第8話俺は次の悲劇を食い止めるかもしれない

「今日はここまーでにしようか」

「目が、頭が、痛え……」


 なんだこの痛み、神経を酷使するとこんなに痛いのか。知らなかったし、知りたくもなかった。


「じゃあこれあげるから、訓練しとくといーよ」

「さっきまで使ってた箱?」

「これねワターシが作った特別な箱。一定周期で形と大きさが変わーるからそれを一目で把握して」

「便利な箱だ。まるでこの訓練用に用意したような」

「そうだよ?」

「さっきの一瞬でそれを作ったのか」

「そう、ワターシの専門は錬金術だかーらね。形状変化なんて初歩だーよ」

「錬金術師だったのか……!?」

「ワターシの事なんだと思ってたーの」

「いや、なんとうか、野良のすごい人としか」

 

 普通に暗殺者の類だと思ってた。メイからもそんな感じで聞いてたし。


「これからその認識がガラリと変わっていくのが楽しみだーね。じゃあまた」


 そう言ってロンは姿を消した。


「ニア、大変だったね」

「まあな、とはいえこれはかなり有用だ。早めに身につけた方がいいな」


 なんだ? メイがもじもじしている。何か言いにくい事でもあるのか


「どうした? 言いたいことでもありそうな感じだな」

「怒らないで聞いてね。その……これから1年後に下級の竜がここを襲うんだ。前は森が全焼した関係から中央の騎士団が来てたから倒してくれたんだけど。森が無事だから彼らは来ない。ここに戦える人はほぼ居ないから、私達で倒さないといけない」

「……マジで?」

「マジで」

「ま、まあ、ロンもいるしなんとかなるだろ」

「たぶん、あいつが倒してくれる事はないと思う。前回で暴れ回っている時も竜の縄張りだけには居なかった。何か理由があるのか、それとも勝てないのかは分からないけど」

「マズくね?」

「マズいね」


 まあ待て、竜とはいえ下級だ。もしかしたらそんなに大した事がないかもしれない。そうだそうだ、そうに違いない。


「下級の竜ってどれくらい強いんだ?」

「今の時点で最強の騎士が死にかけるくらい」

「どこが下級なんだよそれは」

「え? 中級の竜は災害と同じだし、上級の竜は別の次元に住んでいるからほぼ関わらない神様的な存在だよ」


 そりゃ比較的下級だよ。人に倒せるくらいだもんな。


「で、それをどうやって倒すってんだ」

「めっちゃ頑張って強くなって斬り殺す」

「それを無計画って言うんだよ」

「じゃあニアならどうするの。逆転と大物喰いはニアの得意技でしょ」

「知らんがな、弱点とかないのか」

「弱点? ないよ竜だもん」

「そうなったら無理だろうが」

「一応低温になると動きが鈍るのと、逆鱗を壊されると死ぬってのがあるけど」

「それだよ!! それを狙うんだ」

「でも、竜の体内には常に炎を吐けるだけの熱があるし、逆鱗の場所は個体によって違うし、そもそも竜の鱗を壊せるのは限られた手段だけだよ」

「その限られた手段はなんだ?」

「竜殺しの金属を使って武器を作るか、そもそも竜の鱗を超える腕力で殴るか」

「腕力は無理そうだから金属だな。それで剣を作ればいけるんじゃないか」

「その金属がどこにあるか知らないでしょ? ここからもっとずーと遠くの死火山からしか取れないんだから。それにその金属も硬すぎて並の鍛治じゃ扱えない。達人を探すにも伝手もお金もない」

「つまりネックになるのは移動手段と加工手段か」

「そういうこと」

「ん? 移動手段と金属加工? それロンに頼めば1発じゃね?」

「……まさかそんな」


 うつむいてから3拍置いて、メイが顔を上げた。


「いや、そうだね。移動も加工もできる。あとは……」

「俺たちの強化だな」

「そこが問題なんだ。竜殺しの剣は信じられないくらい重いし、何より逆鱗を狙う技量も必要になる。この身体でそれをするのは正直現実的じゃない」

「地道に鍛えてちゃ間に合わないと」

「だから死ぬほど鍛えないといけない」 


 死ぬほど鍛えてもかなり無理筋だ。なんかこう上手い具合にズルができないものか。


「ちょっと考えさせてくれ」

「一年後だからね。考える時間はあるよ」


※※※


高次元にて


「ドラゴン襲来イベントじゃん!」

「そうだな。前回は最強騎士ランスロットが何とかしたが……」

「今回は来ないね、どうすんだろうね」

「どうするってそりゃ、なんとかするしかないだろう」

「なんとかなるかなあ、あれってほら明確な上位種だから、小細工とかでどうこうするような相手じゃないもん」

「じゃあ大仕掛けでどうにかするんだろ。どうしたお前、今回は焦ってるみたいだが」

「実は、今回のドラゴンって特別製でイベント仕様なんだよね」

「イベント仕様って何だよ」

「知能が高くて、一定以下の対策を全部看破するんだよね。そもそもランスロットが倒すことを想定した奴だから普通のだとあっさり過ぎて嫌だなーみたいな」

「お前……最強騎士がやけに苦戦するなと思ってたら」

「だってだってランスロットが怪我しないと、あいつに何とかされる場面が多過ぎて何だかなーってなっちゃったんだもん!!!」

「だもんじゃねーよ。じゃあ何、詰んでるのかこれ」

「限りなく詰みに近いと思う」

「……まあ、見てるしかねーから。そん時はそん時だ」

「うーわー、ドラゴンの仕様を決定した時の自分を殴りたい」

「やろうと思えばできるだろうが」

「え? 痛いからヤダ」

「そういうとこだぞ……」


▶︎第九話俺は竜殺しになれるかもしれないに続く


神のメモ帳


【竜】

頂点の一角。戦うことが間違いの敵。

勇ましきものよ、撤退こそが最も勇気ある選択と知れ。絶望を前に逃げる事を恥じる必要はない。


BGM【竜の先触れ】

重低音が響き、脅威の訪れを知らせる曲。不安を煽ると共に力強さを感じさせる。

竜の訪れはすなわち滅びを意味している。滅びを前にできる事はただ一つ。祈りのみ。


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