第18話 東方の博士とヘロデ大王

 堕天使たちに流されたマリアに関するフェイクニュースは天使たちによって守られ、ベツレヘムに留まったヨセフとマリアは無事だった。


 生後八日が過ぎ、割礼をほどこす時となったので、ヨセフはガブリエルに告げられた通り幼な子をイエスと名づけ、割礼を施した。


 ヨセフはすぐにナザレに帰るよりも、しばらくたってから帰った方ほうがマリアに疑惑の目が向けられないで済むのではないかと考えマリアとラミエルに言った。

「マリアとラミエル、私たちはベツレヘムで暫く暮らすことにする。妊娠期間を有耶無耶にできるからね。」

「そうですね・・・・でも、エリ婆の家はここから近いわ。」

「エン・カレムかあ、おじさんおばさんと一緒に子育ても悪くないね。」


 ラミエルは別の意味でこれからの身の振り方を心配していた。それはサタンからどうやって身を隠そうか、ということだった。

 ラミエルはベツレヘムがサタンに狙われていたが神の過越しの力でサタンから守られていたことをミカエルたちから聞いていた。

(神の力がある限り、ベツレヘムが一番安心よね?)

 ラミエルはヨセフに自信満々に言った。

「ベツレヘムがいいと思います。大丈夫です!」


 ヨセフはしばらく考えて決断した。

「エン・カレムのザカ爺、エリ婆の親戚はナザレにもいるから、子どもと一緒に行くと月足らず出産が親戚にバレバレになるから、しばらくここにいよう!」


 三人はとりあえずベツレヘムで家を探して入居した。ヨセフは村内の大工の仕事を手伝って生計を立てた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 イエスが生まれてから一年以上の月日が過ぎた。

 過越しのバリアーによりサタンたちはヨセフたちに手出しできなかった。


 すると博士三人が東方のメソポタミアのほうからエルサレムの神殿に上ってきて言った。

「ユダヤ人の王としてお生れになった方はどこにおられますか。わたしたちは東の方でその星を見たので、その方を拝みにきました。」


 その星はガブリエルだった(笑)


 ヘロデ大王はこの報告を聞いて必要以上に不安を感じた。

 ヘロデは市中の噂話に耳を貸すほど暇ではなかったが、ベルゼブルがヘロデの夢に現れて不安を煽ったので気になってしまったのだ。


「東方の博士たちが言っていることは本当である。」

「は?何を言っておるのだ。バカバカしい。ユダヤの王は私だ。ローマ皇帝アウグストゥスも認めている。」

「聖典を読んだことはないのか?イザヤ書とかダニエル書とかミカ書とかマラキ書とか・・・・もうすぐメシヤが現れる。」

「何を言っている。私はもう年だが次の王は息子のアルケラオスに決まっている。」

「本当にあの無能な息子をローマ皇帝が認めると思っているのか?」


 ヘロデは大汗をかいて寝床から起き上がった。

 ユダヤの王は自分でありヘロデ家がこれを受け継ぐ。

何人もユダヤの王を名乗ることは許されない。


 エルサレムの人々も同様に博士たちの訪問にびびった。ヘロデが暴れると収拾がつかなくなるからだ。


 ヘロデは祭司長たちと民の律法学者たちとを全員集めて、メシヤはどこで生れるのか彼らに調べさせた。


 彼らはヘロデに言った。

「それはユダヤのベツレヘムです。預言者ミカがこう記しています。


『ユダの地、ベツレヘム・エフラテよ、おまえはユダの指導者たちの中でけして最も小さいものではない。ベツレヘム出身者の中からひとりの指導者が出て、わが民イスラエルの牧者となるであろう』」


 ベルゼブルはヘロデを見張っていた。

「やっとヘロデが動いてくれた・・・・こいつなら必ずメシヤを殺す。」


 ヘロデはエルサレムに来ていた博士たちを宮殿に呼んだ。

「ようこそ博士たち。」

「王に謁見できて光栄です。誉れ高いあなたの神殿は私達の国でも人気が高い。」

「おまえたち、ユダヤ人の王を探しているんだろう?学者たちに調べさせた。ベツレヘムという村で生まれるらしい。お前たちはベツレヘムに行って、その幼な子が見つかったらわしに知らせてくれ。わしも拝みに行くから。」

「承知いたしました。」

「ちなみにおまえたちは、最初にその星を見たのはいつ頃だ?参考までに教えてほしい。」

「一年くらい前です。」


 ヘロデはその幼子を殺すつもりだった。


 博士たちがヘロデとの謁見を終えて宮の外に出ると、彼らが東方で見た星が、彼らより先に進んで、幼な子のいるベツレヘムのヨセフの借家まで導き、幼な子の上にとどまった。


 博士たちはその星を見て歓喜した。

「ハレルヤ!ハレルヤ!」


 そして、借家に入って、ヨセフやマリアのそばにいる幼な子に会い、ひれ伏して拝み、また、宝の箱をあけて、黄金・乳香・没薬などの贈り物をささげた。

「いと高き所に栄光を!」

「ハレルヤ!」


 ヨセフは遠い他国からわざわざ自分の子どもを礼拝しに来てくれた博士たちをもてなそうと考えた。

「これからどうぞ、ともに晩御飯でも。」

 博士たちは意外にもヨセフの申し出を固辞した。

「夕べ夢に天使が現れて、王のところには帰るなと告げられました。嫌な予感がするのでこれにて国へ帰ります。」


 少し離れたところにいたラミエルが近づいてきて博士たちに質問した。

「その天使、自分のことをガブリエルとか言ってました??」

「はい、そうです。ダニエル書で預言を授けているガブリエル様です。」


 ラミエルは天を見上げて叫んだ。

「ガブリエル様!?なにやってんの??羊飼い連れてきたり、博士たち連れてきたり!」

 博士たちはラミエルに言った。

「星になって私たちをエルサレムやベツレヘムへ誘導してくれたのも、たぶんガブリエル様です。本当は王の宮殿に寄って幼な子の居場所や様子を報告することになっていたのですが、やめておきます。これから来た道ではなく他の道を通って、ヘロデ宮殿には寄らずに自分の国へ帰ります。」

 ヨセフは心配になってきた。

「てことはここも危ないのかな・・・・」

「用心なさってください。私たちは平然を装いましたが、ヘロデは恐ろしい人なので内心は穏やかではありませんでしたぞ。はっはっはっ!」


 こうして博士たちは足早に東方の故郷へ帰っていった。

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