第三話
私の住んでいる地域は塵芥四区と呼ばれていて、その名の通り四つの区が組み合わさって出来ている。
斬原区、蛇飾区、加羅凪区、死浪那区。何だか物騒な文字が並んでいるけれど、ビル群もあれば山もあり、都会とも田舎とも当てはまらない平凡な街並みだ。
だが平和とは言えない。どういうわけかこの地域では魔獣が生まれやすいのだ。原因は不明、そもそも魔素が何で出来ているかすらもわかっていないため当然とも言える。
しかしだからといって、日夜人がバクバクと喰われているのかと言われたらそうでもなく、その分魔法少女も多いので危険性は特別高くない。
帰宅部である自分は六限目が終わったあと、ミカやルシと軽い雑談を交わしてから下校した。バスケ部に美術部と部活動をして放課後も青春を謳歌している二人とは違い、私は帰宅部。さっさと家に帰ってゴロゴロ、というわけではなく用事があって家から離れた目的地を目指している。
斬原区の南にある学校から、東にそびえる山ヘ。私はその山の最寄り駅へと向かう電車に揺られている最中だ。
「結局、現国も平均以下だったな……」
人が少なく静寂に沈む電車内。俯きつつ、一人呟く。
「まあそうだろうと思ったけどさ、やっぱりショック」
お前には理想を掴むことなんて無理だと、神からテストを通じて告げられた気がして。
(夢を見始めてから五年か。魔法少女になるため色々調べたり、体作って強くなろうとしたな……まあ運動はあんまり続かなかったけど。努力してきたのに、私は)
顔を上げると、視界の端に中吊りポスターが映り込んだ。『私達がこの街を守ります!』という明朝体で連ねられた文字と、ポーズを決める笑顔の魔法少女。
黒髪にライトグリーンのインナーカラー、それに合わせた色のノースリーブシャツにミニスカと、クラブにいそうなギャルらしくもあり魔法少女らしくもある姿だ。
「人見知りで友達も二人しかいない私には、他人に対してあんな笑顔は出来ない」
再度俯き、視線は下に。
「ニュースで見た憧れの人のように、あんな化け物相手に立ち向かうことなんてできない」
昼間ルシが見せてくれた動画、あれに映っていた魔法少女を私はよく知っていた。
何せ彼女は、五年前に私を助けてくれた人と同一人物だから。助けられたあとからあの人について必死に調べたのだから間違いない。
髪が長くなり雰囲気は変わったが、確かにあの人。
(魔法少女は強いけど、無敵なんかじゃない。殉職する人も少ないながらいる。死と隣合わせだと考えると、やっぱり怖い)
笑顔を作ることもできず、敵に立ち向かえるような強さもない。
魔法少女になって、昔助けられたときと同じように誰かを助けたいと思った。けれど。
「やっぱり、できないな……私が魔法少女になるなんて」
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