第20話 人と魔族
「というのは大昔の話じゃよ。大昔から人と魔族はいがみあい、対話することもなくただ戦うことで歴史を刻んできた。• • •じゃがの…今ほんの少しだがそんな歴史を変えるかもしれない可能性が見えてきてるかもしれん」
ヴァン爺は俺に目を向けそう言った。
「可能性?なんだそれ」
「ふぉっ、ふぉ。自分でやってて気づかんか?今の今までワシら人間は魔族との対話なんて微塵も考えたこともなかった。今、おぬしのしていることは歴代勇者の中でも初の試みと言っても過言でもないじゃろう」
ーー• • • • •あ…。
俺は内心焦った。
ヴァン爺は『魔族と対話を試みていることがすごい事だ』と誉めてるようなことを言ってはくれているのだが…
ーーヴァン爺…ごめん。
絶対に言えない。俺とリリスの関係はただの小さな酒場での酒飲みから始まったということを。
とりあえず話を戻そう。
「• • • • •それで、ヴァン爺。本気の話だ。ヴァルキオンはこれからどうするんだ。ここに勇者パーティ二人に兵士たちを送ってきたと言うことは絶対に魔族の殲滅か何か言われてきてるだろ?」
俺はこれからのヴァルキオン王国の動きについてヴァン爺に聞くことにした。
さすがに俺たちの町はまだまた発展途上だ。勇者パーティクラスを何人も連れてこられたらこちらもたまったものじゃない。
どうにか回避する手段を探さねばならない状況だ。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ。そんな身構えるでない。さっきも言ったじゃろ?おぬしがいてはできかねると。おぬしの力は王も言うようにもはや化け物じゃ。国の力を束にしてもタダじゃすまぬのはわかっておる。王にもこの島のことはそれっぽく言っておこう」
「ふ〜ん…そっか。• • •ありがとう。恩に切るよ。ヴァン爺」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ」
ーーほっ。
俺はほっと胸を撫で下ろした。ヴァン爺が俺の力を買ってくれているのはありがたいが、さすがにヴァルキオン王国と全面戦争ともなるとさすがに武が悪い。
今はヴァン爺の好意に甘えておこうと思う。
※ ※ ※
「戦い…終わったかのぉ?」
ヴァン爺は長い髭を手で撫でながら二人が戦っているであろう遠くを見た。
ヴァン爺と話していてあまり気にしてなかったが爆発音のような音は全然聞こえなくなっていた。
二人の戦いも終わったのかもしれない。
ーーそろそろリリスを迎えに行くとするか。
そう思い、俺はゆっくりと腰を上げた。
「それじゃあ。ワシたちもそろそろおいとまさせてもらおうかの?」
「なんだ?もう行っちゃうのか?」
「それもそうじゃろう?ワシたちも一応魔族の討伐に来てるわけじゃし長居はできん」
「そっか」
俺は帰る準備を始めたヴァン爺を見た。
「アルスどのぉーーー!」
町の入り口の方から大きな声が聞こえてきた。
すると町の入り口の方からオークたちの声とともに背負われたリリスとレイナの姿が見えた。
まぁいいタイミングと言えばそうなのだが…
きっとあの二人は気を失うまで戦ってたんだろう。
「はぁ…」
俺は呆れてため息を吐いてしまった。
「のぅ。アルスよ。ワシの人生ももう長くない。残りの余生おぬしに賭けてみてもいいかもしれんのぉ」
ーー何を言ってるんだ。この爺さんは…。
「賭ける?もうよしてくれよ。俺はそんな賭けられるような大層な人間じゃねぇよ」
俺はヴァン爺に手を軽く横に振った。
「まぁそう言うな。魔族との共生はともかく、平和を願ってるのはワシやヘルガー、レイナだけじゃない。ヴァルキオン王もしかり、全世界の人間たちがそう願っておる。帰った際に王には伝えておこう。対話ができそうな魔族がいると言うことを」
ヴァン爺は笑みを浮かべながら俺にそう言うと国へと帰るため近くにいた兵士に全員集合するよう伝え、乗ってきていた飛竜に跨った。
「それではアルス。またのぉ。レイナを連れてそのまま帰るぞい。近いうちに会える日を楽しみにしておるぞ」
そう言うと、ヴァン爺は帰る準備を終えた兵士たちを引き連れレイナをオークから回収しヴァルキオン王国へと帰っていった。
• • • • •。
ーーあぁぁぁー。なんとかなったぁぁぁ…。
正直ほっとした。どうにかこれで一難は去ってくれた。それにヴァン爺が王様にこの島のことを伝えてくれるようだ。
ヴァン爺も絶対人を裏切るようなことはしない。変な報告が王様にされることもないだろう。
これで人間と魔族が少しでも繋がってくれればいいのだが…
俺はそんなことを思いながら、遠目に見えるオークに背負われるリリスを見た。
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