第12話 俺は大人の本気を見るかもしれない②

 でかい蛇が飛んで来た。オオトリよりも大きい、これならきっと俺たちも一緒に丸呑みできる。


「やれるかメイ」

「はは、面白いことを聞くねニアは。私の剣技は全局面対応型何だ。空中だからって使えないものではないよ」

「で、やれるのか」

「……もちろん」


 今の間はなんだ。


「お前の剣、小さいな。それでアレを両断できたりするのか」

「できるよ……いずれは」

「今は?」

「ちょっと難しい、かも」

「よし、博士起こすか」

「待って、少しだけやらせてもらえないかな」

「なんで?」

「ここでそれぐらいできなきゃ、今ここにいる意味もない」


 まっすぐな目だ。信じてみるか。


「一撃だぞ、それでダメそうだったら博士起こすからな」

「分かってる」


 メイが構えを取る。居合に近いような?


「剣閃至りて、空を刈る。刈り揃えるは、首なりや」


 高く澄んだ音が鳴る。それが納刀の音だと気づいたのは目の前で蛇が輪切りになった後だった。


「すごいなメイ!! 何だ今の」

「ふぅ……、斬撃飛ばしだよ。何とか1発は撃てたかな」


 汗だくのメイ。一撃でそうなるほどの技だったわけだ。斬撃を飛ばすだけでも意味が分からないのに、それで自分よりずっと大きいものを斬ったんだ。それぐらいの代償は払うか。


「あ、これ無理だ。ニア、博士を起こして」

「どうしたいきなり」

「見てよあれ」

「あ、無理だわ」


 さっき輪切りにしたのとおんなじのがいーっぱい来てる。


「博士!! 起きろ!! これは無理だ!!」

「んぁ? ああ、大丈夫だ。ここは彼の縄張りだ。私はもう少し暖かくなるまで寝るよ」

「彼の縄張りって何だ!? 誰だ!?」

「くかー……」


 寝やがったこの野郎。


「くそっ、この大人は役に立たねえ!! 俺とメイでなんとか……」

「おい坊主、少し頭下げな」


 いつのまにか1人増えてる。黒髪でボサボサの長髪。30代の男に見える。


 手には、刀? この世界には刀があるのか。


「お前らに恨みはないが、運が悪かったな。俺と同じで」


 頭を引っ込めた瞬間、風が吹いた。それは攻撃の余波。頬を撫でる柔らかな風だ。


「終わったぞ、顔を上げていい」

「……!?」


 さっきまでこちらに飛んで来ていた蛇たちは跡形もなく。ただ体液の香りだけがそれが存在していた事を証明していた。


「凄すぎて、どれくらい凄いか分からない」

「嬉しい事言ってくれるねえ」

「む、言っとくけど私だって成長すればこれくらいできるから」

「はは、嬢ちゃんには期待しとくぜ。俺のせがれもこれくらいやる気があればな」

「ともあれ、助けてもらってありがとうございます。私はニア、こっちはメイサァです」

「良いってことよ。俺もこの鳥に落ちてもらっちゃ困るんでな。なんせ嫁を救う秘薬を運んでるってんだから」

「秘薬、ですか?」


 博士がそんなものを? いや持っててもおかしくはないか。博士だし。


「目的地はもうすぐだ。見えてくるぞ」


 雲を抜けた先。そこには空中に浮かぶ土地があった。島を地面ごと四角く持ち上げたような状態の中心に大きな建物がある。


 ていうか。


「浮いてる……」

「まあ驚くわな、あれが空中治療院フミンだ」


 不眠て、寝食忘れて医者が働いてるのか。


「少しでも清潔なところを目指した結果、空に行き着いたそうだ」

「すごい結論だ……」


 結局人がいれば一緒なんじゃ……とは言うまい。


「あそこが着陸場所だ。ん? 院長がお出迎えとは大歓迎だな」


 確かに誰かいる。あれが院長か、この距離であの大きさということは。2m以上あるようだ。


建物の前に開けた空間があり、そこにオオトリが降り立った。


「よく来たな!!!」


 声でっか!? 耳がキーンとする。


「うるさいぞオキッパ、私は寝起きなんだ。心臓が止まったらどうする」

「ははは!!! 心配はいらない、ここで蘇生してやるとも」


 白衣のようなものに、筋肉でパッツパツの服。スキンヘッド。


 これで医者なのか、世界は広いな。戦士と言われた方がしっくり来る体格だ。


「さあ、無事に連れてきたぞ院長。秘薬の用意をしてもらおうか」

「ああ、そうだったな。ハールフ、言っていた通り小瓶ひとつもらうぞ」

「仕方ない。それで協力が取り付けられるなら安いものだ」


 小瓶一つ、秘薬は液体らしい。ん? 院長が博士に小瓶を投げた?


 博士から院長にではなく?


「これくらいの傷で良いか」


 博士が指先を噛みちぎった。そして瓶の中に血を貯めていく。


「秘薬ってそういう……」

「ドラゴンの血は万能薬に加工できる。その名も龍秘薬、またはドラゴリクシルだ。ハールフの血は半減した効果だが、それでもおおよその病は治る」


 龍の血にそんな効果があるのか、となれば討伐に乗り気なのも頷ける。


 待てよ。これって……博士捕まえて血を抜き続ければ安定供給される薬になるんじゃないか。


「博士って、めちゃくちゃ危うい立場なんじゃ……」

「そうだぞ。だから普段は隠れている。今回は特例中の特例だ。オキッパは腐れ縁だが信用できる、こっちの騎士は裏切れない状況にしてある」


 色々あるんだな……事情が。


「さあ、本題に入ろうと思うが。その前に、汚れを落としてもらおうか。全身から蛇と鳥の匂いがしてかなわん。この中には病人もいるしな」


▶︎第十三話「俺は大人の本気を見るかもしれない③」に続く


【空中治療院フミン】

空に浮かぶ力を持った古代遺跡を病院に改造したもの。離着陸自由で移動も可能。上空に居る事が多いのはあらゆる干渉を嫌う院長の性格もある。


かつての栄華はつゆと消え、かつての姿すら失っても、遺されるものは確かにある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る