第22話父&友人③

『来年の卒業パーティーどうする?』


などと気の早い話をしながら、いつも通りヴィクター様に馬車で家まで送ってもらっている。



あら?玄関先にいるのは、お父様?



「お帰り、セレナ、ヴィクター君。2人とも素晴らしい成績をとったそうじゃないか!さあ、今日はお祝いだ。」



なぜ、知っていらっしゃるの…



「お父様こんなに早く…お仕事はどうされたのですか?」



「こんな嬉しい日に仕事をするわけがないだろう、さあ、ヴィクター君、公爵家には遣いを出したからディナーを一緒に取っていきたまえ。」



…あやしい、私のテスト結果の度にこんな大げさなことをしたことがないのに



「そうだ!ヴィクター君、ディナーまで時間があるから、お茶でもしながら話をするというのはどうかな?」



急な展開に戸惑っているヴィクター様の手を引き、どんどん執務室に向かって進んでいく。



ああ、なるほど。狙いはヴィクター様の情報ね。




午後の柔らかな陽射しが窓から差し込み、部屋全体を温かな光で包んでいる。部屋の中央のテーブルには、紅茶セットが美しく並べられている。アンティークのティーポットからは、心地よい蒸気がゆっくりと立ち上り、ほのかなアールグレイの香りが漂っている。待ち構えていたわねお父様。




ソファに腰掛けたヴィクター様は、丁寧にカップを手に取り、一口、二口と静かに紅茶を味わっている。




「さて、ヴィクター君。セレナが、君から聞いた話を基に商品を開発中なのは知っているかい。」



「ええ、もちろん。楽しみにしています。」



「それで…私も君の話、興味があってね。何か、私が執務に使うような見たことがない便利な物の話、ないだろうか?」



…お父様…



「執務ですか?文房具かな。この前、セレナにはクリップとバインダーの話はしたのですが…」


「その話を詳しく!!」



紙を止める物、多くの書類を挟んだり整理したりするもの。ハンコを押すときに使う捺印マット、紙をめくるときに使う指サック、付箋、カッター…ものすごい種類がありますのね。


お父様のメモを取る手が止まりませんわ…そろそろディナーの時間ではなくて?



「でも、伯爵、この世界にゴムやら粘着素材やらは少し難しいですかね。あまりお役に立てなかったかもしれません…」



「ヴィクター君、隣国の我が商会の開発部には、なんと錬金術師がいるんだよ。大抵のことは彼がなんとかしてくれる。ああ、明日から寝る暇がないな、あははは」



「錬金術師!それは、すごいです!!」



「ヴィクター君、君の話は実に有意義だった。時を忘れてしまうほどに。また良ければ、私と話す時間を作ってはくれないだろうか。」



「もちろんです。私の話を否定せずじっくり聞いてくれて嬉しかったです。是非」


「そうか!ああ、君が息子になる日が待ち遠しい。」



そろそろヴィクター様を返してほしい



…お父様もレティシアに、諭されればいいのに





*****




「血は争えないわね、セレナ」



‥‥‥。



「それにしても、欄外から5位ってすごいわね。あなたの婚約者様。」


「そうでしょう!でも当然よ。何に対しても無関心で無気力だったヴィクター様は、Cクラス。いえ、無関心で無気力Cクラス。やる気をだしたらAクラスなのは当然と言えば当然よ。」



元々の頭の出来があの人たちとは違う




冬の寒さがようやく和らぎ柔らかな陽射が降り注ぐ窓の外を見ながら、レティシアは、物憂げに言った。



「…やる気を出しても、駄目だったあの人たち。2人とも気付いていなかったのでしょうね。自分の力を正しく認識できず、過大評価していたから…今まで楽しく過ごせていたということに」

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