第13話 ルルとララ

 • • • • •。


 ただただ静かな湖のほとり。


 俺は釣りをしているララの隣にいた。


 本当にこの姉妹は見分けがつかない。リリスはわかると言うが、目の色を確認するまでさすがにルルかララかわからない。


 今現在釣りをしている女の子の瞳は綺麗な青色だ。つまりはララということになる。


 • • • • •。


 ーーう〜ん…


「なぁ、ララ。お前はみんなと建物作りやらないのか?」


「はい。私はお姉様に夕飯の食材をとってきてと言われました。その責務を全うするだけです」


 • • • • •。


 ーーなんか気まずいな…


 リリスとのお風呂も気まずかったが、別の意味でこの空気感に耐えられなくなりそうだ。


「釣れるか?」


「釣れません…」


 ーー• • •ふむ。どうしたものか。


 何を言っても一言返事で返されてしまう。リリスはおしゃべりな分どうにか場が繋げるが、ララとの会話は沈黙の時間が多くなり気まずくなる。


 ーーあっ!そうだ。


 俺はピンッと思いつくことがあった。


 今まで一緒にいて一度でいいからララ本人に確認してみたかったことを思い出した。


 それは。


「ララの性格ってずっと今の感じなの?」


 …ジロッ!


 俺も軽い気持ちでララに声をかけたつもりだったが、予想以上にララの冷たい視線が俺に向いた。


 何か地雷でも踏んでしまったのだろうか。


 俺は話を続けていくことにする。


「初めてルルとララに会った時から思ってたんだけど、ルルからはクールな性格が伝わってくるんだけど、ララからはなんでかクールな性格を偽ってるような気がしちゃうんだよねー」


「• • • • •。お姉ちゃんや姫様から何か聞いたんですか?」


「い〜や。全然」


 俺はそう答えるとララは「はぁ」と息を吐き、少しの間沈黙の時間が流れた。


「少しだけお話よろしいでしょうか?」


「あぁ、いいぜ。この元勇者で良ければララのお悩みを聞いてあげよう」


 俺は釣りをしているララの隣に座った。





※ ※ ※


「ふむ…なるほど…」


 ーーなかなか重いな…


 ララの釣りに付き合いながらルルとララそしてリリスとの関係の話を教えてくれた。


 ルルとララ。双子の姉妹ではあるが魔族にとって双子というのは『忌み子』と言われてしまうらしく、生まれた時点で魔界を追い出されるという魔族のしきたりがあるらしい。


 ルルとララも生まれた時から魔界から追放され人界側にいる魔族たちによって育てられたようだ。


 そしてある日、リリスが人界侵攻をしてる際にリリスの目に留まったらしく、リリスの特権で二人を魔界に連れ帰りメイドに仕立てあげたというのが三人の関係のはじまりらしい。


 リリスが当時どういうふうに思っていたかはわからないが、結果的に二人を救っていたみたいだ。


 そこからララはしっかりとしたメイドを目指すべくしっかり者のルルの真似をするようになり今に至る。


 ということらしい。


 でも…


「それって生きてて楽しいか?」


 ララの本来の姿を見たことがないためなんとも言えないが、きっと自分の思いを押し潰して生きてるような気がしてしまう。


「楽しい• • •なんてこと思ったことありません。決めたんです。お姉ちゃんと一緒に私を救ってくれた姫様のために全てを尽くすと。だから私はこれから先も姫様のために生きていくんです。ずっと」


「ふ〜ん…。それで、そんな姫様はルルとララに『私に尽くせっ』て言ってたのかい?」


「それはっっ、、、• • • • •言ってません…」


 ーーだろうな。


 リリスとの付き合いは短くはある。だがリリスがルルとララに「私のために働け」と言ってるような姿が全然想像できない。


「だったら、この国で楽しく生きてみないか?ここにはリリスもいるし、ルルやララを縛るものなんか何一つないんだからさ」


「…そんなの…無理ですよ。私なんかにこの世界を楽しんでいい資格があるはずありません。お姉ちゃんにも迷惑をかけ続けて、私はずっと…」


 ララはしゅんと顔を下げた。


「誰がそんな資格決めたんだよ。俺だったらそいつぶん殴ってるぞ。う〜ん…そうだなぁ。ちょっと待ってな」


 俺はその場で立ちあがると湖の上を魔法を使い歩いていった。


 ーーおっ。やっぱいたいた。よろしくたのむよ〜。


 俺は湖の下に手を振るとララの元に戻ってきた。


「いいか?ララ。釣り竿ちゃんと握ってるんだぞ」


 ララは俺の言葉にコクリと頷いた。


 しばらくララの後ろで待っていると釣り糸が急にピンと張り釣り竿ごと小さなララの体を引っ張った。


「きゃっ!!」


「おっと!」


 後ろからララの体と釣り竿を抑えた。


「ララ!集中するんだぞ。せ〜ので一緒に引っ張るぞ。、、、行くよ!!」


「せ〜のっ!」

「せ〜のっ!」


 二人で勢いよく釣り竿を引いた。


 すると。


 引いた先。釣り糸の先には1メートルをはるかに超える特大サイズの魚が湖面上に姿を現した。


 俺たちはその後も二人で特大魚としばらく格闘をしていたが、どうにかこうにか特大魚を陸まで引っ張りあげることに成功した。


「はぁ、、はぁ、、アルス様!!、、、やりました!!、、あっ…」


 ふと元の性格がでてしまったのか。ララは口を両手で抑えた。


「ははは!!楽しいだろ!こんな生活がこれからずっと続くんだぞ?ワクワクするだろ」

 

「ワクワク…」


 ララはそう言うと何か思うことがあったのか魚を抱えて、俺たちの家の方に走っていき途中でこちらを向き直した。


「アルスさまぁーーー!!、、、ありがとーーー!!」


 今まで見たことのないような笑顔をララは俺に見せてくれた。


 ーーなんだよ。可愛い顔で笑うじゃないか。


 そう思うと俺は湖の方へ振り返った。


「お前たちもありがとなー!」


 俺は湖に向かい手を振り声をかけると中から魔族『マーメイド』が姿を現し、手を振りかえして湖の中に帰っていった。





※ ※ ※


 〜家での食卓〜


「アルス様!おかわりが欲しいです!」


「おっ!そうか。じゃあ俺が直々にご飯をよそってやろう!」


 俺はご飯をよそうためにララからお椀を受け取った。


「ララ!!それは私たちのお仕事です。今すぐアルス様からお椀を返してもらいなさい!」


 ルルからのお叱りの言葉がララに入った。その後もルルとララは軽い痴話喧嘩のようなことを繰り返している。


「ねぇ。ララにどんな魔法をかけたの?」


 リリスは俺に頭を寄せて聞いてきた。


「魔法ねぇ…強いて言うなら• • •釣りの魔法?」

 

「なにそれ?」


 俺とリリスは目の前で痴話喧嘩をしているルルとララに目をやる。


「まぁ、いいじゃないか。この方が姉妹っぽいし」


 俺は姉妹喧嘩を見ながらテーブルに出ているおかずに手を出した。

 

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