第22夜【ありがとうございました】他

※今回ご紹介するお話は、今までと同様、すべて投稿者・体験者に掲載の許可を取った上で文章を適宜読みやすく改変しています


【ありがとうございました】

 (前略)禍話の「はなむすめ」を聴いていたら、大事なことを思い出したので投稿しますね! 

 私は小学生の頃、病弱だったので結構学校を休んでおりまして、たぶん、平均して二週間に一回くらいのペースだったんじゃないかな。休んだ日は、両親が共働きだったので、家で大人しく一人で過ごしていました。

 そんな時、毎回ではないのですが、庭から自分を呼ぶ女の子の声がするのです。声の感じからすると、同年代です。でも知らない子です。顔は見ていません。毎回すぐに庭を確認していたのですが、彼女は居ないです。

 彼女が呼んでくる名前は、私の名前ではないのです。あだ名でもありません。それでも自分のことを呼んでいるんだろうなというのは分かります。それくらいは分かりますから。

 だけど、記憶の中でポッカリと「何という名前で呼ばれていたか」が抜け落ちていて、ずっと悶々としていたのです。

 それが「はなむすめ」を聴いていた時に、まるで錆びついて動かなかった引き出しが何かの拍子に開いたように、思い出したんです!

 私は彼女に「かげふみさん、かげふみさん」と呼ばれていたのです。これで色々と腑に落ちなかった、今までに私の身に降りかかった様々な出来事がすべて自分のせいであることが証明されました。私が考えもせずに踏んでいたから、色々と間違いが起きていたんですよね。

 思い出させてくれて、本当にありがとうございました!(後略)


【素体】

「その……隣人がね、年齢は五十代くらいかなぁ、一人暮らし。たぶん離婚してて娘さんが居るんですよ、時々会いに来る若い女性が居るから……で、マンションの入り口にある集合ポスト、その人の部屋番号のポストに人形の……素体って言うんですか、それが入れられるようになつて。

 最初に見たのは半年くらい前かな。裸って言うか、何にも加工されていない素体ね。最近は百円ショップでも売っているでしょう。目鼻のない性別も分からない肌色の人形が……それ、ポストの扉に挟まっているんですけど、入れたやつがワザとやっているんですよね、絶対。でも他のポストには入ってないんですよ、素体。だから悪戯している奴は、明確に隣人だけを狙っているっていう……。

 それで隣人も困ってるというかムカついているというか、捨てても捨てても素体が置かれるから、ある時なんて外廊下でガンガンに踏みつけているところに出くわしちゃって、流石に向こうも気まずそうだったな。

 それで……ちょっと前に大雨が降った時にね、それこそ携帯電話で警報とか避難勧告とかされるレベルのやつだった時に、たまたま休みだったんだけど、前夜から確認してなかったから、夕方に集合ポストのところまで行ったんです。

 そしたら、その……隣に時々来る若い女性、多分娘さんが立ってて。合羽着て、片手に素体持ってるんですよ。エッ、てなっちゃって、自分。

 彼女も、こんな大雨の日に住人が出てこないだろって思っていたのかな、黙っちゃって……暫く見つめ合って……ややあって、彼女が『忘れてほしくないから』って……まっすぐな目で言ってくるもんだから、訳がわかんなくなっちゃって、それでも何か言った方がいいなって真っ白な頭で考えた結果、『家族ですもんね』って返したんですよ。いや自分でも意味不明だなコレて思ったんだけど、正解なのかニアミスだったのか……彼女、ニコッて笑って、素体をポストに入れて帰って行って。

 今では隣人、完全に引きこもり状態で、髪も長くなって、もうボロボロですよ。まぁ今は玄関ポストに素体が入ってますからね。ただその……何だろうね、自分としては『思い出した』とか『忘れていない』って主張すれば済んだ話だと思うので、自業自得だと思うんですよね。違うかな? 娘さんですか?勿論、定期的に様子を見に来てますよ。逢ったら会釈するもん、お互いに」


【おはか】

 この原稿を書いている二週間くらい前に、DMで頂いた話なんです。仮にFさんとしておきましょう。彼女は二十代後半で会社勤めをしているんですが、高校時代の同級生から久々に連絡が来た。

 それが唐突過ぎるというか、挨拶も早々に「三年生の夏休みに、クラスの何人かで高校裏のおはかに肝試しにいったのを覚えてる?」って聞いてきた。「おはか」って、変換ミスをしたのか、平仮名なんですって。

 Fさん、確かにクラスの何人かで、高校の裏口に近い場所にあった雑居ビルを探検した記憶はあったんですが、其処にお墓は無かったし、それ以外に墓地に肝試しなんて行ったことが無い。

 あたしは行ってないんじゃないかな、と返したら、二分と経たないうちに返信があって「絶対に居た。カメラであちこち撮ってた」と言ってくる。彼女が仲間内でカメラ役を担当したのは、雑居ビルに行った時だけだったんで、「たぶん記憶が混ざってるよ」と詳細に説明をして返信した。

 そうしたら、またすぐに返事があって、要は「雑居ビルの話を最初からしているんだ」って言ってくるもんだから、「あそこにお墓なんて無かったじゃない」って送り返したら……今度は返事が無い。

 翌朝、目覚めて携帯をチェックしてたら、夜中の二時くらいに相手からのメールが来ていた。

 「入口に重箱みたいなのが置いてある、だだっ広い部屋があったでしょ。あの部屋全体が〇〇〇〇さんのおはかになってるの」

 〇〇〇〇さんなんて知らないから、「誰なの、その人?」って返信だけして、放っておいた。それからメールでの返事は一切無いんだけど、二度ほど非通知の着信があって、出てみたら早口で誰かの人生を、履歴書を読み上げるみたいに「何年、〇〇幼稚園卒園。何年、○○小学校」っていう感じでまくし立てて……「何年、死亡」って言って切られる。死亡した年ってのが、Fさんの高校三年生の年なんですね。でも電話の時には〇〇〇〇って名前は一切出てこないから関連性があるかどうかは……まぁ、ありますよね、こりゃ絶対に(苦笑)。

 特に二回目の時は、ずっと笑いをこらえてる感じだったので気持ち悪かった、って言ってましたよ。これ、まだ続きがあるかもしれませんよね。そんな話でした。

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