記憶の片隅 ~MANA KINASHI~
木梨茉奈。東ヶ崎学園高等部に通う三年。去年、高校二年年生の時、ある事件を起こした。季節は春から冬に掛けて。事件が大々的に取り扱われる様になったのは夏休みの終わり頃。数名の生徒が行方不明だと通報を受けてからだ。行方不明になった生徒たちはその後、無事見つかった。帰宅しなった理由は“潜在能力を試したかったから”だそうだ。一人では怖いが数人なら怖くないと集団で行方を晦まし、様々な方法で力試しをしていたらしい。
当の私はというと潜在能力を施した音楽を様々な媒体でばら撒いた。私の潜在能力は “私が奏でる音楽を聴いた者に催眠術を掛ける”というもの。“人々には潜在能力が宿っています”と謳っているが実際は人口の九割がその名前を聞いたことはあるが使う事は出来ない。潜在能力で翻弄された《そんな》世の中に何かしらの亀裂を入れたかった。
私が行動を起こした事で日本だけではなく世界にも混乱を招いた。時代と技術というものは素晴らしいと思った。だけど犯人である
そんな日中では生徒会や学園長のお陰で何不自由なく生活を送っている。だけど一つだけ恐ろしいと感じている事がある。それは “記憶が戻ってしまったら私はどうなってしまうんだろう”
昼間。クラスでは潜在能力の話で持ちっきり。そんなに潜在能力を知れたことが嬉しいのだろうか、人と言うモノが分からなくなる。けして人間不信なわけではないのだが、そう思ってしまう程に怖い。そんな思いが積り積もったせいか今日はとても体が重い。案の定、体調不良で早退をしてしまった。
■■■
「殺さない方法で茉奈先輩を助けます!」
「また友達になってね」
聞き覚えのある声。夏美さんだ。私が音楽をばら撒き始めたころ生徒会に入部した一年生。中途半端な時期に退学した一年生の女学生と仲が良かったらしい。本当かどうかは知らない。だけど実際、退学した後に生徒会に入ったのだから何か秘密があるのだろう。そもそも生徒会自体、曰くつきの部活動。“潜在能力のみを集めた部活動”。どういう基準で選抜されているのかは不明だけどそんな曰く付きの部活動に入部してしまうのだ、余程の理由があるとしか思えない。夏美さんの言葉に口が勝手に開く。こんな言葉発した記憶など無いのに。
目を覚ますとすっかり日が落ちていた。体を起こすと涙が溢れて止まらない。「知らない記憶なのに、どうして」と嘆く。最近は夢か今か、どちらが現実か分からない。暫くしてノックの音が聞こえる。
「おねぇちゃん、夕飯だよ、ってどうしたの?大丈夫?」
夕飯を知らせに妹の雪乃が部屋を訪れた。私の様子に雪乃は慌てた。一生懸命慰めてくれた。その意味を私は知らない。
■■■
『おねぇちゃんのことちゃんと相談した方がいいのかな、ここ最近ずっと元気がない』
悩んでいると親友の千晶からメッセージが届く。普段は雑談をするだけで終わるやり取り。千晶は雪乃の身近で茉奈の事件を知っている唯一の人物。意志を決めて茉奈の事を相談した。
「来てくれて嬉しいわ、夏美さん」
「いえ、最近、顔色が悪そうだと聞いていたので、大丈夫ですか?」
「体調が悪いわけではないの、その聞いてほしい話があるの」
「話、ですか?」
「ええ、どう話していいかわからないのだけど…。その、最近変な夢を見るの」
翌日、茉奈は学校を休んだ。夕刻、夏美が見舞いに来た。母親が夏美を茉奈の部屋に通した。二人になると茉奈は夢の事を話した。話すべきか悩む茉奈。だが“夏美なら大丈夫”と心の何処かで思ったのだろう、混濁した記憶で上手く話せなかったが夢の話を話し始めた。夏美は最後まで真剣に聞いた。話疲れたのか茉奈はそのまま眠ってしまった。
「喜結?あのね、茉奈先輩の事なんだけど…。うん、それは大丈夫みたい。夢で封印した記憶を見てるんだって。花束?これを飾ればいいの?わかった」
夏美は茉奈の様子を電話で喜結に相談する。話を聞いた喜結は綻びではなく混濁であると断定した。そして見舞いに行く前に夏美に預けた花束を茉奈の部屋に飾るように伝え、飾り終わったら帰宅するように伝えた。夏美は喜結に言われた通り花束を飾ると茉奈の家を後にした。
■■■
「あ、茉奈先輩。なんだが見違えるほど元気になってない?どうして?」
「
「なるほど…。って忘れてないの?どうして?」
「夢と現実を切り離しているだけと考えた方が早いかも」
「なるほど…。じゃぁ、あの花束は?」
「ああ、あれは珪に能力を使ってもらったの。少しでもリラックスしてもらおうかと思ってね」
「でもリラックスならアロマとかの方がいいんじゃないの?」
「形が残ると怪しまれる可能性があるでしょ」
「そっか、“過度に関わらない《そういう》”約束だもんね…。ん?このカードは?あ!」
「
後日学校で元気な姿の茉奈を見つける夏美。その様子に理解が出来ない夏美は喜結に理由を聞く。原因は周りの環境だと見解を示す。そしてあの日、茉奈の部屋に飾った花束は珪の能力を使い成長させた花。リラックス効果のあるものだという。アロマオイルでは駄目だったのかと聞く夏美に下手に形が残ると司との約束を破る可能性あったことを指摘した。その事を思い出し、納得した夏美に花の名前が書かれたカードを渡し、喜結は教室に戻った。それを見た夏美は満面の笑顔で茉奈の名前を呼び近づいた。
「あら、夏美さん。今日も元気そうね!そういえばこの前はごめんなさい」
「大丈夫ですよ、茉奈先輩!それに色々、溜め込むのはよくありません!相談ならいつでも乗りますから!」
「それもそうね。ところで母から聞いたのだけどお花を部屋に飾ってくれたんですってね。すごく素敵な香りがして気に入ったのだけど名前を教えていただけるかしら?」
「これをどうぞ!やっぱり茉奈先輩は笑っている方がいいです」
「カード?あら、ありがとう!」
茉奈との会話の中で喜結から渡されたカードを渡した。そのカードを見た茉奈は満面の笑みで礼を言った。そのカードにはある花の名前と花言葉が書かれていたからだ。
“ヒペリカム・アンドロサエマム”花言葉は「きらめき」と「悲しみは続かない」”
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