第11話蛙の末路
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ーsideマリアーノ侯爵令息ー
「…ホフマン伯爵令嬢に喧嘩を売ったそうだな」
父上の執務室に呼ばれた。
「け、喧嘩など」
…なぜ父上が知っているのだ。
「お前は私を誰だと思っている。宰相だぞ。文官長に試験問題を作らせたことなどすぐに耳に入る。…勝てもしない相手に挑むなど馬鹿のすることだ」
そんな!
「待ってください父上、勝てもしないなど。学院ではいつも僅差でした。」
僅差で勝ったことは一度もないが…
「満点より上の点数はないだろう。令嬢は王子妃教育を短期間でこなしたのだぞ。基礎が違うんだ。学院の学習過程もすべて終わっているといってよい。文官長に作らせた試験、大差でお前の負けだそうだ。それに…はぁ、ホフマン伯爵親子がこれから来ると先ぶれが届いた…。お前も同席しろ。」
客室に向かうと、すでにホフマン伯爵親子がそろってソファに座っていた。
「この度は愚息が浅はかなことをして申し訳ない。」
父上に頭をつかまれる形で謝罪させられる。
「ああ、何やら誤解があったようで、我が娘の実力をわかってもらえたならそれでいいのです。娘も謝罪を受け入れたそうですし。」
じゃあ、何しに来たんだよ。笑っていても顔が怖いんだよ。
「ええ、謝罪はもう結構ですが、宰相様、こちらを」
…あれは!あれは、無効にしたのではなかったのか?父上が中身を見て、信じられないという顔を私に向ける。
「負けた時の条件を記したものです、宰相様。謝罪は受け取ったのですが、許しますと契約は別でございましょう?たくさんの人が見ていましたし。ええ、貴族ですもの。」
『まあ、無理なら約束を違えていただいてもよろしいのですわよね、お父様』と、微笑みあう親子の笑顔に背筋が凍る。
「…いや、愚息は留学させよう。」
「父上!!」
「黙れ!…ホフマン伯爵、わざわざご足労頂き感謝する。そして、この度は本当に申し訳ない。」
微笑を浮かべたまま2人が帰っていく。
「…経済を牛耳っているホフマン家との契約、破るわけにはいかない。何と愚かなことをしたものだ。貴族の契約とは恐ろしいものだとあれほど教えたではないか。…廃嫡という言葉を出さなかったことは褒めてやる。退学という条件を引き下げた令嬢にも感謝するんだな。留学の手続きはすぐ始める。…お前はもう学院へ行くな。」
契約?確かに書面に残したが、そんな…こんな大ごとになるとは思わなかったんだ…学生の口約束…そんな感じで許されると…
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-sideセレナ-
「意外とすんなり、承諾したな」
「ええ、お父様、当然ですわ」
貴族は契約を守るものですから。仮にも宰相ともあろう人が、反故にするわけがないわ。
マリアーノ侯爵令息様に、『私が卑怯な噂を流した』と、皆の前で言ってもらうと思っていたけど、賢い宰相様ならもう学院には出さないわね。まあいいわ、留学しようと寄宿舎に入ろうと、ヴィクター様のように前世の記憶が戻らないかぎり、あの性格は変わらないでしょう。ふふ、1年生からやり直し…マリアーノ侯爵令息様にとっては退学より屈辱的でしょうね。
「ある意味、留年だろ。未来の宰相は…無理だろうな。まあ、次男がいるから支障はないだろうが」
「ふふ、私に挑んだ時点で、マリアーノ侯爵令息様は自滅しているのです。その愚かさに呆れてしまいますわ」
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