第七話
それから一日開けた後の学校。
屋上と校庭に一体ずつ魔獣が現れた次の日だが、あんなことがあったというのに学校は驚くほどいつも通りだった。いつも通り登校して、いつも通りHRが始まる。
化け物が暴れ滅茶苦茶にされた屋上は、協会の魔法少女による『修復魔法』で元通り。被害も出なかったため、休みなんかにはならなかった。
その上、私が魔法少女として魔獣を倒したのに一切騒がれていない。
まあ誰かに褒められたくて戦ったわけじゃないし、目立つのは得意じゃないからこれでいいのだけれど。
「はーい、HR始めるよ~」
担任の女教師が教室に入って来て、クラス中に呼びかけた。
(それにしても昨日の折神さん、急にどうしたんだろ……嫌い、か……)
後に冗談だと言っていたけど、あのときの眼を思い出すとそうとは考えられない。一晩明かした今でも、あのときのことは記憶にはっきりある。まさかあんな突然言われるなんて、憧れの人にああ言われるのはやっぱりちょっと傷付く。
今は忘れることにしよう、考えても仕方ないことだ。
確か今日はチミドロフィーバーズの一人、マジデス花が私をアジトに誘うという日だ。といってもどうやって。
「でもその前に、知らない人もいるだろうから伝えとく」
(連絡先とか交換してないよね、昨日みたいに直接来るのかな)
思案しながらふと校庭を見てみると、そこには一人の少女が立っていた。
ピンクのツインテ、ピンクの魔法装束、そして血塗れで窓越しにこちらを見る彼女。間違いなくマジデス花だ。
「昨日の放課後、この学校に魔獣が出ました」
「マジデス花!?」
「え? ええ……マジです。でも安心してください、魔法少女が素早く対処してくれたので」
(どうして今……てかなんで全身血塗れなの!?)
今の彼女を放置したら大問題になる。
体調不良を訴え教室から抜け出してデス花の元へ行き、彼女を連れて今度は体育倉庫裏に場所を移して問い詰めた。
「来るって今!? 私これから授業あるんだけど、てか今も授業中なんだけど……!」
「ジュギョー? よく分かんねえけど、それがある内は学校から出られねえのか? 学生ってのは大変なんだな。で、それはいつ終わんだ?」
「いつも通り六限だから……大体午後三時半ぐらい?」
帰宅時刻を聞くと、デス花は目を丸くする。
「はあ!? まだ何時間もあんじゃねえか……早く来すぎちまった。まあいっか! ジュギョーが終わるまで学校の中でも探索させてもらうか」
「いやいやダメだってば!」
何でだよ、とでも言いたげなデス花の姿を指差し言い放った。
鮮血に染まった髪やら服やら顔やら。
「そんな全身血塗れの恰好で学校内歩くとか正気じゃないから! ……ていうか何で血塗れ!?」
「これはここに来る前にぶっ倒した魔獣の返り血だ。蟷螂の魔獣だったな、上から腹ぶん殴ったら破裂して、おかげで血や臓物でぐっちゃぐちゃだ。ま、確かにこのままじゃ床とか汚しちまうか」
「そういう問題じゃないよ……血塗れの女の子が廊下歩いてたら軽くホラーでしょ。そもそも学校関係者以外が何の了承も無しに敷地内に入ること自体が駄目だし」
「はぁ〜? 学校ってんな固っ苦しいのかよ! チッ、しゃーねえ……また後で来るか」
溜息のあとくるりと周り、背を向けながら別れを告げる。
「三時半、だったな。それまで足を洗って待ってろよ!」
最後に言葉を残し、ギャハハと特有の笑い声を響かせながら駆けて行った。柵を軽く飛び越し、一瞬で姿が見えなくなる。
次はちゃんとまともな格好で現れることを願う。
「洗うのは足じゃなくて首でしょ。もしかしてデス花っておバカ?」
頭の中戦闘のこと以外は何も入って無さそうだし。
そもそも学校行ってるのかな。私と同じぐらいの年齢だろうに、この時間にここへ来れるということは通ってないのかも。
言動からも学校がどういうものかということすらそもそも知らないようだった。
彼女の身の上話も今日聞いてみようかな。
――――――そして、退屈な授業が終わり放課後。
「ねえねえ、そういえばまだ聞いてなかったけどさ〜。昨日学校に出た魔獣を倒したのってばけっちゃん?」
「う、うん。二体出現した内の一体だけだけど」
「やっぱり……!? ずっと魔法少女になることを夢見てたばけっちゃんが、ついに魔法少女に変身して、しかも魔獣を倒すなんて……幼い時から見守ってるわたしからしたら感激だよ~、よよよ~」
なんて言いながら目元を拭い、ルシは泣き真似をする。ふざけているように見えるけど感激しているのは本当だろう。下校時刻となり、多くの生徒で賑わう廊下を歩く私達。
「ありがとうルシ、正直まだ魔法少女になったって実感ないけど」
「今日は部活ないから放課後付き合えるよ。そうだな~、記念にどっかのカフェに寄ってっちゃう? 奢ってあげるよ〜」
「そんな、奢ってもらうなんて悪いし……あっそうだ。そもそもこれから用あるんだった。チミドロフィーバーズのアジトってのに行かないとダメでさ、また今度ね」
「あ、アジト!? 何だかすごそう……って、あれ何?」
視線をルシから、彼女が指差した先へと向ける。そこでは何人かの教師が誰かを囲って会話していた。
「えーっと、魔法少女さん……ですよね? どうしてここに? もしかして昨日の件ででしょうか」
「いや、オレはただここを探索しに来ただけだ。ジュギョーってのが終わるまで暇だからな」
「た、探索?」
(デス花⁉ ……何だか最近、誰かと思ったらデス花だったこと多いような。いやいやそれより!)
駆け出し、両者の間に割って入り、馬鹿の体を小脇に抱える。
「なっ、ばけつ!? おい離しやがれ!」
「せ、先生方すみません! うちの連れが勝手に学校内に入り込んでしまって、今すぐ追い出しますので! あとルシ、また明日!」
「ばいば~い」
素早く頭を下げ、素早く人目につかないところへ。
全速力で走って、廊下を越え玄関を越え、今朝と同じ体育倉庫裏に移動する。
到着すると同時に彼女を下ろし、過呼吸になりながら膝に手を付く。
「お前、魔素も注入してなかったのにすげえな。オレを抱えながら十秒ちょいでここまで来るなんてよ」
「はあ、はあ……なんか変な力が出た……じゃなくて! 部外者は立ち入り禁止なんだってば! 朝言ったでしょ!?」
「んなこと言ってたか? あ〜、そういや昼寝しちまったんだった」
彼女が昨日話していたことを思い出す。
きっと誤魔化しなどではない、本当に今朝の言葉を忘れていたのだ。
「そういえばデス花、寝たら都合の悪いこと忘れるんだった……とにかくもう学校内に入っちゃダメ! もし血塗れの状態で誰かに見つかったら、通報で済むか……」
「え〜! ちょっとぐらいいいだろ〜がよ〜!」
「ダメったらダメ!!」
「わ、わかったっつーの……学校内には入らない、ちゃんと覚えとく。つーか、初めて会ったときよりなんか気が強くなったか?」
今回は問題なかったけど次は通報されるかもしれない、それを防ぐために言うべきことは言っておかないと。
溜息を吐く。探索とか言っていたけど、そこまで中に入って調べたいのでもあるのだろうか。
「次はしっかりしてよね……それでさ、学校で何をしたかったの?ただ中が気になっただけ?」
「おう、学校行ったことなかったからな」
驚愕かつ、あっさりとした答えが返ってくる。
「え? そ、そう……」
あまりにも淡々としていて、何と答えていいかわからなくなった。口振りからして高校どころか、小学校にすら通ってなかったのかも知れない。
「それよりさっさと行こうぜ、オレ達のアジトによ。今度はお前がオレに抱えられる番だ」
「ちょ! 屋上に上がったときみたいなのまたやるの⁉」
「アジトまでそこそこ距離あんだよ、速く着いた方がいいだろ? そのためにわざわざ魔法少女に変身してここに来たんだからよ」
「やっ、やだやだやだっ! あれ本当心臓に悪いんだから! 時間かかってもいいから徒歩で行こっ、徒歩で!」
昨日のあれは意識が飛びそうになるほど激しいものだった。短時間だったからこそまだ息を荒くするだけで済んだけれど、アジトとやらに着くころにはどうなってることか。
「は~……ったく、しゃあねえな。急ぎじゃねえし許してやるよ。そうと決まればさっさと行こうぜ」
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