第13話 三大天使 in ナザレ
ラミエルはマリアをエン・カレムに連れて来るというエリザベツとの約束を果たすためにマリアが住んでいるナザレという町にいた。
ナザレはガリラヤ地方の山地にあり、そこで洗濯物を干しているマリアを見つけた。
マリアはダビデの子孫、親族には祭司職の者もいたが、特段裕福ではなかった。
ラミエルは面識がないマリアにどのように声をかけるか悩んだ。
(どういう感じで声をかけようかしら?
『はーい!エリザベツの使者でーす』とか?
『堕天使ラミエルでーす!』とか?)
「まあ、普通でいいか・・・・」
と考えを固め、マリアに声をかけようとしたそのとき、何者かがラミエルとマリアの間に入り、遮った。
「わ!」
「おい、お前、知らない顔だな。どこの班だ?マリアに何しようとしてたんだ?」
「は、はい?」
「班長の名前を聞いてるんだが。」
「は、班長?ベ、ベリアル様?アザゼル様?班長は良くわかりませんが・・・・」
「ベリアル?アザゼル?お前堕天使か?動くなよ。」
ミカエルは素早く剣を抜いて剣先を喉元に差し込んでラミエルを震え上がらせた。
周りにはマリアや他の人間もいたが、二人の存在は認知されず会話も聞こえないようだった。
「ちょっと、みんな、集まってくれ。」
するとその男の周りに三人の羽の生えた男が集まってきた。合計四人の羽の生えた男に囲まれ、ラミエルは恐怖のあまりチビッた。
「どうした?ガブリエル。」
「皇帝の見張りで忙しいところすまない、ミカエル。おい、ラファエル、こいつ、何だと思う?」
「かわいい女の子じゃないですか。ねえエノクさん。」
ラミエルは全身が震えだした。
(ガブリエル?ミカエル?ラファエル?エノクさん?三大天使プラスエノク?!)
ここはお任せ、とばかりにラファエルが先に動き出した。
「まずは確認ね!」
「おい、ラファエル、手が早いぞ。」
「どれどれ。」
ラファエルは片手でラミエルの両手を掴み、もう片方の手で服の背中部分をまくりあげ羽を露わにした。
ビローン!ギャッ!
ラファエルが判定した。
「ん〜羽があるので天使か堕天使ですが、アザゼルが班長ということは堕天使っすね?ねえ、エノクさん?ま、とりあえず、こいつを縛りまーす。」
ラファエルはラミエルをあっという間に肩からくるぶしまでぐるぐる巻きに縛り、地面に転がした。
エノクが答えた
「いやいや、アザゼルは二〇〇〇年前のノアの洪水のときに裁かれて、アビスに閉じ込められえている。今はそんな班はないはずだ。君はどうして自分はアザゼルに属していると言ったのだ?」
ぐるぐる巻のラミエルは答えた。
「ぼ、僕、二〇〇〇年間死海の底に閉じ込められていましたが、何故か湖面に出てきたのです・・・・」
四人は顔を見合わせて笑いながら言い合った。
「中途半端だな。湖面から出てきちゃったって、それって裁かれてるといえるのか?」
「そんな神の裁き聞いたことない。」
「もしかして重大な罪を犯してないってこと??」
気を取り直して、ミカエルがラミエルに尋問を始めた。
「お前、名前はなんという?」
「ラ、ラミエルです・・・・」
「マリアに何をしようとしていた?」
「エ、エリザベツさんからマリアさんが結婚する前にマリアさんとたくさんお話をしたいから連れてきてってお願いされて、それで・・・・・」
四人の天使たちはラミエルの回答に顔を見合わせた。ガブリエルが尋問を続けた。
「エン・カレムのエリザベツさんか?どうやって彼女と知り合った?」
「えーと、ザカリヤさんがエルサレムで仕事中喋れなくなって、そして、帰宅途中僕とぶつかって歩けなくなったので、家までおぶって送ったらエリザベツさんがいらっしゃいました。」
「君はいい人なんだな・・・・どうしてラミエルはエルサレムにいたんだ?」
「ベルゼブル様からメシヤが誕生したら殺すから情報を集めろと言われて・・・・」
「ベルゼブル!」
四人は再び顔を見合わせて言い合った。
「サタンが、」
「メシヤ誕生を追っている!」
「ベルゼブルが、」
「地上にいる!」
今度はラファエルがラミエルに尋問した。
「てことはルシファーも地上にいるのか?」
「ルシファー樣はいらっしゃらなかったような・・・レビアタン樣もいらっしゃらなかったかな・・・・ベリアル樣はいらっしゃいました!」
「ベリアルは知らないが・・・・ラミエル、なんでそんなに正直なんだ?馬鹿か?君は誰の味方なんだ?」
「だ、誰の味方って・・・・今はエリザベツさんとザカリヤさんです!そ、そしてマリアさんをザカリヤさんの家に送り届けなくてはいけないんです!馬鹿なのは間違いありませんけど・・・・」
四人はヒソヒソ話を始めた。
「ラミエルは堕天使じゃなくて天使だよね?」
「神に確認するまで天使と断定はできないなあ。」
「そんなこと神は教えてくれるのか?」
「ラミエルはどうも、目の前の人をご主人様と認識する習性があるだけのような気がするが。」
「それって危ない性格だぞ。」
「ノアの洪水のときの裁かれ方が中途半端なんだよなあ。」
「教育に恵まれなくて正しい道を知らないだけじゃね?」
「きっとなんかの間違いでサタン側に紛れ込んでしまったのかな?」
ミカエルが暫く考えたあと結論を出した。
「ラミエル、よく聞いてくれ。君は天使にしては珍しく女で、見た目が柔らかく人間に警戒されないので、色々使えるから、こっち側で働いてもらおう。」
ぐるぐる巻きのラミエルは答えた。
「女だから採用ですか??」
「そうだ。」
「ベルゼブル様と同じ考えです!」
「サタンと同じかよ!!」
他の三人の天使が腹を抱えて笑い出したのでミカエルは落ち込んだ。
「ぼ、ぼく、ベルゼブルレベル?・・・・」
ミカエルが立ち直るのに時間がかかりそうだったのでガブリエルが話を続けた。
「ラミエル、二度と神を裏切らないと誓うか?誓うならラミエルが天使に戻れるように神に進言するが。」
エノクが口を挟んだ。
「おいおい、神に誓うのはダメだって。神が言ってたでしょ?これはラミエルの心の問題で、ラミエル自身が神に祈って頼まないと意味がない事例だぞ。」
ガブリエルが顔を赤くして反省した。
「そ、そうだな、なんか、どうしてもこいつを助けたくなってきてしまったので、ちょっと前のめりになってしまった。ラミエル、エノクの言うとおりだ。君が決めろ。」
「き、き、きめろって・・・・」
「早く決めろ!」
ミカエルが再度前のめりになったガブリエルを制止した。
「おいおいおい、ガブ、急かすなよ。僕もなんとなくこいつを助けたくなったから『こっち側で働いてもらう』と言ったので、気持ちは同じだ。天使仲間としては天から落とされる堕天使を増やしたくないってことだろ?」
「ま、まあ、そういうことだ・・・・」
「よし、ラミエル、君には時間を与える。神に祈って自分で決めるんだ。だけど、僕たちは神の計画に従いメシヤを育てるのが今の任務だから、君が原因でメシヤに危険が及んだら・・・・容赦なく君を滅ぼす。」
四人の天使は同時に剣を抜いて剣先をラミエルの額の直前に集めた。
ラミエルは恐ろしくて泡を吹いて気絶した。
ミカエルは剣でラミエルに巻かれた縄を切って解放した。
ミカエルが今後の方針について説明を続けた。
「ラミエルの教育はエノクに任せよう。心のケアはラファエルが得意だな?それにしてもサタンが地上に来てメシヤを殺そうとしているらしいから、こちらも急がなきゃな。今晩早速マリアに重要なお告げをしてしまおう。」
ラミエルが目を覚まして反応した。
「マリアさん??僕マリアさんをエリザベツさんに送り届けなきゃいけないんです!そのマリアさんに何を知らせるのですか?」
「もちろん、これからマリアがメシヤを産むって話さ。」
ラミエルの開いた口が塞がらなくなった。
「メシヤああ?」
ガブリエルはラミエルに言った。
「ラミエルは陰で見ててね〜。君の教育の一環だから。」
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