第二章

第五話


「え~、何で逃げちゃったのー! 魔法少女になれる大大大チャンスだったのに!」

「いやいや流石に無理! いくらなんでも非合法のグループに所属はちょっと……魔法少女になりたくて犯罪者になっちゃったら笑えないし」

「非合法の魔法少女かあ、聞いたことないな。よく分かんないけど、まあ入っていいんじゃね?」

「て、適当過ぎない!?  私の今後の人生がかかってるんだけど……」

 家に帰り、心臓をバクバクさせながら一晩明かし、次の日の学校。放課後になり、ミカとルシに昨日あったことを人の寄らない校舎裏で丁度伝え終えたあと。

 断ったせいで何か危害を加えられるのではないかと、正直今でもビクビクしている。

「それにあの人達と一緒ってのはちょっと……戦ってるとき超怖かったし、ギャッハハハハ! とか笑ってたし……」

「そんなに怖い人達だったの?  見た目はどんな?」

「まあ服装は魔法少女そのもので、顔も普通にしてたら可愛らしかったんだけど……どんな、か……あ!」

 視界の端にピンクの髪と装束が特徴の少女が確認できた。昨日見た子と似てる。

「そうそうあんな感じ!  ……って、ええええええ!」

 似てるというか本人だった。目が合うと、ずんずんとこちらへ距離を詰めて来る。

「よぉ……探したぜ」

「なな何でここに!?」

「オレは特別鼻が効くからな。お前の匂い覚えておいて、辿って来た」

「に、匂い!?」

 犬や猫でもそこまで便利な鼻を持ってないと思う。

「お~、もしかしてばけっちゃんが言ってた子? 魔法少女さんこんな近くで見たの始めてだよ〜」

「じゃ、あんたが私の友達を助けてくれたってことか。ありがとな」

「おう。悪いがあんたらのダチ借りてくぜ」

 よく分からないけれど、出会ってすぐなのに上手く会話できている両者。コミュニケーション能力の差を強く感じる。

 それより彼女、借りてくと言った。

「か、借りてく……ももももしかして昨日のを根に持って……!」

「ああ? 何被害妄想っちまってんだ? それより早くアジトに行くぞ!」

「あ、アジト? 行かないってば! チミドロ……なんとかには入らないっていいましたよね!? あ……す、すみません語気を強くして……」

 怒ってしまったかと相手の顔色を伺うも、彼女は不思議そうに首を傾げているだけだった。

「そうだっけか?」

「へ?」

「悪ぃな自分に都合の悪いことは寝て忘れるようにしてんだ」

「なんて都合のいい体!」

「ま、いいだろ! お前はオレの仲間、オレがそう決めたんだしそれでいいじゃねえか」

 あまりにも強引だ、この強引さはむしろ羨ましくある。暴君のような彼女に対し、ミカとルシは一歩前に出て告げるのだった。

「こいつ、色々言ってるけど本当は魔法少女になりたいってずっと思ってたんだ」

「引っ込み思案なところあるからガンガン引っ張ってあげて」

「なっ!」

「ほら、お前のダチもそう言ってるぜ」

 いやいややっぱり二人共他人のことだからって適当に考えてるでしょ!? どこか楽しんでない!? そう言おうとしたのに防がれてしまった。ピンクの魔法少女に腰を掴まれ、そして持ち上げられたのだ。私より背の小さな相手に担がれる。

「へ? な、何!?」

「先に言っておくが、暴れんじゃねえぞ」

 私を抱えつつ、少女は全力疾走。校舎の壁に向かって走り出し、大きく跳躍する。壁面に足裏を付けると、あろうことか垂直に伸びたそれを駆け上って行くのだった。

「うわあああああああああああああああっ!!」

 暴れるなと言われても無理な話、叫びながら手足を精一杯振る。

「んじゃ、ばけっちゃん。また明日ね~」

「やっぱ魔法少女ってすげえな……バスケでも活躍出来そうだ」

 あまりに能天気な二人の言葉が耳に届く中、壁を登りきったと同時にジャンプ。そして着地するのは学校の屋上だった。

「よし、誰もいねえみたいだな」

「はあ、はあ……死ぬかと思った……」

 肩から降ろされ、震える足で地に足をつけた。笑ってる膝に手をつき、荒くなった息を整える。絶叫マシンでも中々味わえないような恐怖を堪能した、今のできっと五年は寿命が縮んだだろう。

 まだ心臓が爆速で鼓動している私に、魔法少女はおいと声をかけた。顔を上げると、彼女に何かブレスレット状の物を差し出される。

「ほら、受け取れよ」

「これは……バングル?」

 見た目は黒がメインのシックなもの。オシャレではあるがアクセサリーではなく、魔法少女が変身する際に必要なアイテムとなっている。

 正式名称は魔素注入小型装置――――――マジカル・バングルなんて長ったらしい名前。

 魔法少女は体内に魔素があるからこそ力を行使できる。そのため戦闘前に魔素を注入する必要があるのだが、それを簡易的に行ってくれるのがこの装置。

「それとこれもだ」

「今度はステッキ……」

 次に差し出されたのは近未来的な白い棒状の機械。

 こちらも名前が長く、多機能戦闘補助装置――――――マジカル・ステッキと呼ぶらしい。魔法少女が戦闘の際に着用する魔法装束や、武器となる戦闘兵装を召還するために必要となる。用途はそれだけでなくカメラで写真を撮ることやチャット機能もあり、まさに多機能。

「へえ、知ってんだな?」

「う、うん……魔法少女になりたくて、色々調べてたから」

 これら二つの道具が魔法少女として戦闘するために必須であり、彼女達はこれらを常に携帯しているということを本で学んだ。

「すごい……魔法少女の変身アイテムがこの手に、感激……だけど、何でこれを私に?」

「あ? 変身セットを渡したんだから、魔法少女に変身してもらう以外あるか」

「へ、変!? 私が……!? ちゃんと協会に認められた魔法少女じゃないと変身しちゃダメなんだよ? 違法なんだよ!?」

 魔法少女になると身体能力は飛躍的に向上し、更には魔素で練った弾やビームまで放てるようになる。魔素での攻撃は魔獣相手には滅法効くものの、人間相手には効果が薄いという特性を持つ。

 とはいえ凶器足りえる存在だ、一般人が変身することは違法とされる。

「違法にはなんねえよ。お前もチミドロフィーバーズの仲間だ、変身しても問題ない」

「ほ、ホントにホント……?」

「ホントにホントにホントだ! わかったら今すぐ変身しろ、こんなとこグダってる暇ねえんだよ!」

「は、はいぃ!」

 顔をぐっと近付け強く言う少女、引きつった声で返す。言われた通り変身しないと、昨日の魔獣と同じようにぐちゃぐちゃのスプラッタにされそうだ。

「えーっと、ま、まずはバングルを装着……」

 普段は二の腕大のそれだが、右手に通すと一気に収縮。私の手首にピッタリとフィットする。

「へえ……こんな感じなんだ、すごい技術」

「甲の部分にタッチできる箇所があんだろ。そこに触れてみろ」

 言われて、人差し指でタッチ。

「……っ、痛っ!」

 突然鋭い痛みが走る。

 バングルの内部には二本の針が存在し、それが飛び出し体に突き刺さることで体内に魔素が注入される。痛みの原因はそれ。針先からドクドクと魔素が流れてくるのを感じ、鋭痛と重なる不快感に思わず額から汗が噴き出してしまう。

「痛いっつっても注射器ぐれえだろ。その内慣れるぜ」

「はあ……もう、大丈夫みたいだけど……」

「魔法少女は魔素がないと戦えねえ、武器や装束を召還することもできねえ。逆にいや魔素を注入した今、お前はもう魔法少女だって言ってもいい。けど華がねえからな、ステッキを使って魔法装束を呼び出してみろ」

「ええと、確か……」

 テレビやニュースなどでよく見る戦闘中の魔法少女のことを思い出し、貰ったステッキを強く振る。すると、宙にホログラムウィンドウが展開。

「おおっ……! よく見る奴が出て来た」

 ホログラムと言えど触れることができるようになっていて、基本はタッチパネルのように操作する。戦闘兵装、チャット、マップ、カメラなど多くの欄がある中、魔法装束と記されたアイコンを選択。

 よし、あとは召還。

 手をバッてやることで魔法陣を展開し、変身できるはず。記憶を頼りに勢いよく右手を真横に払う。

 が、何も出てこなかった。ただ恥ずかしい思いをしただけだった。

「あ、あれ……何も出てこない」

「勉強してきたらしいが、そこら辺はまだまだみてえだな。いいか、魔素は感情に反応する。変身したい、そう強く思いながら手をバッと伸ばす! そしたらドカンだ!」

「感情に反応……わかった。変身したい! したいしたいしたい~!」

 今度は強く念じながら、もう一度同じ動作を行う。すると魔方陣がドカンと、ではなく普通にスッと現れた。出現したピンクの陣は右から左へと私の体を通り越し、消えた。

「? 何が……っ、私の服が変わって……!」

 来ていた制服が光に包まれたかと思うと、次の瞬間には魔法少女のそれに変化していた。

 ――――――ずっとずっと、自分も着てみたいと憧れていた魔法装束に。

 レースのついた膝上まで丈のあるスカートやハイソックスは黒、装飾であしらわれた白のトップスにロンググローブ、リボンのついたカチューシャなんかは白と、全体的にその二色で彩られている。

 シックでいて魔法少女らしい装束だ。

「か、カッコカワイイ……! けど、元の制服は……?」

「戦闘が終わると勝手に元着ていた服に戻るから問題ねえ。魔素は感情に反応するっつっただろ、魔獣を倒して決着が着いたと認識すると時間が経ったあとに変身が解除される。魔法装束は着ているだけで敵の弱い攻撃を防げる優れもの、最悪無くても戦えはするが着用するのが基本だな」

「わ、わかった…………それにしても」

 再度自身の恰好を見てみる。

 バングルにステッキ、そして魔法装束。夢にまで見た魔法少女の装備が今自身の体に。感動のあまり涙が出そうだった。

 手やら足やらあらゆる角度からつい眺めてしまう。

「私、魔法少女になったんだ……あの憧れの魔法少女に!」

「よし、今からお前には魔獣と戦ってもらう」

「え……?」

 溢れそうだった涙は一気に引っ込んだ。

「あと少ししたらこの場に魔獣が出現する。お前はそいつを」

「は、はぁ!? た、確かに魔獣を倒すのが魔法少女の仕事だけど、私初めて変身したんだよ! なのにいきなりバトルって!」

 いくら調べたといえど戦い方まで研究したわけではなく、むしろ全くの素人。魔法陣すらまともに出せなかったのだ。それなのにいきなり戦えだなんて、何かの冗談だろうか。

 と、考えたけれども彼女の表情は真剣、腕を組みながら仁王立ちでこちらを見やる。

「……それと、この場に魔獣が出現する? 何でわかるの?」

「最近度々起こってる現象、聞いたことあるだろ? 街中に突然魔獣が、ってやつ。オレはそれを事前に察知できる。さっき特別鼻が効くっつったろ、魔獣が出現する直前に発生するゲロみてぇな匂いまで嗅ぎ分けれんだ。今回はこの学校の屋上から匂ってきた」

 魔獣の出現する位置が事前にわかる、もしそれが本当ならとんでもない。協会の魔法少女達でも対処できない存在を容易に倒すことができるのだ。

 でも、そんなこと。

「信じてねえって顔だな……もし言ってることが嘘だとしたら、お前が蜘蛛に襲われているとき、オレ達が都合よくあの場にいたのはどう説明するんだ? 偶々にしては出来過ぎじゃねえか?」

「う、うーん、そうだけどさ……」

「ま、蝙蝠のやつは先越されちまったがな……あ、そうだ。まだ名前言ってねえ!」

 ハッとした表情を見せたあと、ピンクの魔法少女は大きく声を上げた。

「耳かっぽじって聞きやがれ! 姓がマジ名がデス花、並べて呼んでマジデス花だ!」

「え? 名前、マジデス花? マジデスカ……?」

 キラキラネーム……って感じじゃない。なんだろう、ヘンテコネーム?

「えと……切崎ばけつです」

「んだそれ~、名前無機物じゃねえか! ギャッハ!」

「一番名前を笑われたくない相手に笑われた!」

 なんだろう、こうして会話しただけでチミドロフィーバーズとやらに入っても上手くやっていけないとわかる。まあ初めに比べて恐怖は感じないけれど。

 どうやら彼女には二つの側面がある。戦闘中のマジカルバーサーカーな彼女と、それ以外の落ち着いた彼女。

 非戦闘時は色々説明してくれるし、会話も通じるようだ。

(ずっとこの調子でいてくれたらいいんだけど……)

 なんて思っていると視界の端に見えた。

 四方を囲む柵、敷き詰められたコンクリート。だだっ広さに反して静かな屋上の中心で、展開された魔法陣。

 地に刻まれたその術式の中心から黒い何かが這い出て来た。思い出すのは墓地での出来事。

「デス花、あれあれあれ! 来たんじゃないの!?」

「あ? おー、匂いが強くなったと思ったらついに出てきやがったか。鮮血散らす覚悟をしとけ、戦闘兵装を召喚しろ」

 言われて、再度ステッキを縦に振る。武器の召還方法も魔法装束とほぼ同じ、戦闘兵装の欄から目に留まったものを選択。

 ――――――がァァアアアアアアッ!!

「ひっ……!」

 ついに魔獣が出現。黒い体毛を全身に施した二足歩行の怪物だ。姿形は猿に近いが、その豪腕と四メートルはあるであろう体躯は猿というよりゴリラ。

 出現すると同時、戦闘経験豊富なデス花が後方に下がる。

「臆すなっ! 魔獣相手に一番やっちゃいけねえのがビビること。さっさと手に持って構えろ!」

「じ、自分は安全圏に逃げて……仕方ない……あいつを倒すための武器、召還したいしたいしたい~!」

 さっきと同じ要領で前方に魔法陣を展開し、そこから権限させるのは戦闘兵装   

 ――――――マジカル・ボウ。

 魔法少女が戦闘で使用するスタンダートな機械弓。憧れの人も普段使用している武器で、その影響から使い方はちょっぴりだが知っている。

(武器に触れると同時、弦の間に小さな魔法陣が生成される。そこに指で触れ、強く引く)

 銃弾の無いマジカルガンと同じで、マジカルボウにも矢はない。代わりとなるのは使用者の魔素。

(出来た、魔素の矢! けど、怖い怖い怖い~……)

 私達二人を発見すると、呼吸を荒くし今にも突撃してきそうなほど興奮する魔獣。     

 そんな相手の胸の中心部を狙って構えた。

「これで、なんとか……な~れ!」

 そして、放つ。

 エリンギのように細く、蚊が止まるようなスピードで飛んで行く矢を。

「……なんか、しょぼくない?」

 狙いの箇所にはヒットするが、貫くことも抉ることもなく光の矢は弾かれて消えてしまった。

 効いてる様子はなく、魔獣自身も困惑しているようだ。

 ――――――ガ、ぁぁ……?

「な、なんで……?」

「言っただろ? 魔獣との戦いで臆すんなってな。怖がってちゃ碌な威力の矢になんねえよ」

 魔素は感情に反応する。つまり私の中の恐怖が矢を弱くさせたのか。

 なら逆に相手を倒すという意志さえ持てば。と思ったけれど、あんな化け物を前にして勇気を出せるほど私は強くない。

 ――――――がアッ!

 痺れを切らした魔獣は、その肥大した腕を強靭なはずのコンクリートへ軽く突き刺し、勢いよく振り上げた。

 瓦礫の塊が投擲され、向かってくる。喰らってしまったら一溜りもないだろう。

「うわぁっ!」

 向かってくる攻撃に対し恐怖で目を瞑り痛みを覚悟するが、何も感じなかった。魔法少女になって体が強くなったのかと思ったが違う。

 デス花が前方に立ち、橙色の魔方陣を展開して瓦礫を防いだのだ。

「まずは慣れろ、戦場の匂いにな」

「魔法陣がシールド代わりに……?」

「『敵の攻撃を防ぎたい』そう念じて生成した魔法陣だ。このように防げ――――――て」

 説明する最中、上から降ってきた小石がデス花の頭に当たる。

「あ、大丈夫?」

 おそらくさっき魔獣が瓦礫を放ってきたときに生まれたものだ。軽くデス花が俯く。

「…………ギャッハ!」

 そして次に面を上げたときには、目は三白眼で表情は狂気のものに変化していた。

 あのときの、戦闘中に見せる『ハイ』の状態だ。

「そうか……よっぽどオレとやりてェみたいだなァ。オレ狙いで攻撃してくるたァそういうことだろ?」

「今のは偶然当たっただけでは……?」

「体が血を臓物を痛みを苦しみを戦闘を嬲り合いを求めて騒ぎ立つのを感じるよ……いいぜェ、相手してやるよクソ猿ッ!」

「あれ? 私の特訓じゃ……」

「ギガント・十六式ィ!」

 デス花が叫ぶと、右腕にギガントと呼んだ機械腕が纏う。前見たときのように彼女自身の体ほど大きくはない。大体半分程度。だが見劣りはしない。

 あの武器、まさか可変式なのだろうか。

 駆け出し、一直線に相手の元へ。目にも止まらない速さで相手の懐に入り込んだデス花は、相手のどてっ腹に一撃かます。

 ――――――ギャッ……!

 悲鳴を漏らしながら、猿の魔獣は吹き飛ばされた。コンクリートの床を転がり、やがて仰向けに。

「オラ次ッ! もう一丁、ギガント二式だァッ!」

 今度は片腕だけでなく両腕にギガントが纏う。可変し次に見せたのは極小の腕。今までと比べると大きさもパワーも明確に劣って見えるボクシンググローブ程度のサイズ。

「絶望しろ……オレに会ったことをよォ!!」

 だが下位互換とは言えない。小さくなるがその分身軽に動くことができるようになるから。

 高く跳躍、倒れた魔獣の胴体に跳び乗った。そして繰り出される鋭く素早いラッシュ。

「ギャッハ! ギャッハハハハハハ!!」

「や、やっぱりイカレてる……」

 十発や二十発程度ではない。百発を超える打撃の猛攻に、すっかり魔獣は意気消沈といったところ。

 魔素は感情に反応する。ならデス花が強いのは、感情が戦いたいという衝動に振り切っているからだろうか。

「もうデス花一人でいいんじゃないかな……って、え?」

 視界の端、映った。校庭に広がる魔法陣、魔獣が出現するサインだ。

「も、もう一つ!?」

 校庭には屋上での騒ぎを聞きつけたか、放課後にも関わらず人が集まっている。そんな中展開された魔法陣だ。

 その存在に気付く者、そして気付かない者もこのままだと等しく魔獣に襲われる。

 ――――――がァァアアアアアアッ!!

 二体目の魔獣が出現。先に現れたのと同じ猿型だ。巨体が地に降り立ち奴の咆哮を聞けば、流石に辺りにいた皆は異常を察する。

 それぞれ悲鳴を上げながらこの場を離れていった。

 逃げていく学生達を見つけ、その背を両腕を構えつつ追いかけようとする魔獣。デス花は目の前の相手を殴り続けるのに夢中になって気付いていない。

(このままだと、あの魔獣にみんな……!)

 ――――――そう思った瞬間、昨日子供達が襲われそうになったときと同じように、自然と体が動いた。

 柵を越え、屋上から何メートルも離れた地面へ飛ぶ。そして着地。身体能力の飛躍的な向上によるものかわからないが、衝撃は殆ど感じなかった。

 自分でも驚くような速さで疾駆し、奴の前に立つ。そしてデス花がやったように前方へシールドを広げた。

「い、行かせないから……!」

 とんでもない図体を持った化け物の突進だが、強固な魔法陣はそれを防ぎ弾いた。

「……倒す、それだけを考えていればいい!」

 魔方陣を消失させ、手にしたままのマジカルボウを構える。

 そして矢を引き、放つ。

 ――――――ザッ!

 ――――――ギャ、あ……!

 さっきのしょぼい矢とは違う。太く速い矢は、相手の胸を貫いた。

 胸に真円の穴を開けられた魔獣は、体をぐらつかせ倒れる。

「や、やった! 倒した、よね……」

 もうピクリとも動かなくなった。絶命したと見ていいだろう。

「私にも出来た。化け物を倒すこと……! 私にだって魔法少女として戦えた!」

 そしてそれだけじゃない、新たな発見もあった。

「…………見つけた、私の武器。私の、普通以下じゃないとこ……」

 誰かを守りたいという思いが、人一倍強いこと。ずっと胸の内にあったものだけど、それが人より秀でていて誇れる部分だとは考えていなかった。

 でも今回はその思いの強さのおかげで上手く行った、誇っていいのだろうか。

「魔法少女になること諦めてたけど、あの子達と一緒にもう一度夢を……」

「ねえ、そこのアンタ!」

「はい?」

 呼ばれて声がした方見てみると、展開された宙の魔法陣から校庭へ降りてくる二人の魔法少女が確認できた。登場の仕方はチミドロフィーバーズと似ているが、おそらく彼女達の仲間ではない。

「もしかしてアンタがここの魔獣を倒したの!?」

「えっと、はい。ああ、でも二体いて屋上のは仲間……? が。それよりあなた達は?」

「協会から派遣された魔法少女です。この場に魔獣が出現したと知らせがあったので急いで来ました」

「てか聞きたいのはこっち!」

 黒髪ショートの落ち着いた方と、赤髪ドリルツインテの勝ち気な方。赤髪はジトっとした目でこちらを睨む。

「あんたは何!? 協会の魔法少女じゃないでしょ、アンタみたいなの知らないし!」

「は、はい……協会のではないですけど」

 すると協会の魔法少女二人は顔を見合わせ、ヒソヒソと話し始めた。

「あのヘンテコ三人衆の仲間? いやそんな報告は無いし……」

「じゃあこの人は……」 

 話が付いたのか、二人は私の前に立つ。何故かどちらも怖い形相を浮かべている。

「大人しくしていなさい。手は後ろ、両方の手首をピッタリくっつけて」

「今から協会支部に連れて事情聴取するから! 変なことしたら容赦しないよ、この犯罪者!」

 マジカルガンを瞬時に召還し額に突きつけてくる黒髪。そしてその間にもう一人の魔法少女に背後へと周られ手首を掴まれた。何やら手錠のようなものをはめられる。

「犯罪者……あ、あれ?」

 ホントにホントにホントに大丈夫だと聞いたから変身したのだけれど。

 まさか今連行されそうになってる?

 まさか今物凄いピンチ?

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