第17話「ほら、家具屋さんだよ! どっちが告らせるか勝負しよっか」
「うーん、あのお店は危険だったね」
結局何も買わずにお店を出た
「インスタに載せさせてくださいなんて、非常識だと思わないかな?」
「それが目当てで行ったみたいなとこあった気がするけど……」
「ふーん? じゃあ岩太くんは、あのままインスタに載ってモテたかったんだ?」
あざとく片頬を膨らませる常盤。
「そんなに簡単に人はモテ始めたりしないだろうが」
「ふーん? 私のコーデにケチつけるんだ?」
「いや、八方塞がりなんですが」
ていうか、いつもとめんどくさいの方向性が若干違くない?
「まあいいや。次は何をしようかなあ……あ!」
常盤は少し先にあるお店を指差す。
「ほら、家具屋さんだよ! どっちが告らせるか勝負しよっか」
「それは
正確に言うと、『オタクだって川越に知られてもいいのか?』だったのだが、それこそ川越に聞かれたら意味がない。
「オタク? 『かぐや様』は実写化もアニメ化もしてるからね。マンガはなんでもオタクのものだと思わないで欲しいな?」
「うっ……」
その言葉はオタクのみぞおちあたりをえぐる。
オタクは自分のテリトリーでしかマウントが取れない生き物なのに、「そこはあなただけの領土ではないよ? わたしたちみんなのもの!」などと強者に侵略されたらもう居場所がなくなってしまうじゃないか。
「どうしたのかな……? 私、なにか気に障ること言っちゃったかな……? ごめん全然心当たりがなくて……」
「そうだろうな……」
「『え、お客様オタクなんですか? 私もオタクなんですよぉ〜。ワンピースとかめっちゃハマって10巻くらいまで読んじゃいました!』っていう美容師さんと逆のことしただけなんだけど……」
「たしかに……」
陽の者がマンガの話をしただけでもう負けは確定していたと言うことだ。しかし、その『オタクのイメージする美容師』のイメージは古くないか?
などとキモオタのモノローグを展開している間に、常盤は家具屋さんに入っていく。
「どのテーブルがいいかな?」
「何が?」
「もう、私たちが一緒に暮らすなら、に決まってるでしょ?」
「決まってないでしょ?」
「あっ……」
俺の返答に常盤は下唇を噛んだ。
「そ、そうだよ……ね……。ごめん、私、勝手に突っ走っちゃって……。そうなったらいいな、って思ってたから……妄想と現実をごちゃ混ぜにしちゃ、ダメだよね……?」
「え、えーと……」
いや、まじで妄想と現実をごちゃ混ぜにしちゃダメだと思うし、本気で常盤がそうなっちゃってるなら叱ってやるのが優しさという気もするんだが、このうるうるの上目遣いの前で、「ああ、ダメだろ」なんて言ったらラノベ主人公の名が
「あっ、ソファーだ!」
今の演技に飽きたのか、常盤は2人掛けのソファに座る。
そして、ぽんぽん、と自分の隣の座面を叩く。「ここに座れ」という意味だろう。
「座り心地はどうだ?」
俺は立ったまま聞くと、
「なんでよ、座ってよー」
と片頬を膨らませる。
「いや、俺はいいよ……」
「なんで?」
思春期男子だからだよ。とは言えず、
「疲れてないし……」
などと意味不明なことを言いながらもじもじしていると、
「っ!?」
後ろから小柄な女性にぶつかられて、押される形でソファに座ってしまう。
「川越……!」
「…………」
俺が睨むのを無視して、川越は「まあなんと素敵なワインの空き瓶かしら」みたいな顔をしてテーブルの上を物色しているふりをする。それ売り物じゃねえよ。
「座り心地いいねえ、岩太くん」
隣に座っている常盤は俺の肩に頭を載せてこようとするので、
「そうだな! 俺はもういいかな」
と立ち上がると、常盤は「もー」とまた片頬を膨らませる。
「そろそろ出るか、常盤」
「わかったよー。なかなかなびいてくれないなあ、岩太くん」
ていうかそこまでやってどうするんだ。
そして家具屋を出たところで、
「次はどこ行こっかー?」
と常盤は俺の方を完璧なメインヒロインの笑顔で振り返り、
「……うわ」
それと同時、完璧なメインヒロインの表情が崩れた。どうした……?
俺が疑問に思った瞬間。
「あれ、
「……ぅ」
振り返ると、なんとそこにいたのは、以前、常盤に告白したイケメン先輩だった。
「来たわね、ど定番イベント……!」
川越、うるさい。あと、お前はこの人が誰か知らないだろうが。
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