第18話「お久しぶりですっ! 神田先輩!」
「あれ、
振り返ると、なんとそこにいたのは、以前、
「……ぅ」
一瞬表情を
「お久しぶりですっ!
と微笑む。
「おお、久しぶり……! あれ、なんか雰囲気変わった?」
神田先輩は少し戸惑ったみたいに微笑んで、常盤に聞く。
そっか、常盤がメインヒロインを演じる前の知り合いだから、今の常盤の挙動に違和感があるのか。しかし、常盤は川越がいる手前、それを認めない。
「そんなことないですよ? ね、岩太くん?」
いや、俺に話振るなよ。先輩が俺のこと知ってるわけないんだから気まずくなるだろうが。
「岩太くん……あ、もしかして中学の一個下の
「え……?」
嘘だろ、覚えている、だと……?
「岩太くん、返事はー?」
あまりのことに驚愕に目を見開いていると、常盤に笑顔でたしなめられる。
「あ、は、はい……その柳瀬岩太です……」
「……そっか、なるほど。君が」
「え、どうして俺のことなんて覚えてるんですか……っていうか、知ってるんですか?」
「あー、えっと……」
神田先輩は相変わらず困ったように微笑みながら頬をかいて、ちらりと常盤を見た後に。
「ほら、
「はあ……」
「理由、弱いわね……」
川越、うるさい。ていうか、絶妙に俺にだけ聞こえる声でよく喋れるな。
「2人で来てるってことは……え、もう同棲するとこまで来たの?」
「神田先輩?」
常盤がニコニコしながらキレるという芸当を見せた。すごい演技力。
「あれ? まだなの? じゃあ普通のデートか」
「神田先輩ー?」
「ええ、難しいな……あはは、ごめんごめん」
「……まあ、いいですけど……。先輩こそ、お一人ですか?」
「ああ、いや……あそこにいる人と」
彼の指す方を見ると、少し離れたお店の店先に並ぶ帽子を見ている女性。キャスケット帽にマスクをしているが、それでも明らかにかなりの美人だと分かる。
「彼女さんですか?」
「いや、
常盤の質問に、神田先輩は即答する。
「ベタな言い訳過ぎるわね……」
川越の小声におれは胸中で頷く。姉とかいうと「え、お姉さんとかいましたっけ?」ってなっちゃうからのやつだろ、それ。
「追及して、柳瀬くん」
うん、それは無理。
「あー、従姉妹さん……実在するんですね……」
モノローグで川越と会話していると謎に納得した様子の常盤。どういうことだ。
「はは、そりゃ実在するでしょ。なんか、プレゼントを選びに来たらしくって、付いてこいって。意見が欲しいんだってさ。なんでおれの意見なんてって思うけど……まあ、一人だと危ないこともあるしね」
「神田先輩も同じくらい目立ちますけどね?」
「ま、
「ふうん……?」
うーん、会話が全然意味不明です!
と思っていたら、向こうでこちらの会話に気づいたらしい神田従姉妹さんが近づいてくる。
「こんにちは。
「うん。正確には地元の後輩」
「お、いいね。地元ってことは、幼馴染ってこと? 参考に話を聞きたいな」
「いえ、中学だけなので幼馴染ってほどではないですね」
笑顔で
「あはは、そっか。それは幼馴染じゃないよね。キミたち2人は? 同じ制服着てるってことは、もしかしなくても同じ高校に通ってるのかな?」
「はい、そうです」
「へー……」
神田従姉妹さんは不意に俺をじー……っと見て、
「うん、キミはなんかいいね、鈍感系ラノベ主人公っぽくて」
と微笑んだ。
出会い頭にまあまあ失礼な気がするが、言い方に嫌な感じがしないから、全然不快にはならなかった。むしろなんか褒められてる感じがして嬉しかったくらいだ。
「れおちゃん、プレゼント見つかった?」
神田先輩が神田従姉妹さん(れおちゃん?)に尋ねると、従姉妹さんは「うーん」と応じる。
「ちょっと微妙かな。なんかサウナグッズがあるかなと思ったんだけど」
すると、ここらへんに詳しいらしい常盤が、
「それなら、サウナハット専門店が向こうにありますよ」
と斜め左の方を指さした。
「お。それは良い情報だね、ありがとう。じゃあ行ってみようかな。また話を聞かせてね」
マスク越しでも分かるほどにたおやかな笑みを浮かべて、神田れお?さんは「それじゃ行ってみようか」と歩き出した。
「それじゃな、美羽も岩太君も」
神田先輩もそれについて、爽やかに笑って立ち去った。
「……ふう、緊張したあ……」
常盤が大きく息を吐く。
「な、神田先輩がいきなりいると思わなかったよな……」
「いや、それもだけど……従姉妹さんの方だよ……実在したんだ……」
「従姉妹が実在したってなんだよ?」
「え。岩太くん、知らないの?」
信じられない、と言った風に常盤は目を見開く。
「
「あー……。……え、そうなのか!?」
その名前は知ってる。
神田玲央奈。娘にしたい芸能人No.1の座を譲らない、それこそ橋本環奈並の女優だ。
「言われれば、苗字一緒だけど……いや、それだけじゃわかんないだろ……!」
「もう、岩太くん本当に鈍感系ラノベ主人公だね?」
「いや、ラノベ関係ないだろ。芸能人に会えるとか思わないから……」
「ま、気持ちは分かるけどね?」
それにしても……。
「なあ、常盤。これ、聞かれたら怒るって分かってるんだけどさ」
「何かな?」
「なんであの人フったの?」
「え、そうなの?」
俺の言葉に川越が反応する。が、常盤はゆっくりとその目を細めた。
「……本当に怒るよ?」
「だよなあ……」
そりゃそうなのだが、神田先輩があんなに感じの良い人だとは知らなかったのだ。エピソード的に、自分のイケメンっぷりを鼻にかけた嫌なやつなんだとばかり思っていたから……。
「ま、今の会話でその理由が分からないなら、本物の鈍感系ラノベ主人公だね? 安心するよ」
いや、ていうか……。
「じゃあ、俺じゃなくて……”読者”的な感想を言うとさ……」
「うん、どうぞ?」
期待するような、試すような目で俺を見る常盤。
こんなこと言って良いのか分からないけど。
「それだと、常盤が俺のこと好きみたいなんだけど……?」
「うん、私はずっとそう言ってるつもりだけどね?」
彼女は「今更?」みたいな顔で呆れる。
「いや。あのな。さすがにそれは勘違いとかのレベルじゃなくて……」
「勘違いだなんて、私言ってない」
俺の言葉は遮られてしまう。
おい、ちょっと待て、この話を、どう運ぼうとしてるんだ?
「いや、好きになる理由がないだろうが……」
常盤の意図が読みきれず、様子見みたいなぼんやりした言葉を継ぎ足すことしか出来ない。
「理由とかどうでもいいし、理由はちゃんとあるよ」
「は……?」
「ねえ、岩太くんはさ、」
常盤は俺をまっすぐに見据える。
「私が中学だけ同じ人のこと、本当に幼馴染なんて言うと思ってるかな?」
俺はついさっきの違和感を思い出す。
『お、いいね。幼馴染ってこと? 参考に話を聞きたいな』
『いえ、中学だけなので幼馴染ってほどではないです』
そして、彼女は続けた。
「岩太くんは、私の幼馴染なんだよ?」
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