第一章
第二話
「は〜い、前言ったように今日が期末テストの結果返す日だからな。今回のテストだけど、平均点は六十二点。ま、まずまずの結果だな」
三時間目、数A。担当である男性教師が教壇に立ち、クラス全員に呼びかけた。
「番号順に一人ずつ返していくから、呼ばれた人から前へ出るように」
テスト返し、それは生徒一人一人の運命を決めると言っても過言ではない日。
先生の言葉を聞き、周りの生徒はみんなざわつき始める。そしてそれと一緒に私の胸の鼓動も速くなる。
「え〜、まず出席番号一番。赤村、前に出ろー」
(ど、どうしよう、ついに来ちゃったこの日が! 落ち着け、大丈夫……ちゃんと勉強したし今回こそは! で、でも最後の大問わかんなかったから……)
一度思考がマイナスに傾くともう止まらない。記述問題にケアレスミスはないか、ちゃんと見直しできていたか、何なら一問目から間違ってないか。
あらゆる不安で頭が一杯になる中、ついにその時が来る。
「次、八番。切崎ー」
「ひゃ、ひゃい!」
素っ頓狂な返事を響かせつつ、前へ。半分に折りたたまれ点数が見えなくなっている答案用紙を、カチコチになった手で受け取る。大丈夫、大丈夫と心の中で何度も呟き席へと戻った。
(今回こそ、今回こそは!)
意を決して、点数を確認。
平均点を超えてますように――――――!
「――――――おーい、切崎。大丈夫か?」
「ヘ、な、何!?」
正面から突然凛々しい声が聞こえて来て、ハッとする。いつの間にか見知った生徒が目の前に立っていた。そして後ろにも。
「お、よかった〜。気を取り戻したみたい」
「あれ、ミカにルシ? 今は授業中じゃ……」
淡々とした口調で話す黒髪褐色の少女が雛見香薫、通称ミカ。逆に声色や表情がおっとりしたブロンド色の髪の方が漆日奈子、ルシ。
二人共古くからの友人だ。授業中だというのに何故か私の机の側に来ている。
「何言ってんだ? とっくの前に授業終わったぞ、今は休み時間な」
「五十分ずうっとボ〜っとしてたもんね、ばけっちゃん」
「あれ? 私気絶してたの……?」
「自分の席から見てたけどさ、テスト返されてから目が虚ろになってたぞ。まさか意識飛んでたなんてな。なんだ? いつもより点数悪かったのか?」
「ううん、いつも通りの結果だった。それがショックだった……」
答案を裏返して点数を明かすと、二人同時に『おー』と感嘆の声を上げた。
「五十八点、平均よりちょい下……うんうん、いつも通りだね〜」
「毎回こんな感じだな。自称『普通よりちょい下』ってだけはある」
そう、私は普通ちょい下。運動、勉強、その他諸々、何をやっても平均より少し下の成績で終わってしまう。せめて平均は超えてほしいところを毎回綺麗に下をいく。
今回こそそのジンクスを打ち破ろうと、しっかり勉強した上でテストに挑んだのだが結果はいつも通り。
「何で毎回こんな感じなんだろ……まさか、誰かが私に何らかの呪いをかけて……! 」
「誰かにかけられた何らかの呪い? どゆこと?」
「これは重症だな……まあ落ち着け、私なんかまた赤点手前だったんだぞ?それに比べたらマシだろ」
「でもミカはその分凄く運動得意じゃん、普通以下じゃない才能を持ってる。ルシは言わずもがな、勉強大得意でしょ。期末どうだったの?」
「ふっふーん、ヨユーの九十二点だったのだ〜」
ミカは昔から運動神経バツグンで、一年の一学期にも関わらずバスケ部ではかなり期待されているらしい。ルシは運動こそからっきしなものの、勉強に関しては天才といっていい。何せ授業は毎度寝ているのに、テストでは絶対高得点を取るのだから。特定の分野で優秀な二人に対し、何をやっても上手くいかない私、切崎ばけつ。
「やっぱり、そうだよね。ふ、二人とは違っては私は凡人、いや凡人以下……憧れの夢に届かずよく分からない職に付いて毎日毎日残業で働かされる上に三食ご飯まともに食べられず餓死するんだ。ふふ、ふふふ」
「うーん、ばけっちゃんのそのネガティブ具合は普通ちょい下には収まらないと思うけどな〜……」
「憧れの夢か。確か魔法少女になりたい、だったよな」
ミカに言われ、コクリと頷く。
「魔法少女か……結構なりたがってる人は多いけど、そんな簡単になれる職業じゃないと聞くなあ」
「う、うん……私なんかには到底無理な仕事」
魔法少女達を動かし魔獣の退治を目的とする組織、全国魔法少女協会。協会は毎年加入テストを行っているそうなのだが、そのテストの内容は公表されず、わかっているのは参加した大半の志願者が不合格で落とされるということ。
きっと高度な運動能力だけでなく学力も必要とされているに違いない。普通ちょい下の私にはどちらも有していないものだ。
「まあまあ、次の授業で現国も返されるんだからそっちに期待しよ、ね! あ、そうそう。魔法少女で思い出したんだけど」
言いつつ、ルシはポケットからスマホを取り出しパパッと操作。動画サイトから今朝投稿されたニュースを表示させて私達に見せる。
「また魔獣が街に突然現れたんだって。ちょっぴり怖いよね〜」
「また、なの?」
最近、不可思議な現象が起きている。大きな魔獣がいきなり街中に出現するというものだ。
魔素は黒い泥に似たエネルギーで、地中から湧き出て欲を持つ生物に取り憑く。鹿や猪などの獣、更には昆虫までもを魔獣へと変えるのだ。魔獣になると欲望が増大し、辺りの生物を食べて肥大。成長した魔獣は小さな生物を喰らうだけでは満足しなくなり、人を捕食するため人間の生息圏まで降りてくる。パワーや体長は元の生物より何倍も差があり、とても凶悪な存在だ。
だが、いきなり人のいる場所にワープしてくるような特殊能力は持っていない。だというのに、何の前触れも無く出現し人を襲う事件が繰り返されているため、世間に騒がれている。
『今回倒された魔獣は、斬原区西のビル街辺りに前触れなく現れたようです。協会の魔法少女はここ最近繰り返し起きている事件、何が原因だと考えていますか』
『今のところは何とも……どういった要因で起こっているのか、はっきりとはわかっていません。そもそも魔素や魔獣は謎が多い存在なので』
動画ではインタビュアーが魔法少女に質問を投げかけている場面が映し出されている。腰下まで伸びたブロンド髪で高身長の魔法少女は、真剣な面持ちで答えていた。
『はっきりと言えるのは危険な状況だということ。私達魔法少女は市民を守るために尽力しますが、すべての魔獣に対して完全に対処できるとは言えません。もし魔獣と遭遇したならば全力で逃げてください』
魔獣が山などから街へ降り始めたと同時に協会が出現位置を確認し、魔法少女が退治に向かうのが基本。自然に紛れている奴らの存在を完全に探ることが困難だからだ。肥大した魔獣が人の居場所へ攻めてくるまでのタイムラグの間に魔法少女が準備を行うのだが、瞬間移動して来られてはそうもいかない。
「このニュース、映ってる魔法少女さんがビル街に出た魔獣を倒した後に撮ったものなんだけどさ。この人が偶々近くにいたから被害ゼロで済んだんだって」
「もしいなかったら……ヤバかったよね」
「魔獣がいても魔法少女が殆ど被害無しで倒してくれるから、結構平和だったのにな。これからはそうも言えなくなるかもな」
映像が切り替わり、魔獣が現れた直後を捉えたものに。
画面に表示されたのはビルの壁に張り付いた蝙蝠型の魔獣。姿形は蝙蝠だが全身純黒に染まっており、元の生物と何十倍も体躯の差がある。片翼だけでも三メートルはあり、牙や爪も異常な大きさをしてるので人一人程度軽く捕食してしまえるはず。そして何より特徴的なのが、頭の上半分に浸食するように生えたいくつもの白い花と、体中に纏う蔓。
どこかファンシーだが不気味な印象が勝つ。
幸い通行人は危険だと既に察知し、奴が動き出す前に逃げていた。捕食対象である人間を探すため飛び立とうとする瞬間、魔獣は見つけた。
薄黄色を基調としたゴスロリチックな服装を身に着けた女性を。
――――――ガぁアアっ!
奇声を上げ、口を開けながらその女性ヘ猛スピードで向かっていく。
突っ込んで来る化け物に対し、逃げる様子も無く立ったまま。既に手にしていたスマートな見た目の機械弓を構える。そして矢を放つ。太く長い光の矢が宙を裂き、矢が命中、魔獣の体を穿ち、魔法少女は敵を一撃で倒した。
「とにかく気を付けねえとな……魔獣は魔法少女にしか倒せないようなもんだし」
「やっぱり……できないな……」
周りに聞こえないよう小さく呟く。
「ん? ばけっちゃんなんか言った〜?」
「う、ううん……何でもない。それより二人共、そろそろ席に戻った方がいいんじゃない?」
「そっか、もう休み時間終わりだもんな」
「じゃあ次の昼休みでね〜」
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