第28話嵐の前の静けさ
ーside国王ー
来てしまったヴィクターとセレナ嬢が…
ヴィクターの目には燃えるような怒りの火が宿り、その瞳は鋭く傍にいるアレクを射抜く勢いだ。
セレナ嬢は…唇に微笑が浮かんでいる。その微笑はまるで完璧に描かれた絵のように静かで、見る者に安らぎを与える。
どちらが怖いか…間違いなくホフマン家の血を色濃く継いでいるセレナ嬢だ。微笑んでいるからと、気を抜いてはいけない。あの微笑の裏で何を考えているか見当もつかない。ああ、味方であれば心強かっただろうに…
親が同席していないということは、もうすぐ成人の我が子に任せるという意味だろうか。大ごとにしないという意味だろうか。…考えても始まらない。
これから始まる話し合いの想定を頭でしているうちに、待っていられなくなったヴィクターが切り出した。
「陛下、発言の許可を願います」
「…よい、申せ」
「事のあらましを聞きました…王太子と血が近いことを恥じたのは今回が初めてです。」
私はもっと近い…
「自分の地位が脅かされる?だからといって、努力もせずに人を蹴落とすことを選ぶだなんて…なんて恥知らずな!」
「うるさいヴィクター、努力はした!!」
無駄な努力だったがな
「王太子の地位のために私、いや、セレナに迷惑をかけるなど言語道断!陛下、私には必要のない王位継承権、今この場で放棄することを許可願いたい!」
「なっ!それは駄目だ。」
王太子がだめだった場合、他に王位継承権を持っている妹の子供はまだ小さい。
「下手にこんなものを持っているせいで、王太子は愚かな考えを持ち、エヴァン皇子にも迷惑をかけました。次男である私は、小さい頃から公爵家のスペアだった。王位継承権第2位?結局スペアではありませんか。私は、卒業してセレナの唯一の夫となる。だから、必要ないのです!!」
っ!愚息が笑みを隠しきれていない…愚か者め!!!
「…ヴィクター、分かった。そこまで言うなら、了承しよう。では、継承権を持っていたお前に最後に問う。今回の件について、我が息子にどんな罰を与えるといいと思う。」
「…私の父は、実害がないのだから、大目に見ろと。仲が良いのであればエヴァン皇子にもお前がとりなせと言いました。」
「王弟が…いや、身内だとしても甘い顔をしなくていい…1番お前に迷惑をかけたんだ。率直な意見を聞きたい。」
アレクの顔が、気色に満ちたり、青くなったりしている。貴族であれば感情を表に出してはいけないというのに…そんなこともできなかったか…なぜ気付かなかった…
「…アレクは気弱な文官を脅し、ミレーナ嬢はメイドにうその証言をするよう買収したと聞きました。陛下、文官たちの処遇はどうなったのでしょう?」
ヴィクターが静かに私に問いかけた。
「ああ…経緯はどうあれ、己の立場にふさわしくない行動をしたのだ。もう王宮にはいない。」
「そうですか、では、アレクの王位継承権を一時的に剥奪し、学院は休学。アレクは文官、ミレーナはメイドの仕事をするというのはどうでしょう。2人は、臣下や使用人たちがどれだけの努力をしているか、どれだけ重要な役割を果たしているかを理解し、その労働を軽んじていた自分たちの行動を深く反省する必要があります。」
王位継承権を一時的に剥奪に、驚きはあったが、内心で賛同する自分も感じ取った
「期限は?」
「人への敬意と感謝の気持ちを深く理解し、未来の王国にとって真に価値ある者へと成長したと感じた時まででよいでしょう。そうでなければアストリア国にも顔向けができない。自らの行動の重さを理解し、改める機会を与えるべきです。」
その言葉は心に深く響いた。権力を持つ者として責任を重く受け止める。そして再び問いかける。
「それはどうやって判断する。」
「そうですね…一週間の終わりに、アレクとミレーナ嬢は、宮殿の臣下と使用人たち一人一人に感謝の手紙を書くというのはどうでしょう。どれだけ感謝しているか、どれだけ彼らの仕事が大切かということがわかったか、手紙を読んだその者たちに判断させるのもよいかもしれません。」
その時、黙って聞いていたアレクが怒りをあらわにする。
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