第21話 ヴァルキオン王からの手紙
ヴァン爺やレイナが国に帰ってから数日がたったある日のリリスの部屋でのこと。
「いくぞ?リリス…」
「うん……ゆっくりお願いね…」
俺がリリスに言葉をかけるとリリスは体にギュッと力を入れた。
「おい。リリス。そんなに力が入ってたら、入ってくるものも入らなくなるぞ…」
「だって………緊張しちゃって……」
リリスはなぜか顔を赤くしている。
「はぁ…じゃあ始めるぞ」
「うん…」
• • • • •
パン!!
静寂した部屋に一人の少女の手を叩く音が聞こえた。
「朝からお熱いセンシティブなトークはやめてもらえますか?姫様。アルス様」
声の方に目をやると部屋の入り口にはルルが一人ジトッとした目でこちらを見ていた。
俺も集中していたため、ルルがいつのまにかリリスの部屋に入って来ていたことに気づかなかった。
「何をたった『手紙』一つ読むだけでそんなに盛ってるのですか?もっと場所と時間を選んでください」
「、、、、盛ってねぇよ!!」
俺はルルの言葉に全力で否定した。
当のリリスは何も気づいてないらしく「なに?」という感じでボケっと立っていた。
※ ※ ※
誤解を招いてしまって申し訳ない。
ヴァン爺やレイナが帰ってから少したった後、俺は一通の封筒をルルから受け取っていた。
俺はもらった封筒の裏を見るとそこには。
ーーヴァルキオンマーク?…。
裏にはヴァルキオンの紋章をモチーフとしたシールが貼られていて、何度も見たことのあるヴァルキオン王直々のサインが右隅に書かれていた。
きっとヴァン爺が王様にこの島の話をしてくれたのだろう。
なんとも仕事の早い爺さんだ。
そして俺はもらった封筒を一人で開けるのも忍びなかったためリリスの部屋に行き、今に至るというわけだ。
「今度こそ開けるぞ!」
俺は封筒に付いていたシールを剥がし、封筒の中を覗き込んだ。
すると中には、ヴァルキオン王と思われる筆跡の手紙が一枚だけ入っていた。手紙を出して見ると紙一面に横書きでずらっと長い文面が記されていた。
「アルス!読んで!」
「あぁ」
リリスもヴァルキオン王からの手紙に心なしかドキドキしているようだ。
今までは敵同士の関係ではあったが、今のリリスに人間をおとしめるような興味は微塵も感じない。ただただ父、魔王を見返す国を作る。それだけで生きているようだ。
リリスにとってもいい話ならいいのだが。
「読むぞ」
「うん!」
『ホープ島の長。リリス殿及びアルスへ。私はヴァルキオン王国国王ユグドラシル•ヴァルキオン。このような書面での挨拶になってしまってすまないと思っている。
メルガヴァンから君たちの話はよく聞かせてもらった。まさか我々人間と対話ができるかもしれないという魔族たちがいるとは私も思いもしなかった。
私は人と魔族。長きに渡る戦いに終止符をうち、この世界に平和をもたらしたいと心から願っている。
もちろん私の思う平和の先には君たち魔族との共生も考えている。
そこでどうだろうか?一度ヴァルキオン王国を訪問しに来てはくれないだろうか?
もちろんリリス殿の身の安心は保証しよう。『メルガヴァン』『レイナ』『ヘルガー』をガードにつけよう。
そちらにはアルスもいると聞いた。王国についての案内はアルスに聞けば大丈夫だろう。
訪問が決まった際は連絡をくれると助かる。
リリス殿の訪問を心から待っている』
ユグドラシル•ヴァルキオン
ーーなんか俺、ついでみたいじゃね。
手紙を見て思った。『アルスも』って明らかについでだろ。そう思ってしまってもおかしくない文面だ。
「げっ、『レイナ』……」
目の前で手紙の内容を聞いていたリリスは顔をしかめた。
まだリリスにはレイナに何かしらの因縁があるようだ。
だがこの手紙。
すごくいい内容だ。
勇者パーティにいた時から王様は平和を心から望んでいた人だ。だからこそ俺のことを魔族たちから王国が狙われないように勇者パーティを追放した。
きっと王様もここがチャンスと思い、リリスを抑えることができれば世界が平和に近づくと考えたのかもしれない。
俺は読んだ手紙を再度封筒に入れ、リリスを見た。
「リリス。どうする?今までは敵同士だったかもしれないがこの話を受ければ、この町は大きく発展することができる。魔王に見せつけるには大きな一歩だぞ」
俺はリリスに聞くとリリスは「ふっ」と笑みを浮かべた。
「愚問よアルス。このチャンス見逃がすわけないじゃない。あの貧乳には会うかもしれないけど、この町が大きくなれるなら行ってやるわ!王都ヴァルキオン!」
ーーだいぶレイナのことを気にしてるんだなぁ…。
俺はリリスとレイナの再会には充分気をつけようと改めて思った。
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