第7話 俺は友達の選択を間違えたのかもしれない

「というわけで友達になった手長足長お兄さんです」

「よろしーく。ワターシの事はロンとでも呼んでほしーな」

「ニア、ちょっとこっち来て」

「え、ちょ、力強くない!?」


 メイに引き摺られて物陰に連れ込まれた。


「なんだいきなり」

「こっちのセリフなんだけど!? なんで、昨日の今日で友達になってんの!? あれはとっても危険な相手だって言ったよね!!!」

「だって友達になりたいって言われたから」

「だってじゃないよ!? あんなの近くに居たら気が気がじゃな……ん? あれ? むしろ見えてた方が安心のような……?」

「気づいたか。近くに居た方がロンはむしろ安全だ。というかそもそも自宅が割れてたから選択肢もなかった」

「そう、か。そうだったんだ。ごめんね、気づいてあげられなくて。ほ、ほん、とうに、ごめんよ……ニア…… 私が早くに気づいてあげられたら……あんな事には……ぐすっ」


 あ、地雷踏んだ。


「泣くな泣くな、今は居るだろ」

「生きてて……ぐれでありがどう……」

「いや、いきなり生存を喜ぶな。反応に困るわ」

「うう……ぎゅってして」

「え? 今ここで?」

「今ここですぐに」


 まあ、良いか。地雷を踏んだのは俺だしな。


「これで良いか」

「うん。あったかい、心臓も動いてる」

「そりゃそうだろ、生きてんだから」

「もう止めさせないから」

「おう、頼むわ」


 落ち着いたか。


「ワターシを置いて何をしていーるのかな? あらま、お邪魔だったかなー?」

「いや大丈夫だ。ちょっとロンの事をな」

「ワターシの事を? どんな話?」

「これから何して遊ぼうかなって、正直普通の遊びだと勝ち目がないからな」

「ふふーふ、ワターシを舐めてもらっちゃー困るよ。追いかけっこでもかくれんぼでもお人形遊びでも完全にやってみせーるよ。それに、遊びに力は使わないさ。無粋だーろう?」


 あ、そういうので良いんだ。もしかしたら見た目よりもずっと幼いのかもしれない。の割には無粋を理解しているのか、かなりチグハグな育ち方をしたような感じだ。


「そういえばロンの力? ってのはなんとなくしか知らないけど、好きに移動できるのと好きに触れられるってので良いのか」

「厳密にはちがーうね。ワターシが移動できるのはワターシに見えている範囲、だからあっちこっちに視界を共有する虫を撒いていーるんだ。触れる範囲も同様だから、内部を透視できるように目に細工をしていーるよ。だからやろうとを思えーば、金庫の中から物を取り出したりできるのーさ」


 やばい能力すぎて、もう笑うしかないな。悪い事大概できそうだ。いや、待てよ、もしかして。


「どういう風にするのか見せてくれるか。前は訳がわからないうちに来てたからな」

「良いーよ。ほら」


 瞬きのうちに、ロンは2mほど横に移動していた。体勢はそのまま、まさにワープ。予備動作も要らないとか意味が分からない。


「触る方はどうなるんだ」

「こうすーるよ」


 右手に感触がある。


「うわ、手だけある」

「いつもは先に触れてから移動するんだーよ。昨日は首を掴んでから移動したから避けようもなかったって訳だーね」

「なるほどな」


 さて、これで俺はこの能力を習得するスタートラインに立てたのか? 一応説明とかは受けてみたけど。


 能力の範疇を超えてれば、できないが。肉体的特徴によらないものならあるいは。


「あ、あー、そういう感じか」

「どうしたのニア」

「うん。分かった、これかなり繊細な能力だ」

「なんのこと?」


 今分かった。この能力の入り口は空間把握能力だ。周囲の物体がどういう位置関係にあってどんな形状をしているかがおそらく誤差数センチで分かる。


 なるほど、最低限この感覚がないと入り口にすら立てないとは恐れ入った。


「ちなみに、移動した先に何かあったらどうなるんだ?」

「うーん、一度もないからはっきりとは分からなーいけど。たぶん合体して死ぬと思うーよ」

「やっぱりか、怖くないのか? そんな力を使うのは」

「怖いよ。だから前もって視界を用意するんだ。じゃないととても使えなーいさ」

「それはそうだろうな……なるほど」


 この力を獲得するにはどうしたら良いか検討もつかない。入り口に立ったあとにどうすれば良いかを教えてはもらえないらしい。


「一旦諦めるか」

「ニア、もしかしてやろうとしたの」

「まあな、でもしばらく無理そうだ。どう鍛えたら良いかまるで分からない」

「やる? なにーを?」

「ロンの力を真似できないか試してみたんだ。結果、周りの様子がよく分かるだけでそこから先はどうしたら良いかさっぱりだ。ロンも教え方なんて分からないだろう?」

「たぶんできるーよ?」

「ほらできないって……できるの?」

「まあ、感覚によるとーころが大きいけど。その感覚があるならなんとーか」

「ぜひ教えてください師匠」

「ふふーふ、教えは厳しいぞ」

「なんでもやります!!」

「じゃあ早速。これの大きさを言ってみーて。動かずにその場でね」


 ロンが取り出したのは四角い箱。木製か?ギリギリ各所が見える角度だ。


「縦5cm、横6cm、奥行き5cmだ」

「うん。良いね、最低限の感覚はあるーね。でもまだまだ足りなーいよ。正確には5.25、6.16、4.96だから。0.01でもずれると死にかねないからこれが正解できるまでは先に進めなーいね」

「マジか……」


 もしや、超スパルタ修行に自分から首を突っ込んだか?


 人選ミスったかも。


▶︎ 第八話 俺は次の悲劇を食い止めるかもしれないに続く


神のメモ書き


【空間把握能力】

空間移動に必須な能力、ワープ時に壁の中に突っ込まないために必要。

空を知り、己を知り、相手を知り、勝ちを拾う。すなわち常勝の兵法なり。


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