第9話 俺は竜殺しになれるかもしれない
「俺は一晩考えました」
「何か思いついた?」
「なーんも」
「まあ、そうだよね」
頭の中でドラゴンの想像だけがどんどん大きくなるだけだった。そんなんじゃあ何も考えつきやしない。
だから。
「ちょっとドラゴンの事勉強しようと思う」
「勉強?」
「そうだ。どんな生き物でどんな風に生きているのか分かればある程度対策も取れる」
「ドラゴンの事に詳しい人なんて私も知らないけど。心当たりはあるの?」
「それを知っていそうな奴に心当たりがある」
「それって……」
「ロンやーい、お願いがあるんだけ良いか?」
あいつの性格ならきっと俺たちは四六時中監視されているはずだ。音まで拾っているかは分からないが。
「何か用なーの? 一応言っておくけどドラゴンはワターシでも倒せないからーね」
ほら来た。つーことは音まで拾って監視してやがるな。
「いや、ドラゴンは俺たちで倒す。とにかく情報が足りないんだ。詳しい奴を知らないか」
「ドラゴン研究は結構前に頭打ちになっててーね。それでも続けている有識者となるーとかなり癖のある人になるーよ」
「それでも良い。話を聞きたい」
「……じゃあこれーは?」
ロンの手には箱。
「3.19、4.55、5.11」
「惜しい。5.11じゃなーくて、5.13だーよ」
「あー、くそ。今回はぴったりだと思ったのに」
「うん。少なくとも学ぶ姿勢はあるよーだね? じゃあ大丈夫かーな、紹介してあげるーよ。多少変態だけど我慢してーね」
「この際変態でも構わない」
1時間後、連れてきてもらった研究室らしき場所で俺はこの発言を後悔する。
「はぁ、はぁ、ねえ、君は竜好きなの? 好きだから来たんだよねえ。何か言いなよ、黙ってちゃあ分からないだろう。ロンちゃんからの紹介なんて天地がひっくり返ってもないと思ってたから君の事が知りたいなぁ」
「わ、私はニアといいます」
目の前の変態は。全身をおそらく竜の皮をなめしたもので覆って、血生臭い飲み物を片手に、おそらく自分で頭に埋め込んだであろう角をいじりながら至近距離で話しかけてくる。
「ニア、ニアかあ。ニーアライ種っていう種類の竜がいてね、一度しか見つかってないけどね。で? 何が聞きたくてきたの? 言ってごらんよ」
「竜を殺したいんです。そのために竜を知りたいと思って此処に来ました。竜の事全部教えてください」
「竜を、殺す?」
さあ、まずこれでキレられたら終わりだ。だが、いつまでも隠せるものでもない。
「は、はははははは!!! 良いね、殺したら私に死体を提供してくれ。損はさせないよ。いやしかし、竜を殺すか。そんな事聞いたのは本当に久しぶりだ」
怒っては、いないか。
「だが、竜を殺す。その意味を本当に分かっているのかな君は」
何だ、いきなり冷め切った空気を纏うな。さっきまでとの温度差がひどい。
「竜は美しく、そして強い。それはもう想像を遥かに超えた強さだ。邪魔だからって君は山を一つ崩そうと思うかい? 向こうに行きたいからって海を割ろうと思うかい? 君が言っているのはそれの類似語だよ」
「人間は時として山を崩し、海を割ります。それがどれだけ困難でも」
「なるほど、君は自殺志願者というわけだ」
「死ぬ気はありません。ですが、命を惜しんで勝てる相手だとも思っていません」
「ちっぽけな人間1人の命が竜のそれと同じだとでも?」
「同じではありません。私はこれから竜を倒す人間ですから」
「……良いね。傲慢だ、そして自信過剰。自分が明日も生きていることに疑いを持っていない。君は見た目通りの人間じゃないようだ。君の正体は何だ? それによって返答しようじゃないか」
「信じられないかもしれませんが、私には」
「前の人生の記憶がある、しかもこの世界じゃないだろう」
「……どうしてそう思うのですか」
「そりゃあ君、気味が悪いからだよ。その歳でそんな思考はできない。しかもその考えはおよそ常識では考えられないものだ。であれば、操られているか、そもそも身体の乗り手が別かだ。ロンちゃんが操り人形を連れては来ない。つまりは、君の中身が異常というわけさ」
この人の事を少し舐めていたかもしれない。ただの変態ではないらしい。
「正解かな?」
「お見事です」
「うん。私の頭も捨てたものではないらしい。では改めてニア君。私の事も教えよう。私の名は■■■だ」
何だ? 擦れるような音がしたが、名前、なのか?
「聞き取れないか。仕方ない、人間風の言い方をすればハールフだ」
「ハールフ……さん」
「呼び捨てで良いさ。君とは対等でいたいからね」
しかし、さっきの言葉が引っかかる。人間風?
「気づいたかね? そろそろ血を入れて誤魔化すのも疲れてきた。見せようじゃないか私の本性を」
▶︎第十話 「俺は竜殺しになれるかもしれない②」に続く
神のメモ帳
BGM【マッドなサイエンティスト】
電子音を多数使用した騒がしさと、一転して氷のような一音のみになる緩急をつけた曲。
狂った科学者は理解者を求めない、同じ狂気は存在しないのだから。
お願い)
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