とある休日 ~NATSUMI AMANO~
「プリン~♪プリン~♪私のプリン~♪私のプリ、え?な、ないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「姉ちゃんうるさい!」
「春樹!」
とある日。天野夏美が楽しそうに鼻歌を歌いながら自宅二階の自室から出て、階段を下り、そのままキッチンへと向かう。上機嫌で冷蔵庫の扉を開ける夏美。平和かつ穏やかな日々で起きた摩訶不思議な出来事。鼻歌は突如悲鳴に変わる。なぜなら冷蔵庫にあるはずのプリンがなくなっていたのだ。その悲鳴を聞いて一人の少年が二階から降りてくる。すぐさま鬼の形相で春樹の名前を呼ぶ夏美。その少年は夏美の弟・天野春樹。十歳だ。
「な、なんだよ、姉ちゃん。怖ぇって」
「私のプリン、食べたでしょ!」
「は?プリン?しらねぇーよ」
「うそ!ちゃんと “夏美”って名前書いておいたもん!」
「だ~か~ら~!しらねぇーって」
「それが無いって事は誰かが食べたに違いない!白状しなさい、春樹!」
その姿に恐怖を感じつつも何を怒っているのか分からず理由を尋ねる。すると夏美は怒ったまま、なくなっているプリンのことを話す。あまりにもしつこく言う夏美に知らないと言い続ける春樹。だが、“プリン”を連呼する夏美に先程まで忘れていた出来事が春樹の中でフラッシュバックする。それは事件前日のこと。
■■■
「ただいま~母ちゃん、腹減った!なんか食うもんない?」
玄関で靴を脱ぎながらリビングにいるであろう母親に声をかける春樹。しかし返事はなく、変だと思いリビングへと足を運ぶ。案の定、母親の姿はなく“買い物に出かけてきます”と書置きがあるだけだった。
「たくしゃーねぇな。…冷蔵庫、何か入ってないかな」
呆れる春樹。相当、空腹に耐えかねていたらしい。冷蔵庫を開けるとそこには黄金色に輝くプリンがあった。あまりの輝きに春樹は唾を飲む。後の事など考える余裕などない。導かれるままプリンに手を伸ばした。一瞬の出来事。プリンの蓋を開け、一気に飲み干すようにプリンを食べた。勿論、名前が書いてあったことなど確認はしていない。小腹が満たされた春樹はごみを流しに放置して自室へと戻った。
■■■
「あ、あれだよ、姉ちゃん!妖精だよ!」
「妖精?」
「そ、そう!妖精!フェアリーだよ!きっとフェアリーが食べちゃったんだよ!」
昨日のことを思い出した春樹は再び夏美を見た。そこには今更謝罪しても無駄だと言わんばかりの仁王立ちの夏美。詫びるつもりがタイミングを失い妖精のせいにして難を逃れることにした。我ながら苦しい逃げ方だと思う春樹。いきなり妖精の話を出したことで俄かに信じがたい夏美。見つめ合う二人。春樹は額汗を垂らし俯く。同時に心の中で『頼むから信じてくれー』と精一杯叫ぶ。
春樹の必死な姿に泣いているのだと勘違いをし「そっか!妖精か!妖精が食べちゃったんなら仕方ないか」と春樹の言葉を信じた夏美。春樹の嘘に騙されてしまったのだ。夏美の発言に春樹は『馬鹿な姉で助かった』と安堵の息を落とす。
「信じてくれて嬉しいぜ!ねぇちゃん!」
「わたしも疑ってごめんね、春樹」
「ただいま」
誤解が解けた事で互いに謝罪する。誤解が解けたと仲直りをする二人。そこに買い物から母親が帰宅した。大荷物の母親に夏美と春樹は駆け寄り荷物運びを手伝う。買い物袋の中身を冷蔵庫などに片付ける夏美に母親が声をかける
「夏美、はいこれプリン」
「プリン?どうして?」
「昨日、春樹が食べちゃったでしょ」
「え、だってさっき食べたのは妖精だって…」
「また、春樹の嘘を信じたの…?全く、お人好しなんだから…って夏美?」
「は~る~き~く~ん?」
「ね、ねぇちゃん、ギャー!ごめんなさい!」
「待ちなさい!春樹!」
母の言葉に慌てる春樹。忍び足で二階に戻ろうとする。しかし、すぐに見つかってしまった。夏美は笑顔のまま怒りを露にして指を鳴らす。その姿は正しく鬼そのもの。その様子に『姉弟喧嘩も程ほどに』とため息をつく母親であった。
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