第4話 アブラハム、イサク、ヤコブの神
紀元前一八世紀.アブラハム (注32)は神のために祭壇を築いて、全焼のいけにえをささげた。神はノアの信仰を継承したこの男に着目し、アブラハムが九十九歳のときに契約を交わした。
1 アブラハムは多くの国民の父となる。
2 アブラハムの子孫はおびただしく増加し、その子孫から王が生まれる。
3 この契約は世々永遠に続く。
4 それはわたしがアブラハムの子孫の神となるためである。
5 永遠にアブラハムとその子孫にカナン(注33)の地を与える。
6 永遠に男子はみな生まれて八日目に割礼を受け包皮の肉を切り捨てなければならない。これが契約の印である。
この神のアブラハムへの介入が父なる神と御子なる神の天地創造以来の人類救済計画の大きな節目だった。
この約束はアブラハムの子イサク(注34) 、イサクの子ヤコブ (注35)に引き継がれ、神は「アブラハム、イサク、ヤコブの神」と呼ばれるようになった。
アブラハムの甥のロトの子孫がアモン人とモアブ人になり、ヨルダン川の東側に定住し、異教の国となった。
アブラハムの妾の子イシュマエルの子孫はアラブ人となった。
この「アブラハム、イサク、ヤコブの神」はアブラハムやその子や孫から見ると絶対的な唯一神であり御子なる神の存在はまだ明かされていなかった。
アブラハム一族は神の祝福を受け、人数が増え経済的にも繁栄したがまだ「国」と呼ぶには程遠かった。
ヤコブの双子の兄エサウは家督争いに負けたため一族から離れ死海の南に定住し、その子孫はエドム人となり、異教の神を崇拝した。イスラエルの民はアモン人、モアブ人、エドム人、アラブ人などの外敵に囲まれ、平和であることがなかった。
ミカエル達は神の計画の行方を見守った。
「神が動き出したね。」
「御子はまだ出番じゃないのかな?」
「アブラハムの子孫から王が出てその王の統治は世々永遠に続くってすごくね?」
「ああ、ルシファーが攻撃してくるだろうからしっかり見守ろう。」
伏魔殿も神の動きに注目した。
「ニムロデ以来この世は順調に堕落しているが、ようやく神が動き出したな。」
「バビロンもエジプトもインダスも中華も完全にルシファー樣の配下にいる。アブラハムたった一族のこと、心配ないだろう。」
「洪水の後の信仰者の割合は十割だったが今は全世界数億人の中で一族のみだ。極めて順調だ。俺達は頑張っている。」
ルシファーは堕天使たちの慢心にイライラして言った。
「神を甘く見るな。アブラハムの孫世代、ヤコブを潰せ。」
お坊ちゃまであるヤコブは様々な誘惑に負けたが、最終的には神から祝福されイスラエルという名前が与えられた。ヤコブから生まれた男の子十二人はイスラエル十二部族(注36) の始祖となった。
ヤコブは亡くなるとき神から授かったことばを子どもたちに遺言として残した。
「長男ルベンよ、わしはお前がわしのそばめを寝取った過去を忘れない。本当は実力があるのにお前は自由すぎる。お前の分け前は長男だけど人並みだ。」
「シメオンとレビよ、お前らは妹が凌辱を受けた時に制裁を科したが、気持ちはわかるが、その町の男子全員を虐殺するのはやりすぎだ。お前らに相続地はない。」
ヤコブは次にユダへ遺言を語った。
「ユダよ。兄弟たちはお前をたたえ伏し拝み、お前の手は敵を滅ぼす。ユダはライオンの子。
わが子よ。お前は獲物をたいらげ成長する。雄ライオンのように、また雌ライオンのようにうずくまり身を伏せる。誰がお前を起こすことができようか。
王権はお前の子孫を離れず、統治者の杖はその足の間を離れることはない。メシヤが出て、国々の民はメシヤに従う。
お前の子孫はろばを強いぶどうの木につなぎ、その着物をぶどう酒で洗う。お前の子孫は目はぶどう酒より色濃く、その歯はミルクより白い。」
ミカエル達はヤコブの子どもたちへの遺言の中でユダへ遺言に着目し議論した、
「神はヤコブ、別名イスラエルの子どものなかでユダを特別視したような気がする。」
「僕もそう思った!メシヤがユダ族から出る!」
「メシヤって言葉、初めて聞いたぞ。」
「救世主ってことだ。世を救うのだ。」
「神の御子の出番か?」
「まだわからない。もう世は十分に堕落しているように見えるが、神はアブラハム、イサク、ヤコブ、そしてそのこども十二人をたてられた。その中でも『ユダ』の子孫を用いるようだ。アブラハム、イサク、ヤコブの神を信仰する民を神がどのように牧し、民がどのように応答するのか、注視する必要があるね。」
ルシファーたちも伏魔殿でヤコブのユダに対する遺言に着目して雑談に講じた。
「万物を創造した神はようやくアブラハム、イサク、ヤコブの神に祀り上げられたぜ。」
「バビロンのバアル神に対抗してるのかな?ははは!」
「所詮一族のみの神。」
「小さい神だな!アブラハム、イサク、ヤコブの神だってよ!」
ルシファーは会話に入らず考え込んでいた。
(注32)アブラハム(紀元前一八一三-一六三八) メソポタミヤのウル出身でその後ハラン、その後から啓示を受けカナンに移住した。
(注33) カナン この時はパレスチナと同義。その後対象地域はユーフラテス川からエジプトの川にまで拡大する。
(注34)イサク(紀元前一七一三-一五三三) 父アブラハムに屠られそうになったことがあるがアブラハムの信仰を神が認め、屠られずに済んだ。リベカと結婚しヤコブとエサウを授かった。
(注35)ヤコブ(紀元前一六五三-一五〇八) 兄エサウを騙して長子の権利を獲得した。神と格闘して勝ったことがある。ヤコブと本妻ラケルは二人の子ヨセフ偏愛したためヨセフは他の子から恨まれ殺されかけた。ヨセフはユダの提案により辛うじて死なずに済んだが、その後エジプトの高級官僚に売り飛ばされた。
(注36)ヤコブの子どもはルベン、シメオン、レビ、ユダ、イッサカル、ゼブルン、ヨセフ、ベニヤミン、ダン、ナフタリ、ガド、アシェルだが、ヨセフはその子どもエフライムとマナセが始祖となった。レビ族は祭司族になり一二部族から外されたので、始祖はルベン、シメオン、ユダ、イッサカル、ゼブルン、ベニヤミン、ダン、ナフタリ、ガド、アシェル、エフライム、マナセである。
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