生者に関しては、お医者様もよくわかっていないようでしたが、今、失っていた人格が混ざり合って、混乱状態なのかもしれない…のですって。ふふふ、ヴィクター様がこれから、どうなるか楽しみですわ。」




「可哀そうに、もう少し心配してやったらどうだ。」

お父様が苦笑いをしておっしゃった。




この国では、王子の婚約者候補は、幼いうちに3人選ばれることになっている。そして、その中から学院入学前に正式な婚約者を決めるというしきたりがある。そのため、選ばれた婚約者候補3人は、同じ王子妃教育を受けて育ってきた。ええ、3人とも幼い頃は、名前で呼び合うほど仲が良かったのに、ミレーナは… 。




私も共に教育を受けたレティシア・サンチェス侯爵令嬢も、自分より愚かな王子の妃になりたくなかった。だから、出来が悪く王子妃教育から逃げている割には、私たちをライバル視し蹴落とそうとするミレーナが選ばれるよう、あの手この手を使ってきたのだ。



「そんなに婚約者になりたくないのなら、辞退出来る力くらいはあるぞ」


そんな私を見て、お父様はおっしゃってくれたが、ただで最高峰の教育を受けることができるのだから、辞退するという選択肢はなかった。



かなり勉強にのめり込んでいたから、いまだにミレーナは、『婚約者の座のため必死でしたのにね、残念でしたわね』とさげすむような態度をとることがあるけど、わかっているのかしら?一番できの悪いあなたが、本当に妃になるつもりなら、これからが大変ですのに。

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