第4話 俺は森の王になるかもしれない
「メイ、やれるか!!」
「もちろん」
メイから放たれた火は森の王に直撃した。溶けるように焼けていく姿は気持ち悪い。
「……終わり?」
「まあ、森の王と言ってもキノコだし」
「そういうものか」
「そうだよ、これで解決」
「本当に夕飯までに帰れそうだ」
「そう言ったよ」
拍子抜け、そう言うのが相応しい結末だ。ここまで来る方がよっぽど冒険だった。
「ここのキノコどうすんだ? ほっといたらまた森の王になるんじゃないか」
「核が焼ければあとは勝手に消えるよ。大元が死ねば終わり、そういう生態なんだ」
「ふーん、そっか。じゃあこれが核じゃなかったらまだまだお代わりが来てたのか。ゾッとするな」
「はは、そんなまさか」
何かが降りてくる音。
「ギガカカカカカカ」
「ギガカカカカカカ」
「ギガカカカカカカ」
「ギガカカカカカカ」
「ギガカカカカカカ」
次々と現れる森の王。
「これはなんだ、メイ」
「……私が倒したのは核じゃなかったみたいだ」
※※※
高次元で盛り上がる2柱がそこにはいた。
「あーっ!! あったあったこんなの。序盤の超絶ファインプレー。森ごと飲み込んでるキノコを全部焼き払ったやつ。いやー、いちいち相手してたら死ぬだけだから大変だよね」
「今回はまんまと森の中で戦ってんだが。どうすんだこれ」
「んー、まず無理じゃない? だって相手の残機は数千あるし。今から森を焼いたら自分も死ぬし」
「詰んだか」
「詰んだね、普通なら」
「普通なら、か。なんとかなるルートがあるんだな」
「あるけどまともな人間には思いつかないかな。だってねえ、自分を犠牲にするのは1番最後なんだから」
「ま、そりゃそうだ」
※※※
まずいな、とてもまずい。
「全部倒せば……いやこの体じゃ体力が保たない。力尽きて死ぬ。じゃあ逃げる? 来た道は塞がれてる、つまり、終わり?」
メイも打開策を持っていないようだ。勝利のために必要なのは、相手の核を見つける事。
それを焼ければ全部終わりだ。だがどうやって見つける?
「ニア!! 危ないっ!」
危ない? 森の王はまだ遠くに。
「ギカ」
「どっから、出てきた!?」
いや、わかる。後ろのドームからだろう。だからと言って、回避が間に合うわけでも。
「ぐぅっ……ん? 避け、られた?」
なる、ほど。これはメイがやってた身体の動かし方。その初歩にあるもの、足のさばき方や力の抜き方、それが感覚で分かる。
メイの動きを見ていたから、その技術を得ていたのか。
待て、スキルツリー解放の自覚とか、アナウンスとかはないんだな。自分でやってみて初めてなんとなく分かるくらいか。こりゃ気づくまで時間がかかるわけだ。
「だからと言って、それで今の状況が変わるという訳でもないんだが!!」
でも、少しだけ時間が作れた。
「ギガカ」
「うそ、だろ」
もう一体は聞いてない。少しでもダメージを減らすしか、できない。
「つぅ……!!」
「ニア!!」
爪が腕をかすった。俺を攻撃した森の王はメイからの攻撃ですでに溶けている。
「攻撃を受けた箇所を焼くよ、菌がついてたらニアが呑まれる!!」
その声がやけに遠くから聞こえてくる。おかしいなそこまで離れていたわけではないはず、俺の意識が遠くに行きかけているのか。
待て、逆に感じるものもある。これは命令か、メイを攻撃しろ、取り込めという。
これが、核からの指令だとすれば。
「待て、もう少し、で、場所が分かる。そこを、焼け」
「ニアだめだ、取り返しがつかなくなる」
「この、まま、だと、2人して、すり潰される、だけだ。これなら、勝ちの目がある」
「いや、嫌だよニア、2度も君を失いたくない!!!」
「大丈夫だ、俺を誰だと、思ってる」
さらに声が遠くなる。それ以上に強く感じるものもある。あそこか。
あとは、それを伝えるだけだ。
「魔法の、矢」
目指すのはドームの斜め上のあたり、一件何もなく見える場所。そこから命令が来ている。
「あそこ、だ。焼け」
「ニア……、次やったら許さないから」
魔法の矢で示した場所に寸分違わず火が飛んでいく。メイを攻撃しろという、命令が消えていく。
「他のも動きが止まった。成功だ」
「うう……ニアのばかぁ、私がどんな思いをしたか分からないだろぉ……」
「これ以外なかった。まあ幸い俺が死ぬのはここじゃなかったみたいだ」
「ひっく……ひっく」
「や、そんな泣くなって。2人とも生きてるんだから」
「ぎゅってして」
「は?」
「良いからぎゅってして、痛いくらい抱きしめて早く!!」
「ええ……? まだそういうのは早いと思う」
「ヤダヤダヤダ!!! 今すぐにニアの存在を感じたい、じゃないとこれからずっと付きまとうから!!! お風呂の時とかも気にせず引っ付くから!!」
……もしかしてこいつ、めんどくさい子か?
「ああ、分かった分かった」
仕方ない、のか?
「えへへー、もっと強くてもいいよ」
「今のが精一杯だよ」
……こんなことがたくさんあるのなら、早く強くなる必要があるな。
▶︎第五話 俺は修行を始めないといけないかもしれないに続く
神のメモ書き
【森の王】
支配する菌類。彼らに善悪はない、ただ増える手段が破壊的なだけだ。王は消えても玉座は残る。次の王はいずれまた現れる。
BGM【王の傀儡は踊り狂う】
糸を張る音と共に紡がれる輪舞曲。機械的な繰り返しを多用する。
意思なき王よ、機構の如き王よ。それでもあなたは王なのだ。
(お願い)
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