第19話「『負けヒロインになりたくない』って意味くらい、分かるよね?」
「
「どういうことだ……?」
俺をじっと見つめる
小学校が同じだったということは確実にない。保育園が一緒だったとかなら……まあ、なくはないかもしれないが、そんな小さい時のことを常盤も覚えているものだろうか?
「なんにも覚えてないんだね? まあ、しょうがないかあ……」
「……ごめん。なあ、それってどういう」
「ダメ、教えてあげないよ、もう」
俺の言葉を遮り、片頬を膨らませる常盤。
「なんでだよ……?」
「私が言ったって仕方ないし……岩太くんが鈍感系ラノベ主人公なら、幼馴染は負けヒロインだから」
「いや、なんだそりゃ……」
いきなり意味不明なことを言うので緊張していたはず空気が
「『負けヒロインになりたくない』って意味くらい、分かるよね?」
常盤はそういって、俺の顔を覗き込んだ。
「いや、えっと……」
分かるというか、分かっていいのか分からないというか、なんと答えたらいいか分からずに口ごもる俺の後ろで、興奮した様子のタタタタタタタタ! という音が聞こえた。おい、川越……。
すると、不意に、
「……うん、やっぱりそうだ」
常盤がニヤリと微笑む。
「へ?」
戸惑う俺をよそに、常盤は体を曲げて俺の後ろにいる川越に話しかけた。
「川越さん、私が岩太くんとの恋を匂わせると、スマホを叩き始めるね?」
ギクッ……!と音を立てて川越の肩が跳ねる。
「た、試していたの……?」
「えへへ〜」
あやしい微笑みで肯定を表現する常盤。
「そろそろ、2人が何をしようとしてるのか、教えてくれるかな?」
「え、ほんと!? 川越さん、小説家ってこと?」
「常盤さん、声が大きいわ」
近くのカフェ。
だいたいのあらましを聞いた常盤が声をあげて、川越がコーヒーカップを片手に静かに睨む。
「ごめん、だって、すごいから……!」
「別にすごくない。もっとすごいはずだったのに、期待外れよ。毎朝、起きるたびに期待外れの未来を迎えたことに気づいて、毎日死にたくなるくらい」
イライラした様子で川越は吐き捨てた。
「ええ、なんかすごく重い……。そんなこと言ったら小説家には到底なれない私なんて、毎日死んじゃわないといけないよ……」
「あなたは別に小説で世界を変えようとか思ってないでしょう。別の目標とか別の夢があるでしょ?」
「いやあ、そんなちゃんとした目標とか夢とかは別にないけど……」
「はあ? じゃあ、なんのために生きてるわけ?」
「結局生きれないじゃん……」
常盤がうう……と縮こまる。『生きる』だの『死ぬ』だの、述語がでかい。主語がでかいの逆。
「何に向かって生きてるのか分からないのに、よく毎日息していられるわね。目的地もないのに歩いているのと同じことだわ」
「んー、でも、別にそんなのなくたって、歩いていて見つけたお店に入ったり、たまたま出会った人と話したり、いくらだって楽しく過ごす方法はあるよ? 今日のデートみたいに。ね?」
常盤は「ね、今日楽しかったよね?」とばかりに俺に目配せをする。
「はあ……あたしには理解できないの。どうして、そんな、あってもなくてもいいような一日をよしと出来るのか。あたしたちは一秒ずつ死に近づいてるのに」
「生きるとか死ぬとか、そんなことばっかり言って、川越さんって人生に一生懸命なんだね?」
「だから……人生に一生懸命になる以外にやることなんてあるわけ?」
川越は呆れたようにためいきをつく。
「でも、ずっとフルスピードでは走れないよ? 休憩もしなくちゃ」
「それは、努力できない人間が自分を甘やかすための言い訳でしょ? その間にライバルに差をつけられてることにも気づかないフリしてさ。『うさぎと亀』の亀が休んでるようなものだわ」
「もう、そんな感じだとすぐに体壊しちゃうよ? それこそ死んじゃうよ?」
「夢を叶えられずに長生きするよりはマシだわ」
川越はさっきから結構辛辣というか鋭利なことを言ってると思うのだが、それでも常盤は柳のように受け流しつつ、それでも会話を成立させていく。
「そうかなあ、ありふれた穏やかな日常にも幸せって色々あるとおもうけど」
「あなた、そんなことばかり言ってると、モブみたいな人生になるわよ」
しかし、その一言で、
「モブ……?」
常盤の表情が一変する。
「ああ、知らない? モブっていうのは……」
「それくらい分かるよ。あのさ、」
そして、ガタンと音を立てて立ち上がる。
「世界は、主人公だけのものじゃないんだよ」
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