第15話 俺は大人の本気を見るかもしれない ⑤
「こっちは、魔法統括局のドラゴン担当。こっちは兵器運用担当の副長。こっちは地方運営担当長。そして刀騎士モンドにその他いろいろ。私が用意できる最高戦力だ。これでドラゴンを討つ」
「え、あ、うん。なんかすごい人たちなのは分かったよ博士。というか、よく呼べたなこんな偉い人たち」
博士と俺たちが到着して数日であれよあれよ言う間に凄そうな面子が集まってしまった。俺と言えばムーノパパこと刀騎士モンドに動き方を軽く教えてもらったくらいだ。ムーノパパ曰く「貴殿は身体能力の平凡さの割に間合いの把握が完璧なのとコツの掴み方が異常だから指導が難しい。失礼を承知で言えば今までの経験からは不釣り合いなほど正確な空間認識があって基本が固まっているのに進まない技術習得のせいで訳がわからない。少し時間が欲しい」とのことだ。
「私が凄いのではないぞ。ニア、君のもたらした情報の価値がそれほどにあるという事だ。確実に現れるドラゴンなどいれば、これくらいのものは集まる。それと下手に注目を集めると君の立場が危うくなるから、私がある筋から予知を聞いたにしてあるが構わないね?」
「ありがとう博士。助かる」
もしかして、俺はこれからこの世界の大人が出す本気という奴を見るのかもしれない。どれほどの事が起きるのか、予想もつかないが、きっと面白い事になる。
「準備はいくらしても足りない、知識も技術も吸収できるだけすると良い。そういう力もあるのだろう」
「博士、気づいてたのか?」
「推測の域を出なかったが今の反応を見て確信したよ。君は初期段階学習能力が異常に高い。その割に段階を上げるのには時間がかかる。学習速度に不釣り合いなほどに。だが、不条理な事にも因果はあるものだ。君の力がいわば入り口に立つ力と考えれば理屈が通る。難儀だが上手く使えばなんでもできるだろう」
「ああ、やるよ。博士や他の人の知識と技術も全部俺のものだ」
「それで良い。若人は先達も成果を受け取って次の地平を切り開くものだ」
技術奪う発言をしたのに許してくれた。初対面のクレイジーさはどこに行ったんだ。
「博士」
「なんだね?」
「博士ってなんで初対面あんな感じだったんだ?」
「ああ、あれか。一つの要因として人の血を入れている間は思考が多少おかしな方向に行きやすい。それと君の値踏みをかねた。君は合格だったわけだ」
「試されていたのか……」
まあ、そういう事にしておこう。
そして数日後から俺は連日熱と頭痛に苛まれる事となった。
「うー、頭いてぇ……」
「大丈夫?」
「そんなに虚弱だったか?」
メイとムーが心配してくれる。おそらくこれは技術や知識の習得にかかる負荷が重すぎてダメージを受けている状態だ。
流石に対ドラゴンとそれに関する最高の技術と知識を詰め込まれれば、スキルツリーの最初限定と言っても膨大なものらしい。
「午後はそうやって寝ているようだが、砲手としての才能があるらしいと聞いたぞ」
「ああ、これがよく当たるんだよムー」
その時だった。目の前に見覚えのあるキューブが出現した。
「3.19、4.46、8.23」
反射的に寸法を答える。
「正解だよー、目は完成かーな?」
ロンが姿を表した瞬間、ムーの手が刀に手をかけた。早すぎて止められない、ムーはロンが敵じゃない事を知らない、まずい。
「あー、刀騎士の息子ちゃん。ワターシは敵じゃない」
「手長足長……!!」
長い手で刀の柄頭を抑えて抜けないようにしているようだ。すごいな、そんな事もできるのか。
「ニア!! 知らないと思うがコイツは危険だ今すぐにでも首を落とした方がいい」
「ムー、ロンは友達だ。そんな事を言わないでくれ」
「とも、だち? 良いかニア、こいつはこれから多くの人間を手にかける。それは凄惨な方法でだ。ここで始末した方が絶対に良い」
「ムーノ、信じられないと思うけど本当だ。今のニアと手長足長は友人だ」
「メイサァ!! 知っているならどうして止めなかった!!」
「……博士をニアに紹介したのは手長足長だ」
「な、それじゃあ。なんだ? 母さんが助かるかもしれなくて剣鬼が現れない可能性があるのはこいつのおかげだって言うのか!?」
「その通りなんだよムーノ、礼を言うことはあっても剣を抜くことなど許されない。手長足長は今や恩人なんだよ。ともすればニアに準ずるほどに。それに今はまだあの時ほど狂っていない」
「……すまない少し時間が欲しい。ただ、非礼は詫びる」
「いーよ、許してあーげる」
ムーノが出て行った。
「それじゃあワターシも本題を、ドラゴンを殺せたらワターシの家に来て欲しい。その時に話したーい事がある」
おっと重大な話だな。
▶︎第十六話 俺は大人の本気を見るかもしれない ⑥に続く
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俺の仲間が2週目っぽいんだけど、もしかして今から俺は死ぬのかもしれない。 @undermine
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