真剣狩る全壊!チミドロフィーバーズ!

綴谷景色

プロローグ

第一話

 将来の夢というものを、誰もが一度は持っていたと思う。

 スポーツ選手、作家、警察官、消防士、漫画家、大工、医者、CA、花売り、コック、教師、プログラマー、俳優、エトセトラ。様々な職業がある現代、皆未来を描き程度の差はあれど努力したことだろう。

 私にもあった。


 ――――――魔法少女になりたい、という夢が


 魔法少女という職業は二十五年程前に確立されたものだ。魔素という未知のエネルギーに取り憑かれた獣は、魔獣と呼ばれる人間を喰らう化け物に変貌する。対し魔法少女は、第二次成長期を迎えたあとの女性が魔素をコントロールし力に変え、魔法と科学を駆使して魔獣を倒すのが仕事。

 私がその魔法少女になりたいと思うようになったのは、五年前の出来事が原因。

『あ……あ、あ……! お母、さん……?』

 母と二人で買い物に行った私は、街に出現した巨大な魔獣と邂逅した。あらゆる建物を破壊し、辺りの人を食い散らかし、遂には母親まで。

 目の前で大切な家族を失った私は、足が震えて立ち上がることすら出来なくなり、次は自分だと思ったとき。ヒーローはやってきた。

『遅れてごめんなさい。せめてあなただけは守って見せる』

 肩まで伸びたブロンドの髪、気品溢れる装束。そしてその安心感。

『ま、魔法少女……?』

『そこでじっとしてて』

 腰に携えた機械装置であるステッキを振るい、魔方陣を出現させ、武器である弓で魔獣の胴体を射る。

 家と同等程度の大きさを有した化け物をものの数分で倒してしまった。

 戦闘を終えたあと、怪我しているのにも構わず怯えた私を抱きしめ、宥めるように言った。

『ごめんね、怖かったよね。震えが収まるまで私が側にいてあげる』

 思い返せば、彼女に怒りをぶつけるのが普通の場面だったかもしれない。『なんでもっと早く来てくれなかったの? お母さんも助かっただろうに』と。

 しかし当時の私にはそんな責めるような考えはなく、心の内にあったのは感動だった。プロ野球選手のホームランを直接見たような感動。

 テレビで見るよりカッコよくてカワイくて、何より強くて優しい。私は心打たれると同時、同じようになりたいと思い始め、魔法少女になるという夢を見続けた。



 ――――――けれど高校一年生になって、今になって、夢は夢でしかないのだと思い知ったのだった。



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