第5話 俺は修行を始めないといけないかもしれない

高次元にて


「あははははは!!! 何あれ見た? あんなことできるようにした覚えはないんだけどなあ、面白すぎるよ!」

「微妙に笑い事じゃない事が起こってるんだけどな。あれは正規の挙動じゃない、寄生されたので指令先を逆探知するなんて芸当は人間にはできない」

「え? バグって事?」

「いや正規の挙動ではない、だが狂った訳でもない。例えるなら、縦に使うボードゲームを横にして使っているような、そんな感じだ」

「変な使い方したって事?」

「まあ、雑に言えば」

「面白くなってきたね!!」

「頭痛がしてきたよ……」


※※※


帰り道こそが最も危険である。なんて言ったのは誰か、そんな事はわからないが。確かにその通りだ。


現実味がなさすぎて、そんなことばかりが頭によぎる。


「逃げて……ニア、こいつには勝てない……」

「あーら、そんな事なーいと思うよ」


 突然現れ、メイの首を掴んで持ち上げた長身長髪の男。あまりにも長い手足はナナフシを思わせ、縦縞の入った白い服が不気味さを増幅させている。


「ワターシのおもちゃを壊したんだから、もっと楽しませて欲しーいね」


 おもちゃを壊した? 森の王の事か。


「お前はなんだ、何者だ」

「ンー? 礼儀のなっていない子供だねー。名乗るのならば自分から、だろー?」


 いきなり人の首を掴む奴に礼儀を説かれるとは思わなかった。


「……ニア、俺はニアだ」

「へー、ニアくんって言うんだ。ワターシは手長足長お兄さんだよ」


 まともに名乗る気がないのか、それとも本当にその通り名なのか判断できないな。


「手長足長お兄さん、俺の仲間を放してほしい」

「ふふ、素直だね。素直な子供は嫌いじゃないけど、これは足し引きの話でねー。君たちはワターシの物を壊した。なら君たちも相応の物を失わなければいけないだろうー? そうじゃないと釣り合いがとれなーい」


 思ったよりちゃんと話ができそうな相手だ。論理も破綻していない、落とし所を探れるかもしれないな。


「なるほど。ではまず、謝罪を。襲われたとはいえあなたの物を殺したのは事実。すまなかった」


 頭を下げる。さあ、どんな反応をするか。


「ぷ、ぷぷっ。謝るんだー? 君は非を認めるのだねー?」

「殺した事は事実だ」

「へー、面白いねー? どう考えても理不尽だと思わない? 殺されそうになったら殴り返すのが当然だし、今みたいに仲間が危なくなったら怒るでしょー? なんでそんな風に話せるのー?」

「今理不尽な状況にある事、殴り返さざるを得ない状況だったことを踏まえてもあなたに損害が発生した事は揺るがない。その損害に対して俺は謝罪以外を返す術がない。にも関わらず俺はあなたに更なる損をするよう今からお願いする。下手に出るのは当然」

「お願いねー? いーよー聞くよー、なーにー?」

「ここは見逃してほしい」

「うーん、減点だなー。そんなつまらないお願いは聞けないかも」

「今、俺たち殺す事は簡単だ。それくらいの力の差は感じている。だが、ここで俺たちを殺さないなら、必ず面白いことになる」

「ぜったいー? 絶対に面白いのー?」

「面白い。今まで見たことのないものが見られる」

「ほんとかなー? なんでそんな事が言えるのかなー? その保証はあるのかなー?」

「ある」

「へー、じゃあ教えて」

「俺にはこの世界とは違う世界の記憶があり、そこのメイには違う人生の記憶がある。おそらく世界に2人だけだ。そしてこれから先に同じ境遇の人間が出てくる事は恐らくない」


 こいつの面白さがどこにあるのかは正直分からない。希少性と奇抜さで気を引ければなんとかなるか。


「ぷ、ぷぷ、ぷぷぷ、や、もう無理。アハハハハハハハハハハハハ!!!! すごい、すごいよニアくん。今まで色んな物をおもちゃにして来たけど君は1番だ。最高におかしくて、最高に気味が悪い!! 君さあ、ワターシの弟子になりなよ。そうしたらこの子も助けてあげるよー」

「ダメだニア!! こいつは、ぐぅ……!?」

「だーめだめだめだめ、今は黙っててねー? で、どうするう? ちなみにワターシの弟子っていうのは実験体と同じ意味だよ」


 ここで時間を作るには、頷くしかないか。


「わか「コラァ!!! また勝手して!」


 え、誰? なんかガッシャガッシャ音を立てながら金色の全身鎧が走って来た。


「まーた人様に迷惑かけてからに!!」

「良いところだったんだけどー、ママン邪魔しないで」

「やかましいわ!! ちょっと黙ってなさい。ほら、その子も降ろす!」

「はい……」

「すみませんね。ウチのボンクラ息子が」

「えっと、お母様なんでしょうか?」

「ええ、今はこの鎧に憑依していますが。この図体ばっかり大きくなった子の母でございます」


 理解が追いつかない、何をどうしたら良いんだこれ。


「お騒がせしました、よかったらこれ食べてくださいね」

「あ、はい」


 かごに入ったクッキー、本当に食べても大丈夫なものか……?


「ほらもう帰るよ!! ぼさっとしない!」

「ママン、一言だけ良い?」

「もうっ!! ごめんなさいね、聞いてもらえるかしら」

「ど、どうぞ」

「ニアくん、またねー」


 そう最後に残して嵐のような親子は消えた。


「はぁ……疲れた。なんだあれ、ああいうのを黙らせるには力が足りない。強くなりたいな」


▶︎第六話 俺は強くなれないかもしれないに続く


神のメモ書き

【手長足長】

彼の知るところ全てに彼はあり、彼の望むもの全てに手が届く。

手の長きゆえに終えられず、足の長きゆえに疲れ果てた。巡礼者に福音は届かない、耳はとうに腐り果てていた。


BGM【長きものは長きゆえに】

一つの音を長く伸ばしてながら重なっていく旋律。不気味さを全面に出しながら、時折讃美歌のような雰囲気を纏う。

遥かなる巡礼、何も得られずとも、旅路だけは本物だった。


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