第8話「……柳瀬くんが一緒ならいい」
カフェ・
ちょうど窓際の丸テーブルの席に座った頃、
「ただいまー……って、あれ!? 柳瀬さん!? 今日はバイトじゃないんじゃ……」
黒いセーラー服姿の
「おかえり、瑞歩」
「た、ただいま」
くしくしと前髪を直しながら
「お、お父さんはいいよ。わ、わたし接客するから……!」
制服姿のまま俺たちのテーブルに持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「は、はい。あ、あの、
瑞穂さんは常盤を手のひらで指し示す。
「
「は、はあ……柳瀬さんとはどういった……ご関係で……?」
「幼馴染です」
「そっち派なのね……」
ぼそり、と俺にだけ聞こえるような声で川越が言う。中学から一緒は幼馴染かどうか問題のことだろう。
「お、幼馴染……。お強い属性ですね……」
「属性?」
ぶつぶつと何かに
「それで、こちらの女の子は……」
と説明しようとすると、
「あ、この方は存じ上げています。
瑞歩さんが遮る。
「え、知ってるんですか?」
「はい、昨日ぶり……ですから」
「…………ふーん?」
常盤が目を細めてこっちを見てくる。だからなんだよ。
「あ、えっと、ブレンド3つで……いいか? 常盤」
「はい。私はいいけど、川越さんには聞かないの?」
『おん? 知ってるから聞かないのかな?』の圧。
「……川越もブレンドでいいか?」
「…………」
無言でこくり、と頷く川越。
「常盤さんはミルクとお砂糖使いますか?」
「はい、どっちもください。……そっちのお二人がブラック派かどうかってことを店員さんも知ってるんですね?」
「え? ……あ! と、とにかく、ご、ごゆっくりですう……!」
さすがに
ていうか、常盤、やりすぎじゃない?
「それで? どうして突然ファミレスにいきたいなんて」
「ちょっとね、川越さんに相談があるんだよ」
「相談?」
「そう。あの……ね?」
常盤は覚悟を決めたようにガバッ!と手を合わせて、
「勉強、教えてくれないかな?」
と頭を下げた。
「…………」
無言。
「川越、口を開かないと話が始まらないぞ……」
「…………!」
俺が
怒っているというよりは、「え、やっぱりそうなの……?」という顔。
「え。えっと……」
お。川越がもそもそと口を開いた。
空中に言葉を探しているように、キョロキョロとしてから……。
「常盤さんって、バカだったの?」
「おい!?」
言葉を探した結果がそれかよ!?
「そうなんだよー……」
常盤さんは意外と受け入れるのが早い。
「私、成績良さそうに見えるでしょ?」
「ええ……う、うん」
『ええ』は小説の登場人物っぽいと思ったのか、訂正する川越。ていうか、自分でいうか常盤美羽。
「でも実はあんまり頭良くなくて……今度の中間試験までに、なんとかしないと……」
「……どうし……なんで、あたし……かしら。……なの?」
ちょっと気の毒なくらいブレブレだ。
「川越さん、成績いつもいいでしょ? だからいつも、どうやって勉強してるのか知りたいなって思ってて……。でも、何回か話しかけたけどちょうどその時どこかに行っちゃったから、うまくお話出来なくて。それで、岩太くんと仲良しなら岩太くんに紹介してもらおうと思ったんだ」
ちょうどその時どこかに行っちゃったっていうか、無視だろそれ。
「どう……かな?」
上目遣いの常盤に見つめられ、川越は少し逡巡する。
そして。
「……柳瀬くんが一緒ならいい」
と答えた。俺の意見は?
「それは全然構わないんだけど……でも、」
ちら、と常盤は俺を見てから、テーブル越し、川越に何かを耳打ちする。
「…………はぁ?」
川越が盛大に顔を
「え、違うの?」
「違うわよ。どうしてあたしが昨日今日初めて話したこの人のことを好きになるのよ。『そんなにあからさまに一緒にいたがろうとすると岩太くんに好きだってこと、バレちゃうよ?』じゃないわよ」
「あ、言っちゃった……」
常盤が「ええ……」みたいな顔してる。あまりのことに川越も普通にべらべら喋っている。
「でも、そうじゃないなら、どうしてそんなに柳瀬くんと一緒にいようと思うのかな?」
「そ、それはっ……!」
そしてそこで川越はしどろもどろになり、やがて。
「………………」
さっきまでの無口モードに戻る。便利な機能だな、それ。
「あのな、常盤。別に川越のこれはそういうんじゃなくて……」
「……うん、そっか」
俺の釈明を無視して常盤は何かを納得したらしく、
「とにかく、私は頼んでる立場だから、川越さんの言う通りにするよ。じゃあ、3人で勉強会させてもらえるかな?」
「…………」
こくり、と川越は頷く。
「よかったー!」
ということで、学園ラブコメ名物、勉強会の開催が決定した。
ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
「すごく混んできたよ。座れてよかったねえ」
「まあ、そうね……」
……そりゃ、家の最寄駅が同じなんだからそうなるよな。
ちょっと考えれば分かることだったのに、どうも油断していたらしい自分に呆れる。
俺は常盤美羽と共に、家に繋がる電車に揺られていた。
新宿始発のその電車は1、2本見送れば座って帰ることが出来るが、俺はなるべく早く帰りたいと言うか家の最寄駅につきたいと言うか常盤との会話を最低限にしたく、混んでいる電車に乗ろうとした。
のだが、袖口をくいっと捕まれ、上目遣いに、
「一緒に座れる電車を待つよね?」
と
「一緒に帰るの、久しぶりだね?」
「そうかもしれないな」
いや、語尾あげる必要ないだろ、圧が強いよ。
久しぶりの2人の帰り道になんとなく耐えられずに、俺はつい。
「……相変わらず、
当時のような軽口を叩く。それに、
「岩太くん以外の人にも言えるようになっただけいいでしょ?」
常盤は、あの時みたいに応じた。
「川越が他の人に言わないだろうから……ていうか、言う相手がいないから明かしてもいいと思っただけだろ」
「もう、ひどいなあ。岩太くんはいつも私のこと、嘘つきみたいに言うよね」
「嘘つきだとは思ってないけど」
「嘘つき」
常盤は、俺のことを、そう呼んで薄く笑う。
『やっぱりああいう子がいいの?』
『まあ、そうね、女のあたしから見ても抜群に可愛いし、スタイルもいいし、性格も良さそうだし、育ちも良さそうだし、発育も良さそうだし』
川越の見立ては、限りなく正しい。
常盤美羽は、正真正銘、完全無欠のメインヒロインである。
なぜなら。
「私の擬態が嫌になって逃げたくせに」
彼女は
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