第6話 俺は強くなれないかもしれない

「大丈夫かメイ」

「うん……なんでこんなところにあいつが来たんだ」


 知っているみたいだな。きっと前回の時に接触があった相手だ。


「あいつは何なんだ?」

「手長足長は通り名、名前はロンフ・ロンハ。知っているところどこでも移動ができて、知っているもの全てに手が届く力を持っている」

「……厄介そうだな」

「厄介なんてものじゃない。予測不可能な攻撃がいつ来るか分からない。狙われたと知った人間はほとんどが自殺したほどの殺戮者だった。随分と苦労させられたよ」

「確かにおかしな感じだったな」

「いや、私が見た奴は少なくとも会話が成立する相手じゃなかった。今はずいぶん大人しい」

「そうなのか。参考までに聞くが、大人しくない奴をどうやって倒したんだ」

「あいつは一定の周期で同じ場所に戻っていた。そこで何かに祈りを捧げていたんだ。そこを狙って、逃げられる前に一撃で上半身を消し飛ばした」

「うわー、えげつないな」

「死んだことすら悟られずにやる必要があった。それほどの強敵だったんだ」


 そうなる要因があったとすれば、それは恐らくさっきの母親が死んだとかか? 憑依とか言ってたな。本体は動けないのか?


「ああいうのって結構いるのか」

「……知りたい? これから先を悲観して投げ出したくならないなら教えるけど」

「あー、うん。まあ、適宜教えてください」

「それが良いと思う」


 いっぱい居るんだろうなあ…… 


※※※

高次元にて


「うわー、あれの縄張りって今はあの辺だったっけ」

「あれの異能を設定したのしこたま酒を飲んだ後だったな。どーすんだあんな奴ってなった時にはもう定着した後だから寿命で死ぬしかないなってなってた奴だ」

「倒した時は感動したな、あれ倒せるんだって」

「2度とあんなの入れんなよ。あの時だって一撃で倒すためにかなりの無理をしてただろ」

「バーサーク使ったのあの時だっけ」

「そうだな」

「まだそこまで仕上がってない時だから、今から関わってれば何とかなるかもね」

「いや、厳しいだろ。そんな事ができるならそいつが世界の運営やった方が良いレベル」

「……それもそっか、最初から欠けた器を満たす方法は存在しないもんね」

「まあ無理やりつないでしまう方法もないわけじゃないが、そこまでいけないだろうしな」

「あーあ、もう一回くらいきっかけがあればなあ」


※※※


手長足長との遭遇以外は特に何もなく戻ってこられた。これからは、先を見据えて訓練を積んでいかなきゃならないだろう。


「じゃあ今日はこれで、ゆっくり休んでねニア」

「ああ、お前もなメイ」


何はともあれ帰ってこられた事を喜ぼう。5体満足、怪我もまあ、許容内だ。精神的にはかなり疲れたけど。


「ただいま」

「お、来たネー? 久しぶりー、さっきぶりかなー」


 なんでいるんだ、手長足長。


「どちら様でしょうか」

「やー、他人行儀は良くないよー? ワターシと君との仲じゃないか友よー」

「お友達になった覚えがとんとありませんで、お帰り願えないでしょうか」

「アハーハー、待ちなよ。さっきとは少し事情が違ってネー。ワターシは本気で君と友好関係を築きたーいと思っているんだ」

「事情が違った、とは?」

「さっきは君の事を実験動物にする気マンマンだったけど、よく考えたら君くらいしかワターシとまともに会話する気がある人間はいない事に気がついーたのさ。そんな面白い相手と敵対するのは損だーよ。おもちゃを壊したのを補って余りあーるよね」


 え? なに? 本当に友達になりに来たの? 本気かこいつ? いや、本気100%なんだろうけど。


 友達に、なっといた方が良いのか? というか居場所がバレている以上、こいつに悪感情を抱かせるのは危険すぎる。


 朝起きたら死体になっている可能性が常にあるのは流石に狂う。


 あ、そうか。実質選択肢ないのか。


 俺はこれからこいつと死ぬまでお友達やらんといけないのか。


 腹括るか……


「そうか、そういう事なら。俺はお前の友になろう」

「……え? 信じたの?」


 はっ倒してやろうかコイツ。一撃なら入れられるかもしれない。


「嘘、なのか」

「い、いやいやいーや!? 本当だーとも、ワターシの友達になれて光栄だねー!?」


 ん? 嘘っていう言葉に反応したのか。嘘をつく事に抵抗がある? 結構な人格破綻者だと思ってたのに。何かの線引きはあるのか。


「じゃあはい」

「なーにこの手」

「握手だよ、これから友達になるんだからそれくらいしても良いだろ」

「知らないようだーから言うけど、ワターシの手を取るということはかなりの命知らずがやることなのだーよ。いつでも君の命に手が届くのだーから」

「俺に危害を加えるのか? 友達なのに?」

「え、いや、だーから、危なーいよ? かなーり」

「危なくないだろ。敵でもないんだから」

「え? そうなーのか? ええ? そうなの?」

「いや知らんが。ともかく握手だ、友好の証だろ」

「ええ? あ、うん」


 手を握る。別に普通の手だ。特に何か痛いとかそういう事もない。


「ワターシの手を取る人間なんて、ママン以外にいなーいと思ってた」

「なんだそりゃ、手を握るくらい誰でも」

「そうじゃない、そうじゃなーいんだ。あったかいんだ、手って」

「まあ、そういうわけでこれからよろしくと言いたいところだけど。明日からで良いか? 今日はちょっと疲れててな」

「それで良ーいよ……。ワターシもちょっと考えたいこーとがあるから」

 

 あ、いなくなった。ん? ちょっと待てよ、これからあいつの相手をするとしたら修行の時間とか消し飛ぶんじゃ……


「いや良いや、明日の事は明日考えれば」


▶︎第七話 俺は友達の選択を間違えたのかもしれないに続く


神のメモ書き


【握手】

友好を示す手段。なんの事はないコミュニケーションの1つ。得る事ができない者にとっては、おとぎ話と変わらないもの。

誰かの手の温もりと握る強さ、人外の如きものはそんなことすら知らなかった。


お願い)

良かったら、評価とか、もらえると、更新が早まるかもしれないです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る