第17話鯉の末路

ーsideオレリアー



想い人って何?



「探しましたのよ、私。」



探した?え…どういうこと?




15は年上だろうか。執事だと思っていたその男は、興奮したように話し出す。


「ああ、あなたが私のことを慕ってくださっていたなんて。ホフマン伯爵令嬢様から話を聞いた時は、天にも昇る気分でした。」




誰?



「あなたの社交界デビューの際に身に付ける宝石のデザインを何度も打ち合わせていく中、駄目だと言い聞かせても、あなたに惹かれていくのを止められなかった。まさか、あなたも同じ想いだったなんて…」



ああ!思い出した。あの時の商人。


その様子をニコニコを微笑みながら見ていたセレナ様が話し出す。


「彼、今は商人だけど、元々他国の侯爵家の次男なの。成人してからはお母さまの御実家の子爵家の爵位を譲り受けたわ。よかったわね、平民じゃないの!!」



よかった?…はっ!身分違いの恋!!



「ヴィクター様と同じような髪の色。同じ位の背丈。みんなが間違えるのもしょうがないわね。それに、私も前、宝石のデザインを相談するために何度か会っていたから、あなた勘違いしたのよね。」



知らないわよ、そんなこと!私が憧れていたのは、ヴィクター様よ!!




「オレリア伯爵令嬢、あなたに苦労はかけない。想いが一緒ならば、私の婚約者になってはくれないだろうか」



お父様がすごい目でこちらを見ている。この人が想い人ではないと知っているはずなのに。その目は、申し出を受けろという意味ね…駄目だ…逃げられない





「…‥‥光栄です。よろしくお願いいたしますわ…」



*****



翌日、学院を退学し、婚約期間を省略して婚姻することをお父様が決めてしまった。


商人…ダリル様の商会の拠点は、この国の2つ隣のエルドリア国だという。商会の規模を広げるためしばらくは拠点であるエルドリア国に腰を落ち着けるのだそうだ。『ならば…早々に醜聞を消すため国を出ろ。なに、今時、婚姻のために退学なぞ珍しくない』…と、お父様が…。



冬の気配が王都を包み始めた朝、邸から旅立った。



ー真実は墓場まで持っていけー




旅立つ娘にかける言葉ではないと思っていても、急に白髪が増えたお父様の心労を思うと何も言えなかった。お姉様もお母様も昨日から泣きじゃくってはいるが……家族が、王太子の婚約者であるお姉さまと伯爵家の名誉を守るため、私を見捨てることを決めたことには変わりない…。



エルドリア国に行ったら、セレナ様とも顔を合わせることはもう2度とない。ヴィクター様の隣にいるセレナ様を見たくはないと思ってはいたが…結果、ヴィクター様ともお会いすることはないだろう…





「オレリア、寒くないかい?」



コートの襟を立てて肩をすぼめているとダリル様が温かいブランケットをかけてくれた。




ダリル様は、本当に私のことをずっと慕ってくれていたらしい。ただひたすらに優しい。私の想いなど疑いもしていない…いや、もしかしたら気付いて、それでもこの優しさなのだろうか。



ー誰よりも慕ってくれる人と共にいることがヴィクター様の幸せだと。ー


きっと私はダリル様と共にいることが幸せなのだろう。ええ、そうでなければならない…




馬車の窓から見る見慣れた建物や通りが次々と消えていく。何度も見た風景のはずなのに、今日だけは違って見えた。




誰も味方をしてくれないこんな国なんて…二度と戻らないわ…

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