第6話 ダビデ王朝の樹立
モーセの死後、後継者ヨシュア以降士師(さばきつかさ)(注44)が指導者としてイスラエル十二部族を率いたが、紀元前一〇世紀、ベニヤミン族の士師サウルが預言者サムエルによって油注がれ、イスラエル史上初の王となった。
しかしサウルが神に従わなかったのでサムエルはサウルを見限り、ベツレヘムのユダ族出身でエッサイの子、羊飼い出身のダビデに油を注いだ。ダビデはサウル王朝を倒し、エルサレム(注45)を攻略して首都とし、ダビデ王朝を樹立して全イスラエルの王となった。
そしてダビデ王軍は近隣のエドム人、アモン人、モアブ人などを打ち破り配下に治めたので、イスラエルは史上初めて平和な世となり、経済的にも潤った。
神はダビデに「ダビデの家系からメシヤが誕生すること」と「ダビデの王座が永遠に続くこと」を約束した。
「あなたの日数が満ち、あなたがたの先祖たちのもとに行くようになるなら、わたしは、あなたの息子の中から、あなたの世継ぎの子を、あなたのあとに起こし、メシヤの王国を確立させる。
メシヤはわたしのために一つの家を建て、わたしはその王座をとこしえまでも堅く立てる
わたしはメシヤにとって父となり、メシヤはわたしにとって子となる。わたしはわたしの恵みをあなたの先にいた者から取り去ったが、わたしの恵みをそのように、メシヤから取り去ることはない
わたしは、メシヤをわたしの家とわたしの王国の間に、とこしえまでも立たせる。メシヤの王座は、とこしえまでも堅く立つ。」(注46)
ダビデは神に感謝したが、イスラエルの民はダビデがメシヤだと思っていたのでダビデの子孫がメシヤだと聞いて驚いた。
ダビデは預言者でもあり、詩篇の一部を著作した。
また、モーセの幕屋を首都エルサレムに移し、楽器やコーラスを駆使した霊的な礼拝を捧げた。
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伏魔殿で久しぶりに会議が開催された。
「まずい流れだな。イスラエル民族を泳がせたのは良いがちょっと調子に乗ってきたようだ。」
「ああ、人間の堕落は相変わらず勝手に膨張しているが、本当の神を知っている民も増えだした。」
「心配するなって、イスラエルなんて世界の中のほんの一部だ。」
「そうだそうだ、中華やインダスに人間が何億人もいるが、相変わらず誰も神のことなんて知らないぞ。」
「そうだそうだ、神がイスラエルにだけかまっている分にはほんのお遊びじゃないか?」
ルシファーは結論を出して言った。
「ダビデだ。」
ベルゼブルがルシファーの指示を察して答えた。
「ダビデのところに行ってハニートラップでもかけて堕落させて、権威を失墜させます。」
レビアタンが会議を締めくくって言った。
「ベルゼブルがダビデにハニトラを仕掛ける。その後悪霊たちは王族や官僚が神から離れるように注力するように。」
会議は散会した。
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ダビデ軍はヨアブ将軍の指揮のもと戦争を仕掛け外敵を攻略したが、ダビデは戦場には行かず、エルサレムに留まっていた。
ある夕暮れ時、ダビデはベッドから起き上がり王宮の屋上を歩いていると、ひとりの女が、体を洗っているのが屋上から見えた。その女は非常に美しかった。
ダビデはその女について家来に調べさせると「あれは兵士ヒッタイト人ウリヤの妻バテ・シェバです。」とのことだった。ウリヤは戦場の只中にいた。
ダビデはすぐに使いの者を送ってその女を召し入れ、その女はみごもった。
ダビデはヨアブ将軍に「ウリヤを激戦の真っ正面に出し、彼を残してあなたがたは退き、彼が打たれて死ぬようにせよ。」と書いた手紙を送った。
ウリヤは戦死した。
バテ・シェバは夫の死を悲しんだ。
喪が明けると、ダビデは人をやり、バテ・シェバを自分の家に迎え入れ、彼女はソロモン(注47)を産んだ。
ダビデの行ったことは主のみこころを損なった。
また、これらのスキャンダルを見ていた重臣たちは忠誠心が揺らいだ。
ダビデの子ソロモンがダビデ王朝二代目の王となった。ソロモンは神から超人的な知恵を授かり、近隣諸国もひざまずき、ダビデ王朝は栄華を極めた。
そしてダビデの遺志を引き継ぎ史上初めて神殿を建立し、契約の箱を安置した(注48)。
イスラエルの民はソロモンがメシヤだと考えた。
しかし神はダビデの罪を忘れず、しかもソロモンも宗教的に堕落したためにダビデ王朝を裁いた。
ソロモンの子レハブアムが王のときに十二部族のうち十部族はダビデ王朝に造反し、北イスラエル王国(注49)を勃興して分離独立した。残りの二部族は南ユダ王国(注50)を名乗りダビデ王朝を承継した。
(注44)士師 モーセの後継者ヨシュアの次の首領オトニエルからサウルまでの首領を士師という。女預言者デボラの時代のバラク、勇者ギデオン、怪力サムソンなどが有名。
(注45) エルサレム ダビデ王が最初に首都と定めた後、紀元後七〇年のユダヤ戦争による滅亡まで約千年間首都だった。現在のイスラエル国は首都と定めているが、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり国際紛争を避けるため国連は首都と認めていない。ダビデ王が最初にエルサレムを首都と定め紀元後七〇年のユダヤ戦争による滅亡まで続いた。
(注46)第一歴代誌一七章一一節-一四節
(注47) ソロモン(紀元前一〇一一~九三一)「箴言」「伝道者の書」「雅歌」の著者として名を連ねている。
(注48)神殿 第一神殿、ソロモンの神殿と呼ばれる。
(注49) 北イスラエル王国 ソロモン王の死後王国は分裂し(紀元前九二二)、ユダ族とベニヤミン族以外の一〇部族の領地は北イスラエル王国に分裂しソロモンの家来だったヤロブアムが初代王となった。
(注50) 南ユダ王国 ソロモンの子レハブアムが初代王となる。
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