第5話 魔王令嬢リリス

「ほら、じゃあさっそく作戦会議よ!さっさとこんな店からおさらばするわよ!」


 リリスは俺の腕を引っ張るようにグイッと引き寄せ、そのまま腕を絡ませてきた。あたりまえのように豊満なバストが『ぷにぃっ』と当たってはいるが、本人は全く気にしていなさそうで、むしろ楽しそうにしている。


 だが俺には少しだけやることがある。


「すまないリリス。ちょっとだけ時間が欲しい」


 腕にしがみつくようにしているリリスにそう伝えると、リリスは頬を膨らませムッとしていたが「10秒で戻ってきて」と無理難題を条件に絡んでいた腕を解放してくれた。


 ーー10秒なんて無理だろ…。


 俺はそう思いながらも酒場のマスターや客たちが寝ている奥の部屋へと向かった。


「ほんと、すいません」


 仮にも勇者と言われていたこの俺が少しばかりはしゃぎすぎてしまったようだ。


 未だにマスターたちはぐっすりと寝ている。


 俺は部屋にいる人たちに少しばかりの気持ちとして早めに催眠が解ける魔法をかけた。


 これでもう少ししたら目を覚ますはずだ。


「それと…これ今日飲んだ分のお金です」


 俺は布袋から金貨を数枚出してマスターと思われる男の手に握らせた。


 きっとこの金貨で今日飲みきった酒の分はまかなえるはずだ。


 最後に俺はその場で寝ている人たちに一礼をし部屋を後にした。


「リリス〜。すまない、遅くなったぁ………」


「すぅー、すぅー、すぅー」


 ーーマジかよ。


 そんなに長くお礼を言いにいったつもりはなかったがリリスは元いたカウンター席とは別の場所で気持ちよさそうに寝息をかいて寝てしまっていた。


「作戦会議するんじゃなかったのか。まったく」


 さすがに魔族をこのままにしておくわけにもいかず、俺はテーブルで寝た状態のリリスをなんとか背中に背負うと、とりあえず休める場所をということで近場の宿屋に入ることにした。





※ ※ ※


 チュンチュン、チュンチュン


 小鳥のさえずりが部屋の中まで聞こえてくる。


 ーーもう朝か。


 俺は寝ぼけまなこを目でこすり右手を無造作に横にやった。


 むにゅ。


「いやん」


 ーーん?


 今まで感じたことのない感触が俺の右手にあった。それに何か女性の声が聞こえたような…


 俺はおそるおそる手の感触のあった右手の方へと顔を向けた。すると。


「おはよ」


 ーーなっっっ!!


 おかしい。俺は宿を二部屋分取ったはずだ。それなのに…それなのになんで。


 ーーなんでリリスが俺のベッドに寝ている!?


 俺は知らずに胸に当たっていた手を素早く引っ込め、バッとリリスから離れるように起き上がった。


「なんでお前がこの部屋にいるんだ!?」


「なんでって〜…昨日の夜のこと覚えてないの?昨日の夜は激しくて、気持ちよくて〜」


 リリスは頬に手を当てながら恥ずかしそうに振る舞っている。


 ーーはぁっ?そんなバカな。少なからずお前よりかは酔ってなかったぞ。宿までの記憶も残ってる。まさか俺魔族と本当に!?


 焦り散らかしていた俺だったが、そんな姿を見てリリスはベッドの上でクスクスと笑っていた。


「ふふふ、冗談よ。• • •冗談なんだけど昨日私と契約したでしょ。その条件覚えてる?『先の世界も見せてあげる』それを果たしにきたの」


 ベッドで寝た状態だったリリスが上半身を起こしていくと掛け布団がスルスルっと上から落ちだしてきて、二つの豊満なお山が姿を現そうとしていた。


「バカ!!よせ!!やめろ!!」


 俺は部屋の隅に置いてあった替えようのシーツを広げリリスに向かい全力で投げた。


 シーツをかけられたリリスは中でもぞもぞと苦戦していたが間から顔を出してきて気に食わない表情を俺に対して向けてきた。


「なによ!バカって!私だって恥ずかしいながらもやってるのよ!少しくらい見てくれたっていいじゃない」


「どんだけ見せたいんだ!お前は。社交辞令ってものがあるだろう!?」


「しゃこ??、、、何よそれ!私は絶対に契約は守る主義なの。これは魔族の掟なの!」


「今は家出中なんだろ?」


「うるさいっっ!!」


 俺もそうだがリリスもまったく引こうとする気配がない。何か言えば絶対に噛みつかれる気しかしない。魔王のご令嬢さんはとても気が強いようだ。


 ーー…ここは俺が引くか


 そう思うと「はぁ」と小さなため息を吐きムッとしているリリスのいるベッドに座った。


「リリス、すまない。俺が悪かった。ちょっと言い過ぎたかもしれない。その…お前との契約条件なんだがまた今度ってことにしてくれないか?」


 俺はリリスに対して一言謝るとリリスは勝った様な気でいるのか少しばかりドヤっとした顔をした。


「ふん!わかればいいのよ。ただ私絶対に条件は忘れないから覚悟しときなさい」


 ーーなんでそんな自分の体を見せたがるんだよ…


 俺は心の中でツッコミを入れた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る