第2話 俺は死ぬのかもしれない
「死なせないよ。絶対に」
「その物言い、前回はやっぱり死んだみたいだな」
「あ、ずるいぞニア!!」
「ずるかねえよ!? お前の情報管理がガバガバなだけだわ!」
ちなみに、ここは沈黙を守るのが正解だった。リアクションは絶対にしてはならない。未来の情報を与えた瞬間から運命は分岐して前回とは違う道になるからだ。
「あー、これでもうお前の未来情報は役に立たないぞ。もうお前の知ってる歴史じゃないからな」
「え?」
「嬉しそうな顔をするんじゃないよ。前回はそんなにひどかったのか」
「ひどいよ。語り尽くせないほどに」
顔に陰が差したな。直情型のコイツがこんな顔をするくらいだ。さぞかし無慈悲な世界だったろう。きっと血の匂いが取れないほどの闘いの日々だったに違いない。
それが少しでも良くなるなら、俺がここで2週目のコイツに会った意味はあるのだろう。
「ニア、これから私と一緒にいると戦いに巻き込まれる。ニアが嫌なら今すぐ逃げよう。私が守るから安心して、私強いから何も心配いらないよ。前は選ぶ事さえできなかったから、ニアに選んでほしい」
「そうすると、きっとたくさん人が死ぬな」
「それは……」
コイツは恐らくそういう星のもとに生まれている英雄だ。英雄が立ち上がらないとどうなるか、分かりきっている。無辜の人が死ぬだけだ。
しかもたくさん。数えきれないほどの、たくさんだ。
「死体の山の上で幸せになろう。そういう提案だぞ今のは」
「それでも、私はニアに生きていてほしい。生きていて、欲しいんだよ……」
分かっていたみたいだな、後ろめたいから顔を伏せるんだろう。だけど肝心なところを分かっちゃいねえ、英雄なら、欲張りにならなくちゃいけないだろうに。
どちらかじゃない、どっちもと言える奴だけが英雄になれるんだろう。
「どっちも欲しいとは思わないか、メイ」
「え?」
「お前は一度世界を救ったんだろう。そしてその上でまた始めたんだろう? なら欲張れよ、片方だけしか救えなかったのなら今度は両方救ってみせろ。俺を生かして世界を守るんだよ」
無責任な言葉だ。救われる側が本来言うべきではないんだろうな。でも言う。それで英雄が立ち上がるのなら多少の破綻は許して欲しい。
「ふふっ……なんだよそれ。無責任で、傲慢な励ましだね」
「悪いか、俺はまだ子供だ。こういう事を言っても許されるんだよ」
「ああ、そうだった。ニアはそういう奴だった。じゃあ決めたよ、私は戦うしニアも守る。そうだ、全部終わったらお嫁さんになってね」
「ん? 俺は男だぞ。なるならないは別としても婿じゃないのか」
「あ、そうだね。つい……」
ついって何だ。未来の力関係がなんとなーく察せられたぞ。え? 尻に敷かれるの? しかも結構強めに? 俺が?
「もしかして、そういう感じになったのか」
「え? あー、まあ、その、うん。ある時に私が限界を超えて……押し倒しちゃった。それでまあ、ね?」
「襲われたの俺!? 俺がやったんじゃなくて?」
「うん。私が組み伏せた」
「……マジかよ、なんかショック」
力では勝てないらしい。腕力で押し切られるくらいの差があるのか。
「えっと、可愛いかったよ?」
「あー!! 聞きたくないー!! 未来の俺が押し倒された後の話は聞きたくないー!!」
「思い出したらうっとりするね……」
「思い出すな!! ほおを赤らめるな!! 恍惚とした表情をするなー!!!」
なんだろうこの嫌さ、こんな思いをするとは思わなかった。
※※※
ところ変わって高次元、二柱の神はニヤニヤしている。
「で、実際どうだったっけ」
「何がだよ」
「あいつらの初夜だよ、良いムードだったか?」
「全然」
「だよなあ。だって勇者が初めて狂化してハイになったまま降りてこられない状態で貪られたからなアイツ」
「まあ途中から慈愛の表情で受け入れていたから満更でもなかったみたいだけど」
「違うって、ありゃ諦めの境地だよ。一旦精神を棚上げにしなきゃ壊れそうだったんだ」
「え、そうなの?」
「そうだよ、しばらく軽く触れる度に怯えてただろ」
「あ、あれって意識してた訳じゃなかったんだ」
「どう見ても草食動物の怯え方だったわ。普段に戻るまで1ヶ月かかってたぞ」
「あちゃー、今回はどうなるかな」
「焼き増しになるかもな」
※※※
まあ良い。それは先の話だ、もっと目先の話をしよう。
「で、直近で何か事件とか起きるのか? 早めに動けるなら動いた方がいいだろ」
「近くの森で王が生まれるよ」
「森の王様? それは悪い事なのか」
「うん。森からびっくりするほど獣が出てきて人が死ぬよ」
「大惨事じゃねえか!!?」
▶︎第3話『俺は森の王に会うのかもしれない』に続く
神のメモ書き
【狂化】
バーサーク。
狂える力は凄まじく、限界を容易く超える。
されど狂気に呑まれる事なかれ、飲み込んだ血の甘さは失った物の重さなのだから。
(お願い)
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