第10話 リリスとのお風呂①
※ ※ ※
「なんだよ。勇者ってのはめちゃくちゃ優しいやつなんじゃねぇか」
ゴブリンは酒を飲みながら俺に声をかけてきた。
今、何が起きているかというと。
あの後、ゴブリンはこの地域にいる魔族たち全員にリリスが来ていると声をかけてくれたようで、森の中からはものすごい数の魔族たちが必死な顔をしながらリリスの前に集まっては土下座をして謝っていた。
なんともその光景は圧巻だった。『ゴブリン』『スライム』『オーク』『オーガ』他にも多種多様な種族がリリスの前に土下座しているのだ。
前代未聞といってもいいだろう。
リリスは魔王との契約破りということで大層ご立腹の様子だったが、なんとか俺の方でリリスをなだめつつ、今度は魔王ではなくリリスと契約してもらうことでいろいろと国作りを手伝ってくれることを約束させた。
そして今、すっかり日も暮れてしまったが俺やリリスたちが住む建物が無事に完成したということで手伝ってくれた魔族たちを呼び、建物の前でパーティをしている最中だ。
「そうかぁ?…別に普通に生きてるだけなんだけどな」
俺はテーブルに用意された水に手を伸ばす。
「そ〜なの〜。私のダーリンはぁ、、、優しいしぃ〜、強くて、かっこよくて、たくましいのぉ〜」
俺とゴブリンが話していると、後ろからもたれかかるようにベロベロに酔っ払ったリリスが木のジョッキ片手に現れた。
ーーなんともこいつはハードルを一つも二つもあげてくれたな。
酔ったリリスは焼いてあった串焼きをゴブリンや他の魔族に無理矢理飲ませたり食わせるなどして暴れ回っている。
魔族たちもそんなリリスに付き合ってはいるもののなんやかんや楽しんでくれているみたいだ。
まさか魔族とこういう感じで仲良く飯を食い合う仲になるとは思わなかった。勇者をやってる時は打倒魔王だったため今の状況が正直考えられない。
これも少なからずリリスのおかげかもしれない。
リリスも最初こそ他の魔族に圧ばかりかけていたが酒も入っているからか馴染んできている節もみえる。
良好な関係になるのはいいことだ。
「ふわぁ〜〜あ…」
ふと大きなあくびが出てしまった。そういえば俺も日中からずっと体を動かしっぱなしなのを思い出した。みんなが楽しんでるのをぼぉーっと見ていると眠気が増してくる。
ーー風呂にでも入るか…。
風呂に入って寝よう。そう思った俺はみんなが楽しんでるのを横目に建物内に作られた風呂場へと向かうことにした。
※ ※ ※
風呂場に向かうと熱々のお湯の入った立派な木でできた大きな湯船が出迎えてくれた。
風呂場もそうだが建物内の家具たちはリリスのこだわりもあるらしく魔族たちがリリスのために死に物狂いで作ってくれたようだ。
魔族たちはあまり気にしてなさそうだったがあとでリリスには圧をかけすぎないように注意しないといけないかもしれない。
俺は体を洗うため、風呂場に置いてあったイスに腰掛けた。
耳を澄ませているとまだ外からはドンチャン騒ぎをしている音が聞こえてくる。
「みんな元気だなぁ」
俺は騒いでる声に耳を傾けつつ湯気の立ち昇る天井を見上げた。リリスの元気さといい魔族には体力というものがないんだろうかそんなふうに思えてしまう。
ーーさてと、、、洗うか。
俺は頭を洗おうと誰が用意してくれたかわからないシャンプーに手をかけた。
その時だった。
「アルス〜。今行くわね〜」
ーーは?
風呂の入り口の方から聞き覚えのある声。まさかとは思ったが俺は声のしてきた入り口を振り返った。
「しっつれいしまーーす」
どぉーん!!
風呂の入り口を勢いよく開け入ってきたのはタオル一枚を巻いた酔っ払った状態のリリスだった。
ーーやっぱりか…
俺は風呂場で頭を抱えた。
「あっ、それ私のシャンプー!アルスぅ〜それ使ってくれるの!?、、、」
「マジっ!?そうだったのか!?」
思わずシャンプーを見回してしまった。
全然気づかなかった。魔族たちがマナを使っていろいろ作ってたから誰かが用意してくれてたものかと思っていた。
さすがにリリスが使ってるシャンプーを使うわけにはいかない。
そう思った俺は手にかけたシャンプーを元の位置に戻そうと手を伸ばした。
だがしかしリリスはその行動を許しはしなかった。
俺がシャンプーを元の位置に置こうとした時、リリスはそうはさせまいと俺の腕をガシッと掴んだ。
「ダ〜メ…カップルなんだし同じシャンプーの匂いがしたっていいでしょ。私が洗ってあげる」
リリスは俺からシャンプーを取り上げると、頭にお湯をかけ手のひらにシャンプーを出しては俺の頭を洗い始めた。
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