第14話 マリアの受胎告知
マリアは小さいときに父ヘリから我が家は今はレビ族に属しているが元々はユダ族のダビデの家系であることを聞いていた。ダビデとバテ・シェバとの子どもであるナタンの末裔であるが、ダビデの次の王は兄ソロモンに引き継がれたので、ナタンの末裔から王になるものは出ず、歴史に名を刻む先祖はいなかった。
マリアは婚約相手であるヨセフとの結婚を夢見て、その準備に追われていた。婚約したカップルは一年後の結婚式のために男性は新居、女性は家具や着物を用意するのが一般的だった。
その日の夜、ガブリエルはマリアの枕元に唐突に現れた。
「我は三大天使のひとり、ガブリエールであーる!」
結婚の準備で疲れて寝ようとしていたマリアは驚きのあまりのけぞった。
「恵まれた女よ、おめでとう、マリーア、主があなたと共におられまーす!」
マリアは普通に恐れた。
聖典に度々天使が登場することは知っていたが、三大天使の一人が自分の前に現れると考えたことはなかったからだ。
陰で見ていたラミエルは隣りに居るメンタルケア担当のラファエルに小声で言った。
「ガブリエルさんって人間にお知らせするときは変わった喋り方ですね。」
「そうだね、ちょっと、クセ強いかな?」
ヒソヒソ話に気がついたガブリエルが咳払いして、二人を黙らせ、告知を続けた。
「恐れることはない!マリーア!」
ラファエルが小声でツッコミを入れた。
「恐れさせてるから。」
「ですよね・・・・」
ガブリエルはマリアが自分を恐れていることを確認しつつ告知を続けた。
「あなたは神から恵みをいただいているのです。見よ、あなたは身籠って男の子を産むのでーす!」
「み、みごもる?」
「その子をイエスと名付けなさーい!」
「イ、イエス?」
イエスという名を聞いてラミエルは心の中で呟いた。
(イエス?インマヌエルじゃない・・・・)
マリアは自分が身籠るという天使からの告知の内容に気を失いそうになった。しかしガブリエルは気にせず告知を続けた。
「イエスは大いなる者となり、いと高き者の子となるのでーす!
そして、神である主はイエスにその父ダビデの王位をお与えになりまーす!
イエスはとこしえにイスラエルを治め、その国は終わることがありません!」
若いのに聖典に精通していたマリアはガブリエルの告知内容がイザヤやダニエルの預言の内容の一部であることに気がついた。
しかし、マリアはガブリエルの一方的な告知に腑に落ちない箇所を一点発見したので訊いてみた。
「どうしてそのような事があり得ましょう。私にはまだ夫がありませんのに・・・・」
率直な疑問だった。
結婚してないのに妊娠するのはおかしい。
マリアは自分と同様ダビデの末裔であるヨセフと婚約中であるが、イスラエル社会の掟により男女の関係に至ってなかったのだ(注79)。
この疑問に対してガブリエルは答えた。
「聖霊(注80) があなたに臨まれまーす。それゆえに生れ出る子は聖なる者であーり、神の子なのでーす。
あなたの親族エリサベツも老年ながら子を宿していまーす。
不妊の女といわれていたのに、はや六か月になっていまーす。
神にはできないことはないのでーす!」
マリアは叔母のエリザベツが妊娠したことを聞いたのは初めてで、そのことを知らなかったが、聖霊なるものの力がマリアに働き不思議とガブリエルの説明に納得することができた。
マリアは喜びで満たされ、ガブリエルに応答した。
「わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように。」
お告げが終わったガブリエルはマリアから離れて天に消えた。
マリアは感謝を捧げ、いつまでも天を仰いだ。
ラミエルは悩んだ。
(エリザベツさんのお腹の子はヨセフでインマヌエルではなく、マリアさんのお腹の子はイエスでインマヌエルではなかった・・・・)
悩んでいるラミエルを見てラファエルが声をかけた。
「どうしたの、難しい顔をして。」
ラミエルは率直にラファエルに尋ねた。
「産まれてくる子どもの名前がインマヌエルではなくてイエスだったので、また人違いなのかなって思って・・・・」
「ラミエルはイザヤの預言を知らないの?」
「う・・・・ベリアル樣からレクチャーを受けているのかもしれませんが、話が難しくて、ほとんど寝てて・・・・『インマヌエルがパンの家で生まれる』しか頭に残ってないのです。」
「『インマヌエルがパンの家で生まれる』?そりゃあいいや!」
ラファエルは困惑しているラミエルに補足説明した。
「預言者イザヤは神によりインマヌエルという男の子の名前を授かったけど、その男の子を生む母親は処女のまま妊娠するという預言も授かっているんだ。知らないのかい?」
「え、えーと・・・・ベリアル様からレクチャーを受けたような受けてないような・・・・受けたけど寝ていたような・・・・」
夜中なのにカラスがカーと鳴いた。
(注79)婚前交渉の禁止 申命記二二章一三節-一五節 もし、人が妻をめとり、彼女のところに入り、彼女をさらい、口実を構え、悪口を言いふらし、「私はこの女をめとって、近づいたが、処女のしるしを見なかった」と言う場合、その女の父と母は、その女の処女のしるしを取り、門のところにいる町の長老たちのもとにそれを持って行きなさい。
(注80) 聖霊(せいれい) 父御子御霊(ちちみこみたま)の三位一体の神。イエスを神と受け入れると天から聖霊が下ってその者に内住し、父なる神に祈り聖書を正しく読めるようになる。
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