第19話 無法の島『ホープ』
ズドーン…、、、ドォーーン。
町の外。遠くの方から爆発音のような音が数回鳴った。
ーー始まっちゃったか…。
さっきまでここで言い合いの喧嘩をしていたリリスとレイナ。
二人でバチバチメンチを切りながら町の外に出ていったが、やはり戦闘が始まってしまったようだ。
リリスもレイナも性格は似たりよったりの性格をしている。きっと交渉の余地なんてなかっただろう。
俺は長くなりそうだなと思い、とりあえずここに来た兵士たちには町で休んでもらうことにした。魔族側も兵士側も嫌がるかもしれないが、何かあれば俺もいるしヴァン爺もいる。
町の方は一応どうにかなるだろう。
だが
「はぁ…」
俺は爆発音のする方を見ながらため息を吐いてしまった。
「止めなくていいのかの?」
「あぁ。いいのいいの!好きにやらせとけば。二人ともバカじゃないし適当にやったら帰ってくるでしょ」
俺は声をかけてきたヴァン爺に答えた。
『メルガヴァン•ゼファー』
俺が元いた勇者パーティの一人で、俺がヴァルキオン王に勇者として選ばれた日から俺に魔法をみっちりと教えてくれた。
いわば俺の魔法の師匠だ。
長い白髪姿と顎ひげが特徴の老人である。
ちなみにだが今リリスと戦ってる少女。
少女の名は『レイナ•カトリン』
レイナももちろんパーティの一人で主に魔法でサポートをすることが得意な魔法使いである。
腰まで伸びる青い髪が特徴的だ。
「まさか、おぬしが魔族と手を組んでおるとはのぉ〜。びっくりじゃ」
ヴァン爺は近くにあった岩場に腰をかけ髭を触りながら言った。
「怒らないのか?」
「おぬしが決めたことじゃろう?何かここにいるのにも考えがあるんじゃろうて」
「おっ。察しがいいね」
俺もヴァン爺の隣に腰をかけた。
「そういえば、『ヘルガー』はどうしたんだ?』
「ヘルガーは別件じゃよ。魔族がいるのはここだけじゃないのでの。兵を連れて別の場所じゃ」
『ヘルガー•ローマン』
俺と同じ前衛タイプで槍使い。年は中年男性くらいだが引き締まった体をしていて長い黒髪を後ろで縛っているのが特徴だ。
ドォーーン!!ドォォォーン!!
ーーだいぶ激しくなってきてるな。
あいつら何か挑発でもしあいながら戦っているのだろうか。
そんなことを思ってしまった。
「なぁ?ヴァン爺。ヴァン爺たちはここに何しに来たんだ?やっぱり魔族の討伐か?」
「まぁ。そんなところじゃな。じゃがおぬしがこの町にいるんではそれも敵わんのぉ」
「嘘つけ…」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ」
ヴァン爺は嘘か本当か笑って誤魔化している。
ヴァン爺は八十を超える老体ではあるが魔法の知識と使役する多彩な魔法。これで俺たちパーティを幾度となく救ってきた。
本気を出せば間違いなくこの町の魔族くらい倒せてしまうくらいには強い。
「ふぉっ、ふぉ。どうする?ワシと戦うかの?」
「…よしとくよ。俺も町も無傷では済まなそうだ」
俺は両手を上に上げ降参のポーズをすると優しく笑ってくれた。
「そういえば、ヴァン爺。ここってどこらへんにある場所なんだ?今までこんなとこ来たことなかったんだけど?」
俺はヴァン爺に今いるこの場所について聞いてみることにした。ここに来たのもリリスに勝手に飛ばされてきただけで、島の端に行っても一面海しか見えない。
この島に裏ルートで船を使い、たどり着いた魔族たちもここを知らないと言う。
博識のヴァン爺なら何か知ってるはず。そう思った。
「なんじゃ?知らんかったんか。まぁ無理もない。ここはこの世界の最北端。さまざまな国から見捨てられた島。『ホープ島』じゃ」
ーーホープ島?
昔、噂でチラッと聞いたことがある。この世界には一つだけ、どこにも載らない島があると。
だがこんな島…。
「地図にはないはずじゃよ」
俺の心を読んでるかのようにヴァン爺は話を切り出してきた。
「ワシも文献程度の話しか知らんが、ここはかつて魔族の住処だったそうじゃ。それをかつての勇者たちがこの島にいた魔族たちを討ちたおし、『希望の島•ホープ』と名付けたのがこの島の始まりのようなのじゃが…もしかしたら終わりということにもなるのかの」
ーーん。どういう意味だ。
俺は疑問に思いながらもヴァン爺の話を聞いていく。
「かつての勇者たちはこの島にホープという名前を付け、平和の象徴としてこの島を見て欲しかった。じゃが世間の目は厳しかったようじゃ。レイナを見ていればわかるじゃろう。『魔族は倒すもの』と教わってくる者もいる」
俺はコクリとヴァン爺の話に頷いてしまった。
確かにそうかもしれない。ずっと旅をしてきたが『魔族=悪』という認識を持つ人間は多い。
「『あの島には魔族がいた』『あの島は危ない』そんな話が強まってしまい、かつてホープを納めていたヴァルキオン王も国政に影響を及ぼすと判断し、この島との縁を早々と切ったのち地図上から抹消したそうじゃ。そしてこの地はだんだんと風化の道を歩み今は見ての通り無法の島として残っているということなのじゃ」
ーーなるほどねぇ。
俺はヴァン爺の話を聞き空を見上げて考えてしまった。
結局この島も世界から『追放』されたということだ。
ーーお前も大変だったんだなぁ。
俺は今踏みしめている大地に同情してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます