第9話 とりあえず建物を建てたい!

 空中に高く飛んだ俺は持っていた剣を木へと向かい横に大きく振り切った。


「断空剣!」


 振り切った剣からは鋭利状のマナが放出され周囲の木を一気に切り落とした。


「これでフィナーレだ」


 地上に降りると俺はさらに断空剣を続けて放ち、切り落とした木を長方形状の形にし、一本一本綺麗に並べていった。


 ーーふぅ。


 俺は額にかいた汗を拭った。


「我ながら完璧だな」


「おぉー」


 パチパチパチパチ!


 リリスたちは綺麗に身の丈を遥かに上回る高さに積まれた木材を見て感心してくれたのか拍手を送ってくれた。


 とりあえずはこれで建物に関してはどうにかなりそうだ。


 あとは食材だ。救いにもここには山に川に湖まである。食材には困らないはずなんだが…


 俺は視線を三人に向けた。


「お前たち…食材を取りに行ったことはあるのか?」


 三人は首をブンブンと横に何度も振った。


 ーーだよなぁ…


 そもそも令嬢ともあろう者が食料採集なんてするはずもないか。


 ーーしょうがない。一つずつやっていくか。


 いろいろと考えたがこれが一番手っ取り早そうだ。それにリリスを一人で動かすのは危険極まりない。


 とりあえずまずは建物を作ろう。そう決めた時だった。


「アルス、アルス!!人手ならどうにかなるかもしれないわ」


 リリスが調子良さげに俺に寄ってきた。


「人手っていったって• • •全然見当たらないぞ」


 周囲を見回しても人っこ一人どころか魔族自体の気配も感じない。どこに人手なんているのだろうか。


 そんなことを思っていると、リリスは一人森の茂みに歩き出しそのまま茂みに向かい声を発した。


「おい…そこのゴブリン。消されたくなければ私の前に出てこい」


 リリスからは今まで聞いたことのない低く冷徹な声が聞こえ、それと同時に禍々しいほどのオーラがリリスから放出され、今まで隠していたであろう二本の湾曲した大きく黒い角があらわになった。


 周囲には凄まじいほどのマナが流れ、空間がピリついているのが肌でわかる。


 ここまで近づいてみることがなかったが、これが『炎魔リリス』の戦闘スタイルなのかもしれない。


 リリスはずっと茂みに目をやっていると、茂みが急にザワザワと動き出しその中からは全身緑の体に軽装をした魔族『ゴブリン』が姿を現した。


 ーー本当にいた!!


 俺は驚いた。確かに全く無警戒だったというのもあるが、殺気を感じないからか気配を全く感じなかった。魔族同士ともなると何か気づくことでもあるのだろうか。

 

「姫様ぁ!、、、なんでこのような場所に!?、、、」


「なんで?、、、それはこちらのセリフよ。お前たちはパパに人間を倒せと命令を受けてたはずでしょ?なんでこんな何もないような場所にいるの…」


 リリスからの圧がさらに増していく。


「それはぁぁ…」


 ーーなんかかわいそうだな。


 俺はなんとなくだがゴブリンの気持ちを察した。


 きっと魔王の命を受け、人間を倒しに『魔界』から来たのは間違いないのだろう。


 しかし命令の最中に人や魔族が全くいないこの無法地帯に辿り着き居心地が良くなったゴブリンはこの場所を住処として今の今まで住んでいたんだろう。


 リリスの言う通り命令無視なのは変わりないが、このままリリスに任せると力で支配する国づくりになってしまう気がした。


 ーーこれは良くないな。


 そう思った俺は鞘から出していた剣を納め、そのままリリスの頭に剣を下ろした。


「あぅっ!!」


「それ以上はダメだ。リリス」


 リリスは頭を抑えながら俺の方を振り向く。


「• • •アルス…痛い」


 リリスにはすまないがさすがにこういう利用の仕方は良くない。


 リリスとやり取りをしているとゴブリンが俺の方に顔を出してきた。


「お前!勇者アルスじゃねぇか!なんで姫様と一緒に」


 ゴブリンにしてはごもっともな反応だ。


「ちょっとリリスとは訳あって一緒に活動してるんだ。それと少しだけ俺たちに協力してほしいんだけどダメかな?」


「なっ!なんで魔族の俺が勇者なんかに手を!!、、」


「あぁん!?」


 ゴブリンの反応が気に食わなかったのかリリスの機嫌が最高潮だ。


「すいません!!仲間も全員連れてきて手伝わさせていただきます!」


 ゴブリンはリリスに返事をすると走って他にもいるであろう仲間を呼びに戻った。

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