第20話前世の話

ヴィクター様と一緒に勉強をしていると、彼が突然言い出した。


「ああ、紙を止めるクリップがほしいな。バインダーでもいいんだけど。こんな時、百均があれば…」



クリップ?バインダー?ヒャッキン?



「それは、どういったものですか?」



私は聞き返した。



「100円均一で売っているものだよ。百均ていうのはお店で商品がすべて同じ金額なんだ。うーん、色々な商品がすべて銅貨1枚!っていうことかな。」


「そうなのですの。貴族はオーダーメイドが主ですから、同じ値段というのは馴染みがないですわね。同じ金額の物を集めて売っているということかしら?」






「どちらかというと、銅貨1枚で売るための商品を作っている感じかな…たぶん。でも、すごく便利なんだよ。『え?これも銅貨1枚!』とか、『え?こんなのも売っているの?』ってわくわくするんだ。」




ヴィクター様の話によると、百均と呼ばれるお店は「品揃えの豊富さ」「商品の品質」「お手頃感」が魅力で、便利グッズやアイデアグッズに驚くこともあるそうだ。




「低価格と商品の豊富さが魅力ですか…庶民にはいいかもしれませんね。ちなみに、どんなものが売っているのですか?」


「ん?僕がよく買っていたのは、ファイルとかペンとかかな?本当に何でも売っているんだよ。ハンカチとか乾電池とかお皿とか、今必要なくてもついつい買っちゃうんだ。」


「ファイル?乾電池?」


私は首をかしげた。




「ああ、妹は化粧品も買っていたな。」


「妹がいらっしゃったの?」


「うん、前世でね。アイメイクに凝っていたんだ。つけまつげとかカラフルなアイシャドウとかネイルとか…」


「…そのお話、詳しく聞かせてください。」


「いいよ。」



聞くと、メイクに使う化粧品の色はたくさんの色があるそうで驚いた。

この国のメイクは血色をよくするための物ばかりだから一律、同じ色。

髪や目の色が違うのだから、もっとカラフルでもいい。そんな簡単なことに思いつきもしませんでしたわ。


「なんだか当たり前だと思っていた商品も、確かに言われてみれば、この国では見かけない物が多いね。」



「ご家族にもこの話をされたのですか?」


「ほら、私の家族は元々スペアである私には大して興味がないんだよ。前の私はあの通りだったし。こんなに長く私の話を聞いてくれるのは、セレナくらいだよ。」



なるほど、情報は公爵家に伝わっていないと…



「私は、ヴィクター様に興味がありますわ。これからも、たくさんお話してくださいね。」


「本当かい!嬉しいな。」


ヴィクター様は、明るく華やかな笑顔を見せた。もうすぐ春ね。



*****


ヴィクター様のお話を聞いて作ったハンドクリームをレティシアに渡し、いつものようにお茶を飲みながらお話をする。




「…セレナ、人の心というのはね…」


「ありますわよ、人の心。」



私は少しムッとしながら答えた。



「あなた、アルマンド公爵令息様の話にお金の匂いを感じ取ったのでしょう?このハンドクリームだって、すでに商品化に向けて動いていると見たわ。…話を聞いてもらって素直に喜んでいるアルマンド公爵令息様……切ないわね。」



「失礼ね。商品化については、ちゃんとヴィクター様の許可はいただいておりますわ。そもそも卒業したらヴィクター様は伯爵家の人間。伯爵家の利益はヴィクター様の利益。ヴィクター様の知識は伯爵家の物ですわ。」




レティシアが普段なら口にしない温くなった紅茶を一口飲み、遠くを見つめている。



「セレナ…そういうところよ…」



どういうところ?よくわからないわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る