第13話「ラノベチャンスを逃しているじゃない」
「
振り返ると、廊下の窓から顔を出した
「…………!」
「小沼、今の話、どこから聞いてた?」
俺が尋ねると、
「全部!」
と元気な返事が帰ってくる。
「…………?」
その言葉を聞いた川越は
「でもさ、それって、
「…………!!」
川越は自分の失態に気が付いたように目を見開く。
「ま、柳瀬は偶然だと思ってやり過ごすのが吉だね。実際、ただの偶然って可能性だってあるわけだし。あとは、これまで友達じゃない人とも仲良くしようと思って仕組んだ、とかね。柳瀬と美羽ちゃんって去年同じクラスじゃないでしょ?」
「ああ……」
「あ、その前から接点ある感じなんだ。中学が一緒とか?」
「まあ、そうだけど……え、そんなに顔に出てるか?」
「そうなあ……」
なんだその言い方。肯定ってこと?
「なんてね、冗談冗談。顔に出てるってか、話の流れ上ね。ゆ……あたしの義理のお姉ちゃんみたいな人なら多分もっと前に分かってただろうけど。てか、そうなのか……。うちの義理のお姉ちゃんみたいな人が言ってたんだけど、『幼馴染への執着は普通の恋愛とはまた別種だから』ってことらしいから、美羽ちゃんが柳瀬に持ってる気持ちもそういうのなのかもね……」
行きずりの悩みみたいなものを真面目に考えてくれているらしい小沼、いいやつだな……。あと義理のお姉ちゃんみたいな人……俺も欲しいな……。
「ま、柳瀬は別に今は何も言われてないんだから何も考えなくていいんじゃない? そんじゃ、私は練習あるから。じゃね〜」
「いや、ちょっと待って」
「ん?」
立ち去りそうになった小沼が振り返る。
「伝言ってなんだよ?」
「あ、そうだった!」
小沼は、ごめんごめん、と言いながら常盤の伝言を教えてくれる。
「ちょっと長引くかもだから、『ポッターの相棒のお店に先に行ってて』だって」
なんで暗号気味……? と思ったが、おそらく、俺があのお店を自分の居場所として大事にしていることに気づいてくれて、そこはあまり広めないようにしてくれているんだろう。そういう気遣いは出来る人らしい。
いわずもがなだが、ポッターの相棒=フクロウということに違いない。
「ありがとう、分かった」
「それで、この暗号ってどう言う意味? フクロウって名前のカフェでもあんの?」
「…………」
「…………」
小沼に言い当てられてしまい、川越だけでなく俺も無言になってしまった。
川越は「あーあ」みたいな顔して俺を見上げてくる。俺のせいじゃないだろ。
「
先に着いた
「あなたにそれを言うだなんて、あまりにも配慮に欠けたわね。忘れてちょうだい、どうか今だけ、鈍感ラノベ主人公らしさを取り戻してもらえないかしら」
「ああー……うん」
川越はなんなら常盤の
だとしても、川越との秘密を常盤にも話せないのと同様に、常盤の秘密を川越に話すわけにもいかない。
「それにしても、小沼さんにも
「え、何が?」
「『どっから聞いてたんだ?』と聞かれたら普通、『『どう考えても、あの席替えは仕組まれているでしょう』からだよ』と答えるでしょう? それで、柳瀬くんが『全部じゃねーか!』と大ぶりなツッコミを入れるまでが様式美のはず。最初から、『全部だよ!』と答えてラノベチャンスを逃しているじゃない」
「そうかなあ……」
あれ、川越さん、意外と反省してない? ラノベチャンスって何?
と、その時、カランカラン……と扉が開く音がして。
「あ、あれっ!? や、柳瀬さん、今日もいらっしゃったんですか!? く、来るなら言っておいて欲しいです……!」
瑞歩さんは、またしても焦った様子だ。
少し経って、「お待たせ!」と合流した常盤に向かって、川越が小さな口をおずおずと開く。
「……ちょっと、いいかしら」
「おお……!」
「もちろん!」
常盤の前で自発的に声を発した川越に、俺も常盤も目を見開く。
常盤のその表情は嬉しそうで、それは川越が話すのを後押ししたようだ。「あれ、川越さんって喉の調子悪いんじゃなかった?」とか聞かないあたり、人間が出来ている。
「勉強会をするにあたって、いくつか条件があるわ……あるの」
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