第27話 魔王との戦い? そして平和へと

 始まりも突然だったが、終わりも突然やってきた。


 とある日の昼。突如として空が暗転した。


 俺は何事かと思い、外へ出て空を見上げた。


 するとリリアル王国の周囲は赤黒い雲のようなものに覆われてしまっていた。


 それと。


 ーーなんて禍々しい力だ。


 空からはものすごい量のマナを感じる。


 これほどの力。


 これだけのマナ量。


 これは間違いない。


 『魔王』だ。


 さすがに王国一つ作れるほどの魔族の数。いつ魔王に勘付かれてもおかしくはない。


 それと現在…リリスが不在なのだ。リリスは別件で島の内部にはいるのだが別の町へと出てしまっている。


「タイミング悪いなぁ…」


 空を見上げ、ふと魔王にツッコミを入れてしまう。


 すると、次の瞬間。大きな赤く光る雷光が轟音と共に俺の前へと落ちてきた。


「まぶしっっ!!」


 俺は眩しい光に耐えれなくなり、腕で顔を隠し、光を遮った。


「小僧…ここに俺の、バカ娘がいるって言うのは本当か?」


 、、、!!


 何か声が聞こえた。俺は顔を隠していた腕を下げ、声の方へ目をやると、そこには大人を遥かに上回るような図体をした男が一人立っていた。


 ーーこれが魔王か…。


 前からはものすごい威圧感を感じる。


 目の前にいる魔王はリリスと同じ赤い髪に黒い二本のツノを持っている。さすがにそこは親子と言ったところなのだろうか。


 ーー状況は最悪だな。


 突然の来訪だ。正直こちら側は何も準備できていない。それに今、リリスと実の父親を会わせていいものなのだろうか?そこが疑問ではある。


 だが。


 今はこの状況をどうにかしなければならない。とりあえず正直に魔王の問いに答えよう。


「今は、リリスはここにはいねぇよ。一旦出直してきたらどうだ。魔王!」


「ほう。このマナの量。貴様、勇者だな。疑問だな…なぜリリスが勇者なんかと結託しているのだ。これは魔界において大犯罪だ。それをわからぬ娘じゃあるまい」


 魔王の赤黒いオーラがだんだんと大きくなっていくのが見える。


 ーーさすがに怒るか!


 魔族は契約ごとにうるさいのはリリスを見てわかる。


 ーーここで戦うしかないのか!


 俺は持っていた剣を抜いて魔王に剣先を向け構える。


「あんたの娘は追い出されてから、あんたを見返すためにこの国を作ったんだ。そんな国をただただ滅ぼさせるわけにはいかない!!」


 俺がそう言った時だった。


「なにっ!?リリスが…国を…」


 急に魔王のオーラが小さくなりだした。


 ーーあれ?どうした…。


 俺は禍々しい力が小さくなったことに気づき、構えていた剣を下ろした。


「娘が…国を作ったというのか…」


「あぁ、そうだ。魔王。あんたの娘はすげぇよ。たった少しの時間でこれだけの国を作りあげたんだからな」


 俺は魔王にそう告げると、魔王は下を向き、腕を震わせた。


「何かするつもりか?魔王!?」


 俺は再度剣を魔王に構えた。


 すると魔王は俺の考えの180度反対をいくような言葉を発した。


「娘が国を作ってるというその話。俺に詳しく聞かせてくれまいか!?」


 ものすごい勢いで詰めよってきた魔王は俺の肩をガシッと掴むと真剣な眼差しで言ってきた。


「えっ?どういうこと?」


 俺と魔王は場所を変えて話すことにした。





※ ※ ※


「魔王!!わかるよ!ものすごいわかる!」


「おぉ。わかってくれるか。勇者よ…さすがはリリスが認めた男だ」


 俺と魔王は町にあった酒場へと場所を移した。とりあえず魔王の雰囲気的にも戦うという意識は無さそうにみえた。それなら中でゆっくり話した方がいいだろう。そう思ったからだ。


 そして俺はリリスの魔界でのことを魔王から聞いた。


 リリスが魔界での評判がいいというのは魔王が言うには間違いないらしい。これは他の魔族からも聞いていたことだ。


 だがわがままがひどかったらしく、結婚相手として探した魔族もこの相手ならどうにか釣り合ってくれるだろうと魔王自ら探してきたということだったのである。


 その魔王の努力をリリスは呆気なく放棄してしまったため、カッとなりひどいことを言ってしまったと言うのがリリスの勘当の真実だ。


 ちなみにだが勘当をしたつもりはないらしく、勝手にリリスがそう解釈しただけらしい。


 なんともまぁ。至る所を引っ掻き回してくれたものだ。

 

 俺は魔王とリリスのわがままっぷり、勝手なところ。全てをわかりあえた気がした。


「これだけ娘を知ってくれているなら、本当に任せても大丈夫そうだな」


 魔王は腕を組み一人頷いている。


「は?」


 この感じ。何か嫌な予感を感じる。


 俺はヴァルキオンでのことを思いだした。ヴァルキオンでもこんな感じで婚約じみたことを認められ…。


「私は君とリリスの婚約を認めよう!」


 ーーやっぱりあなたもそうなるんですね…。


 俺は魔王を見て思った。もう俺には逃げ場がなくなった。ヴァルキオン王達にも歓迎され、さらには魔王にも今さっき認められ、もう「お断りします」なんて言えるような状況じゃない。


 もう決断するしかない。


「あぁーー、もうわかったよ!!俺がリリスと結婚する。これでいいんだろ!これで世界が平和になるんだろ?」


 俺は目の前にいる魔王にやけくそ気味に言った。


「あぁ、もちろんだ。約束しよう。娘の幸せのためなら私もこの人界を支配することから手を引くことにしよう」


 魔王は俺に人界を襲わないということをここで宣言した。


 まさかこんな形で世界の平和が守られるなんて思っても見なかった。これが娘への愛ということなのだろか?


 ガタンッッ!!


「何してるの!?パパ!!」


 入り口のドアが勢いよく開いた。リリスが魔王を察知してか急いでここへ帰ってきてくれたみたいだった。


「娘も来たことだ。私はもう帰らせてもらうよ」


 そう言うと魔王はリリスの横を通り過ぎ去っていく。


「リリス。勇者と幸せに生きるんだぞ」


 魔王はリリスに告げると赤黒い雲の中、魔界へと向かって帰っていった。


「どうしたのアルス!?パパ何か言ってなかった?」


 リリスが近寄ってくるなり心配しに来てくれた。


 ーーもうなんかいろいろ疲れた…。


 こうして戦いの歴史だった人と魔族の争いは勇者と魔王令嬢の結婚を持って終止符を打たれたのであった。





※ ※ ※


 〜7年後〜


「まおーー、かくごぉーー」


 黒髪、赤目の少女は魔王と言われる男へとおもちゃの剣を振り下ろした。


「うわぁ〜、、、やられた〜」


 魔王と呼ばれる男は少女の剣にやられる演技を見せていた。


「こら、『ルカ』!!あまり今日は騒がないでってママと約束したでしょ!それにおじいちゃんもルカを甘やかさないで」


 7年の月日が経ち、俺とリリスは結婚して一人の娘を授かった。肩くらいまでの長さの黒い髪に真紅の目をした少女『ルカ』だ。


 この子はこの世界において人間と魔族の子。すなわち平和の象徴として、みんなから可愛がられている。


 リリスもしっかりお母さんをしており、もう戦うことは全くなくなり、常に娘のルカに愛情を注いでいる。


『おじいちゃん』という言葉もでたがそれは当然。ルカからしたら魔王はおじいちゃんという立ち位置だ。


 魔王をおじいちゃんというのは何かと新鮮味がある。


「パパ!!そんなところで何してるの!?今日はルカの誕生日パーティーなんだから少しは手伝いなさい!」


「あ、すいません…」


 そう今日はルカの5歳の誕生日パーティーなのだ。たかだか一人娘の誕生日なのだが、平和の子ということもあり、ヴァルキオン王はもちろん。元勇者パーティーなどいろんな人たちが祝福に駆けつけてくれた。


「パパーーー、はやく、はやくーーー」


 ルカが俺のことを笑顔で手を振って呼んでいた。


「あぁ。今行く!」


 これからもルカの笑顔や家族を守れるようにしっかり生きていこう。


 俺は心の中でそう思った。


                        fin


 


 

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強すぎて勇者パーティを追放された元勇者の俺はグレていた元魔王令嬢とお付き合いさせていただくことになりました 〜元勇者と元魔王令嬢の建国物語〜 Yuuki @yuki2963

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