第3話 俺は森の王に会うのかもしれない

森の奥深くにソレはいた。

静かに眠っているように見えるソレの内側では今にも溢れ出ようとするものが溜まり続けていた。


決壊すれば訪れるのは狂騒と激情。森から追い立てられた者達は恐怖のままに周囲を破壊するだろう。


森の王は暴君である。


だが、荒ぶる前に王を諌める者がいればあるいは。


※※※


とんでもない情報を聞いてしまった。


「どうすんだ森の王、前はどうした」

「前は私とニアで退治した。というか、森ごと燃やして焼き殺した。森は灰になったけどなんとかなったよ」

「わー、ストロングスタイル」

「今から焼こうか?」

「焼くなバカ!! 今から焼いたらただの放火犯でしばり首だ」

「うーん、じゃあどうしよっか。あんまり時間がないよ。私とニアが出会ってから3日で起きるから」

「3日って、今日含んでるか?」

「うん」

「実質2日しかねーじゃんか!! どうする、確証のない子供の戯言じゃあ大人は動かない。それじゃあもう道は」

「焼く?」

「焼かないよ? 焼いたら人生終わるからな」


 なんでちょっと嬉しそうなんだよ。


「うふふ、ニアがわちゃわちゃしてるの可愛い」

「……ずいぶん余裕そうだな。もしかして、解決策を持ってるのか」

「あるよ。私は前よりずっと強いから、今から森の王を見つけて倒せば何も起こらずに済む」

「倒せるのか」

「まぁ、言ってしまえば森の王は寄生キノコだから宿主を倒して火葬すれば別にどうという事もないよ」

「キノコなのか、熊とかじゃなくて」

「そうだよ。本体はキノコ、熊に寄生していることもあるけど」

「場所は分かるか」

「分かるよ。森の中で大きなキノコが足跡みたいに残るから」

「今からでもか」

「今は昼前だから夕飯までには帰れるよ」

「よし行こう、と言いたいところだが。俺はほとんど何もできない、足手纏いだから行かないぞ」

「私が守るから一緒に行こう」

「いや無駄だ、行っても邪魔になる」

「私が、守る、から、一緒に、行くよ」


 うわぁ、怖い顔。子供が出して良い圧力じゃないぞ。ああ、似たようなことがあったんだろうな。それが原因になって俺は死んだのか。


「分かった、行く。だけど本当に何もできないからな」

「大丈夫、ニアはすごいんだ」

「はー、未来の俺に期待してくれ」

「それじゃあ行こうか」

「あ、武器とかは要らないのか」

「んー? そんなの拾った木の枝で十分だよ」

「え?」


 30分後、俺の疑問への答えが出た。


「ほっ」


 木の枝を持ったメイが腕を振る。暗がりで俺たちを狙っていた獣が真っ二つになる。


「はっ」


 メイが転がっている石を蹴る。木の上で俺たちを狙っていた獣が弾ける。


「やっ」


 魔法陣のようなものが浮かび上がり、矢が放たれる。先にいた獣が串刺しになる。


 視界の悪い森をものともせず。メイは真っ直ぐに進んで行った。自信があるだけの事はあったようだ。


「強いな……」

「この歳ならこんなもんだね。ちなみに、ニアも矢なら出せると思うよ」

「出せねーって、魔法なんか初めて見たんだぞ」


 魔法はそこまで特別な技術ではない。だが子供が使うには危な過ぎるため一定の年齢になるまでは禁止だ。


 当然俺も使った事はない。


「でも今見たでしょ?」

「見ただけでできたら苦労しねーだろ」

「まあまあ、言ってごらんよ。魔法の矢って」

「はいはい言うだけならタダだよな。魔法の矢」


 銃の形にした指先から、さっきメイが撃ったのと同じ矢が出た。


「は? なんで?」

「それがニアの力だよ」

「真似する力か」


 コピー能力は最強格になりうる。思った以上に潜在能力があったらしい。


「違うよ」

「違うのかよ……」

「ニアはね、魔法でも体術でも初級の技なら見ただけ、聞いただけでなんでも使えるって言ってたよ」

「初級?」

「そう。その魔法とか剣技の基礎中の基礎だけって事」

「それは、どうなんだ? 強いのか」

「前のニアが言うにはこれに気づくのがあと10年早ければ英雄になれたって」

「本当か? 何か他には言ってなかったか。なんかよく分からん」

「えー、じゃあね。ニアはこう言ってたような。『すきるつりー? の1段目を開ける力』って」

「……!?」


 スキルツリーの1段目を開ける力、どんな技でも魔法でも、習得の入り口に立てる能力か。極論、学ぶことさえできれば俺にできない事はない。なるほど、時間があればあるほど強くなれる能力ってわけか。


 俺は別に凡人ってわけでもなかったんだな。


「はは、楽しくなってきた」

「でも無理はしないで。肉体的に不可能な事はできないし、魔法の負荷もあるから調子に乗ると大変な目に遭うよ」

「大変な目ってなんだ」

「ニアは自分の限界を超えて全身めちゃくちゃになった事もあったね」

「……何をしたんだ」

「古代魔法を使って容量不足で爆発しそうになったり、特異体質が前提の技を使おうとして自分の骨を砕いたりかな」

「なるほど、できるようにはなるが身体が追いつかないと壊れるのか」


 そりゃそうか。身の丈に合わないものは身を滅ぼす。まあ、逆に考えれば身の丈に合わない一発を撃つ事もできないわけではないという事かな。


「そろそろだよ。痕跡が大きくなってきた」


 目印にしていたキノコが随分と成長している。大人の背丈くらいあるな。ここまで来ると森というかキノコの回廊だ。


「この先だよ。準備は良い?」

「いつでも良いぞ」

「じゃあ行くよ」


 キノコの回廊を抜けた先には開けたドーム状の空間があった。その中心で丸くなっているのが居る。


「あれか」

「……妙だね、ここに入ればすぐ襲ってくると思ったんだけど」


 ガサリと何かが動く音。直感、こういう時は大概奇襲を受ける。


「上だ!!」

「え?」


 メイを押して、距離を作る。その一瞬後にそれは降りてきた。


「ギガカカカカカカ」


 操り人形のように気味の悪い動きをする大きな猿だ。


「こいつが森の王か」


▶︎第四話俺は森の王になるかもしれないに続く


神のメモ書き


【万能鍵】

スキルツリーをこじ開けるマスターキー。転生の際に与えられたチートスキル。

鍵の役割は2つある。開ける事、そして閉じる事。開けてはならぬものがある、閉じてはならぬものがある。だとしても、鍵を回す前には戻れない。


BGM【王の居る森】

風と虫、鳥が奏でる一曲。音量は控えめに、王の前では大きな音は立てられぬ。


(お願い)

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