第12話 元勇者の魔法

 リリスとのお風呂での一件から数日。俺は魔族たち全員を俺やリリスが住む建物の前に集合させた。


 今から俺が何をするか。ざっくり言ってしまうと『土地作り』だ。


 今の段階では国を作ると言っておいてまだ建物一つしか建てていない。


 本来はオークのような力のある魔族や数のいるゴブリンがいれば建物の一つや二つすんなりと作れそうなはずなのだがなにぶん森だらけで建物を建てるスペースがないというのが現状だ。


 リリスもこれからたくさん魔族を呼んでくると意気込んでいるため、いつでも仲間が増えてもいいようにちゃんとした土地が必要になってくるに違いない。


 そこで俺が人肌脱ごうというわけだ。俺の魔法であれば作りたいエリア分の森を魔法で消し飛ばすことができる。


 どれくらい広い土地が欲しいかは事前に子供が描いたような絵をバシバシと叩きながらリリスが熱弁してくれたためなんとなく想像がついている。


「これ持っててくれるか?」


 俺は腰に下げていた剣をリリスに渡した。


 剣を渡されたリリスはどこか不満な表情をしていて「私がやりたかったのに…」とぶつぶつと呟き、目も合わせてくれない。


 ーーまったく。強情女め。


 リリスには申し訳ないが今回の件からは手を引いてもらった。


 リリスの二つ名は『炎魔』すなわち火属性の魔法を使うため、森が多いこんな場所で魔法を使われたりなんかしてしまうとリリスのことだ、森林大火災を起こしてしまうだろう。


 今はご機嫌斜めのリリスだがなんやかんやすぐにケロッと機嫌が戻る。とりあえずは大丈夫だろう。


「さてとやりますか!」


 俺は右手を前に出しマナの球体を作り上げると土地の中心になる場所に作った球体を移動させた。


 俺の魔法は地属性レアスキル『重力』


 勇者パーティを組んでた時はよく『重力魔法』なんて呼ばれていた。


 能力はいたってシンプル。重力の向きの操作だ。これにより空を飛ぶこともできれば、放出したマナを重力で操作することも可能で戦闘や私生活で幅広く使える能力だ。


 このレア魔法のおかげでヴァルキオン王に呼ばれたといっても過言ではない。


「みんな、、、絶対俺の前には立つんじゃないぞ。巻き込まれるからな」


 俺は魔法を使う前にみんなへ細心の注意を払った。


「いくぞ!!地殻ちかく、、、吸引きゅういん


 俺は広げていた手のひらをグーにさせ重力魔法『地殻吸引』を発動させた。


 すると俺の手の合図とともに、マナの球体を核としてさまざまな方向からの重力が球体に引っ張られるように集まってきた。


 その威力は凄まじく周囲に生い茂る木々を根こそぎ地面から引っこ抜くと球体中心に集まり木々同士がぶつかりあいながら跡形もなくその姿を消していった。


 しばらくすると、広大な範囲の森が綺麗さっぱりとなくなり、マナで作った球体も仕事を終えるとパァっと明るい光を見せ消失した。


「上出来だな」


 俺は放った魔法の具合を確認して魔族たちがいる方を振り向くと、驚く者。拍手をくれる者。いろんな反応が見受けられた。


 そんな中。


「わー、すごーい。さすがチートゆうしゃー、まぞくのてきー…」


 • • • • •ムカッッ!!


「いたたたたたたたたっっっ!!、、、ごめんなさい!!アルスさまぁーー、、、二度と言わないんでゆるしてーーー!!」


 俺はリリスのこめかみに握ったグーの手を強く押し付けた。


「とりあえず俺が魔法でできるのはここまでだ。ここからはみんなで話あった通りだ。各々の仕事に就いてほしい」


 事前に俺は魔族たちに仕事の割り振りをしていた。きっとみんなリリスとの契約もあるため責務を全うしてくれるだろう。


 魔族たちは自身の割り振られた仕事場へと向かっていった。


 ーーさてと俺はと。


 グリグリしてたリリスを離し、俺も家のリフォームに入ろうとした。


 ーーあれ?


 ふと視線の先。湖の方にルルかララどちらかが魚釣りをしてるのが見えた。


 ーーちょっとだけ顔出してみるかぁ。


 俺は魚釣りをしている湖の方へと足を運んだ。

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