第11話 俺は大人の本気を見るかもしれない

 1年間、それは子供時代において膨大な時間だ。学生時代の1年と、その後の1年間では大きく違う。


 振り返ってみればあっという間だったとか、濃い時間だったとか。色々あると思うが。


 少なくとも、俺にとってこの1年間は果てしなく長いものだったと言える。


 そもそも始まりからしてトラブル続きだった。


「ニアが、1年? 目の届かない場所に行く?」


 そもそもメイが最初の壁だ。俺が1年くらい博士についていくと聞いた瞬間に目の光を失った。


「ダメだよ。そんなことをしたらニアはまた繰り返すから。ならいっそ……」


 死んだ目で剣を抜いた。めっちゃ怖い。なんかアキレス腱を凝視してくる。もしかして、腱を切って監禁でもしようとしてるのか?


「ん? 君がニア君の仲間だね。是非とも君も来てくれ。聞きたい事が山ほどあるんだ。どうしても嫌と言うなら……」

「行きますっ!!」


 瞬殺される壁で本当に良かったと思う。ちなみに両親は博士がすごい言いくるめて頷かせた。


「えー? はー君が連れていくの? それは良い経験になるだーろうね。良いと思うーよ。竜を殺すなら準備は何でもした方が良いかーらね。でも定期的に試験はやるかーら。箱を持っていくよーにね」

「分かってる。きっと完璧にする」

「ふふー、期待してーるよ」


 ロンはまあこんな感じだった。


「ふふふ、やる事は山積みだ。まずは古い知り合いから行こうか」


 そう言って博士が笛を吹いたら。なんかでかいものがバッサバッサと飛んで来た。


「コケー!!」

「でかいニワトリ……」

「ん? オオトリを見るのは初めてか。良い生き物だぞこれは」


 黒くて尾羽の長い姿は綺麗だと感じた。ニワトリなんて食うものでしかなかったからな。改めて見るとかっこいいかも。


「賢く、忠実で、そして美味い」

「食えるのか……」

「もちろん食べられるとも。多少肉は硬いが」

「ニア、私も食べたことあるけど。焼いて甘辛いタレをかけたのが絶品だった」


 焼き鳥だよもうそれは。


「乗りたまえよ、少し遠出になる。上空は寒いから防寒もしっかりとするんだ」


 第一印象すごかったけど、博士って面倒見が良いのかもな。


「私は寒くなると寝てしまうから、あとは頼んだぞ」

「……そんなに上空を飛ばなければ良いんじゃないか博士」

「さっきも言った通りオオトリは美味い。つまり、捕食者からとんでもない頻度で狙われる。ゆえの高高度飛行能力だ。それが低空飛行なんてしたら数分で囲まれるぞ」


 前言撤回、とんでもない乗り物だこれは。


「君たちはただの子供ではないだろう。護衛は任せたよ」

「任せたって、どうにもならない時は起こすぞ博士」

「まあ、大丈夫だろう」


 そして上空。


 小型の蛇に翼が生えたような奴らに襲われていた。


「ああもう、うっとうしい!! 何だこの飛んでる蛇は!!」

「これはオオトリクイトビヘビだよニア」

「長い!! 名前までうっとうしい!!」


 そう言いながら、魔法の矢で蛇を撃ち落とす。とにかく数が多い。オオトリにはまだ食いついたりしていないが、この数に食いつかれたら厳しいだろう。


「すごいね、今まで全部当ててる」

「魔法の矢は必中だろ?」


 じゃなきゃ全部当たるわけない。俺のやってたゲームでもこの手の攻撃が必中だった。


「そんなわけないよ、あくまで魔法で飛ばしているだけで普通の飛び道具と一緒だよ。ある程度追尾はさせられるけど」

「じゃあなんで俺の矢は全部当たるんだよ」

「知らないよ。だからすごいなあって言ったんだし」


 どういうことだ。本来必中ではない攻撃の精度が極端に上がっている。別に特別な事はしていない、ただ狙って撃っている。なのにあんな小さな蛇の頭を苦もなく撃ち抜ける。


「あ、そうか」


 空間把握能力が高ければ高いほど飛び道具の精度は上がるだろう。ならば、今までひたすらに空間の認識訓練をしてきた俺はかなりの狙撃手という事になる、のか?


「もっといけそうだ」


 分かればあとはやるのみ。


 魔法の矢を連写、いや、もうマルチロック一斉発射で良い。複数発一気にやればそれだけ殲滅は早い。 周りの蛇全部の頭を撃ち抜いてやる。


「いくぞ、フルバースト!!」

「あ、ニアその数は……!?」


 数にして約100発を一斉に撃ち出す。そして一気に身体から力が抜けて強烈な頭痛が襲ってきた。


「あ、たま、痛い」

「当たり前でしょ!!? ニアの魔力はそんなにないんだから。あんなに一気に出したらそうなるに決まってる」

「そう、か。そう、だよな。すまん、調子に乗った……それで、全部当たったか?」

「うーん、残念。1匹残してる」


 メイの攻撃が飛び、最後の1匹を撃ち落とした。まだ甘いか、というか俺のキャパシティでは100個のマルチロックは無理なようだ。どこからが限界かを見極めないとな。


「でもかっこよかったよ、ニア」

「それは良かった……」

「じゃあここからは、私の役目だ。オオトリクイトビベビは成体になるとオオトリを丸呑みする。今までは幼体だったけど、親が来たみたいだ」


 マジかよ……


▶︎ 第十二話「俺は大人の本気を見るかもしれない②」に続く


【大鳥食い飛び蛇】

大鳥を食うためだけに飛行能力を獲得し、大鳥以外の食事をしない偏食家。

好物を食うという一念だけで空を飛んで情熱的に食らいつく、捕食者の愛はいつだって一方的だ。


BGM【空を行く】

青空を思わせる澄んだ音色が伸び伸びと響く、しかし戦闘時には嵐を彷彿とさせる激しさが現れる。

空は自由だ、食うも食われるも、生きるも死ぬも、全てが許容される。自由とは、そういうものだ。

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