第14話 俺は大人の本気を見るかもしれない④

 ムーノと合流した後博士から呼び出された。何やら面白いものを見せてくれるらしい。


「あれがドラゴリクシル、滅多に見れないものだよ。私の血を使ってここまでのものを精錬できるのはあいつくらいなものだ」


 院長が持っているのは真紅の液体が入った瓶。博士が渡した時よりも遥かに深い赤で薄く輝いているように見える。


「早くヨウに飲ませてやってくれ。俺はそのためにここまで来たんだ」

「言われんでもそうする。お前の嫁を助けるためにこれを作ったんだからな。少し落ち着けモンド、治るものも治らなくなってしまうわ」


 薬がゆっくりと口に運ばれる。少しだけ味が気になってしまうのは日本人のサガかもしれないな。まあ、血から作った薬だから美味しいわけはないか。


「母さんが助かれば良いが……」


 ムーノが不安そうな顔をしている。やはり親の安否は気になるらしい。


「大丈夫だムー、きっとよくなる」

「だと良いな。母さんの死がキッカケで父さんは剣鬼になる。それは防ぎたい」


 度々出てくる剣鬼っていうのは、具体的に言うとどうなるんだ。剣の腕以外を求めない人でなしになるという事か?


「剣鬼か。厄介だったね。何とか倒したけど、2度と戦いたくない相手だよ」


 メイも知っているのか。となると剣鬼の出現は共有イベントらしい。


「視界に入れば届く突き技があったり」

 

 視界に入れば当たる突きってなんだよ。刀伸びてんのか、斬撃は飛ばせるみたいだからそういう事もあるのか?


「ただ1回剣を振っているように見えるのに3回くらい攻撃が重なってたり。見た目以上の強さだった」


 一回の攻撃につき2回のランダムヒット攻撃が追加発生してるのはおかしいだろ。剣が分裂でもしてんのか。


「ん? そっちの剣鬼はそれくらいか。早く倒してくれたみたいだな。自分の時はもっと酷い。攻撃すると自動的に急所目掛けて斬撃が飛んできたり、気配を自然と同一化させて透明化したりと手がつけられなかった」

「どうやって倒したのそれ」

「……妖刀の力を借りた。一時的に自分の力を限界以上に引き出してようやく一太刀を入れた。そこで一瞬正気に戻った剣鬼が自分で首をはねたんだ」


 あー、こっちをチラチラと見てるあたり俺が死んだ妖刀か。


「少なくともここで母が死ななければ剣鬼は出てこない。あんな思いをすることもない」

「残念だが、モンドの息子よ。この薬では病は完治しない。せいぜい余命を1年延ばす程度だ。完治させるためには本物を用意しないといけない」


 話を聞いてたのか院長、いきなり話に入ってきたからのびっくりしたぞ。


「本物、つまりはドラゴンの生き血だ。そこのニア君と言ったね? 君が言った情報が正しければ、そしてドラゴンを打倒できれば、今度こそ助かるというわけだ」


 いや、顔が近いし、圧もすごい。


「期待しているよ?」

「はい、ご期待ください」

「良い胆力だ。この威圧に耐えられるものはそうそう居ないぞ」

 

 何言ってんだ。心臓バクバクだよ。


「坊主、お前が情報提供者だったのか」

 

 今度はムーノパパが近寄って来た。情報提供は俺ではないけど、そういう事にしておこう。細々と話すと混乱させそうだ。


「お前、いや貴殿のおかげで伴侶が助かるかもしれないとこまで来れた。ありがとう」


 深々と頭を下げられた。まだ何もしてないのにこれは居心地が悪いな。


「私はまだ何もしていませんので頭をあげてください。これからも助けてもらうと思いますのでどうかよろしくお願いします」

「ああ、全力を尽くそう」


 この人が剣鬼に? 本当か? こんなにすっきりとした顔をしているのに。


「……父さんのこんな顔初めて見た。追い詰められた顔しか見ていなかったから」


 そうなのか。それは何だか良いことをしたな。


「せがれとも仲良くしてやってください。なりはまだこんなですが、才能はあります。きっと大成させて見せましょう」


 ムーノを売り込まれている。どちらにしろ仲間になってもらう予定だったからありがたい。


「前は一度もそんなこと……」

「号泣!?」


ムーノがボロボロと泣いている。前の記憶と合わせてクリティカルヒットしたのか?


「泣くなムーノ。お前は俺の息子なんだから才能があるのは当たり前だろ? いや、確かに言葉にしたのは初めてだったかもしれねえな」

「そういうのは言わないと、意味がないんだよ……父さん」

「悪かった、許してくれ」


 熱い抱擁、良い場面だ。


「そうだ。せっかくだから剣術を覚えないか? 身のこなしを見る限り素質はありそうだ」


 それは良い提案だ。教えてもらえればできる事が増える。


「ダメだ」


 凍りつくような声音。絶対的な拒否と、覆しがたい決意を感じる。


「ムー、さん?」


 雰囲気が怖くて敬語になってしまった。


「ニアに刃物は2度と触らせない。自分がニアの斬撃を全て引き受ける。だからニアに剣術は要らない」


 何を言っているのかな?


「ニアに、刃物は、渡さない」

「何言ってんだムーノ、訳の分からない事を」

「父さん」

「は、はい」


ムーノパパも気圧されているようだ。有無を言わせぬ迫力がある。


「ニアに斬撃は必要ない、自分が全部引き受ける」

「いや、だから何を」

「父さん、ニアは切腹癖があるんだ。刃物の使い方を教えたら死んでしまう」

「そんなわけ……」

「あるよ。あるんだよ」

「……事実でしょうか?」


 そんな訳ないと言うのは簡単だが、ムーノの目を見るとなんかもうヤバそうなので、そういう事にした方が良い気がする。


「あ、はい。ムーに私の斬撃を全て預けるので大丈夫です。足捌きとか、体捌きとか教えてもらえれば嬉しいです」

「き、貴殿がそう言うのなら」


 露骨に安心した顔するなよムー、というかこれから一生刃物持てないのか?


「ムー、俺はこれから刃のついた武器を使えないという事か」

「使えない、ではなく。使う必要がない。それに、切腹できない鈍器なら認める」

「なるほど」


 本当に刃物だけダメなんだな。まあ、鉄パイプでも武器にはなるし、刃を潰せば刀とかも持てるか。


「何とかなるか」


やってみて、だな。


▶︎第十五話 俺は大人の本気を見るかもしれない⑤に続く


【偽ドラゴリクシル】

半万能薬、これで治るものは無数にあるが治らないものも無数にある。


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